2−3 シークレットゲスト
案の定、鹿島さんと花井さんが首を傾げている。
福圓さんは主人公だから知っていて、相川さんも僕との関係性から即時に回答を書いていた。
「え、ノーヒント?」
「ノーヒントです」
「キャラ名全部なんて覚えてねーぞ⁉︎福圓ちゃんでも観客でも良いから答えくれ!」
鹿島さんが吉川さんに袖にされたことから観客席へと投げかける。
指名された福圓さんはあまりの直接的な答えにヒントを出せず、観客席でもヒントを言ってくれる人は少数。いや、あれヒントじゃなくて答えになってる。そうとしか言えないけど。わからない二人が声を拾いながらもそこから答えに行き着かない。
答えがわかっている壇上の三人は苦笑を隠せていない。もうさっきから「ゲイルの弟」と連呼されている。
「吉川さん、CVで正解にしてくれません?」
「ダメです。というか立ち絵と一緒に出てるので」
「あ、ホントだ」
花井さんの交渉も否定される。クイズの趣旨が変わってる。
相川さんがマイクを持ってヒントを渡す。
「『俺の弟』です」
「それはわかってるんだよー!だからなんとか・なんとか・アルタイルなのは知ってるんだけど、その前が全くわからん!」
「あー……」
常識で考えたらそうなる。それが答えから離れるとは誰も思わずに。
時間切れのベルが鳴る。一斉に答えを出すけど鹿島さんは「ミツキ・アルタイル」、花井さんは「マーミヤ・ニア・アルタイル」と書いていた。うーん、僕の名前を弄ってる。
そして二人が福圓さんと相川さんのフリップを見て困惑の声をあげる。
「え?なにそれ?」
「それ名前じゃないじゃん」
「では正解はこちら!」
吉川さんの言葉に反応してスクリーンに答えが出る。『ゲイルの弟』。こんなのファンとか関係者じゃないと答えられないでしょ。僕だって第一ルートのオスカー王子に仕えている執事の名前とかわからないもんな。オスカーにも『爺』って呼ばれてるから本名がほとんど出てこない。
それと同じくらいの難易度だ。特に第四ルートなんてほとんど『ゲイル』と主人公で話が進むために主要キャラでも僕の役や『ゲイル』に関わらないために台本でも名前を見なかっただろう。
その答えに二人は憤怒する。
「こんなの答えられるわけねーじゃん!誰だこの問題考えたの⁉︎」
「バーカバーカ!俺たちにフィギアくれる気ねーじゃん!」
「というわけで商品は没収でーす」
スタッフさんがフィギアを載せた台を片してしまう。それを悲しそうに手で追いかける声優陣。
うん、これ。渡す気なかった商品だ。他の問題次第かもしれないけど。
「一応説明をすると設定的に貴族の病弱な子は名前が与えられないんです。だから便宜上『ゲイルの弟』としか名前がないんです」
「そんな設定知らないからなー」
「うん。この問題は卑怯でしょ。俺と福圓ちゃんしか答えられないっしょ」
それからも問題は続く。「ゲイルの弟」以外は割と良心的な問題ばかりだった。結局十問やって福圓さんと相川さんは全問正解だった。
クイズコーナーは終わり、そこからはアニメの話に移っていく。
キャスト情報、スタッフ一覧。キービジュアルなどなどが発表されて、アニメの収録状況などがアニメのプロデューサーも登壇して話していく。
ようやく一話を収録するということで、まだ収録をしていないらしい。これは隣の菱木さんも言っていた。菱木さんのキャラはモブだけど出番が多いのでアニメの初収録のスケジュールが確保されているらしい。
僕はもちろん呼ばれていない。
今プロデューサーさんが話しているが、メインは第一ルートのオスカーを主軸にストーリーを展開しつつ他の攻略キャラのストーリーも進めつつオスカールートを終わらせ、ラストルートにも触れていくという構成らしい。
一期二クール構成。一クールだと全部はできないだろうからと夏から秋にかけて放送されるそうだ。
ゲームがアニメ化した際に二クールは珍しいらしい。ゲームが原作だと一クールものが多く、それも駆け足になるためにあまりファンからは喜ばれないらしい。予算の都合があるから基本は一期一クールのアニメが多い。
『パステルレイン』も『スターライト・フェローズ』も売れるとわかっているから最初から二クールなんて構成にできるのだろう。ライトノベルやゲームのアニメ化はほぼ一クールのみ。ゲーム原作だとクールじゃなくOVAとかで四話だけとかそういうことにもなる。
まあ、長くやる理由はわかっているけど、それをお客さんたちは知らない。ゆっくりやってくれて嬉しいなくらいだろうか。
プロデューサーを交えながら開発トークは進んでいく。あとは今日初出しの情報で、とあるコンビニとのタイアップ企画も発表された。対象商品を買うとクリアファイルがもらえるというもの。これはアニメが始まってからの話。
そんな情報で今日表向きに発表されていたイベントの内容は終わりだ。アニメのプロデューサーが退場してエンディングトークに移ろうとした時、進行の吉川さんがエンディングトークではないコールをする。
「ここで、本日のサプライズコーナー!『スターライト・フェローズ』特別情報発表会〜‼︎」
そんなタイトルコールと共にスクリーンが変わる。そんなタイトルに「キャー!」という声と一緒に拍手が起きる。
わざわざゲームタイトルで、アニメ情報ではないためにファンの期待値が上がる。
まだゲームが出て一年くらいで、出ているハードも最新の物。そのために移植ではないとはわかっている。となると
キャストは全員残ったままで吉川さんがゲームプロヂューサーである浜島さんが登壇した。さっきのアニメプロデューサーとは別の方だ。
その方が登壇して名前がスクリーンに表示された後、吉川さんが更に声を上げる。
「更に更に!サプライズゲストがまだいます!」
「おお〜!」
「早速お呼びしましょう!『メッシーナ・フルフェンス』役
「キャアアアアアアア!」
菱木さんが登壇した瞬間黄色い悲鳴が上がる。さすが菱木さん、人気だなあ。メッシーナの立ち絵と一緒に菱木さんがお辞儀をして挨拶をする。
「初めましてー。よろしくお願いします」
「そしてもう一人、『ゲイルの弟』役間宮光希さん!」
呼ばれて僕も登壇する。僕は全然有名じゃない無名声優だから僕にはそんな声が挙げられないと思うけど、さあ、どういう反応だろうと身構えつつ入ってみると僕の予想を遥かに上回ってきた。
「うわああアアアアア⁉︎」
「間宮君⁉︎」
「みーちゃんだああああ⁉︎」
あ、圧が凄い。菱木さんと同じくらいの声を掛けられるとは思わなかった。
ちょっと驚きながらも、僕も菱木さんに習って軽く挨拶する。
「皆様初めまして。『ゲイルの弟』役の間宮光希です。僕みたいな新人声優にこんな大きな声援をいただけて嬉しいです。今日はよろしくお願いします」
そう言ってもう一度頭を下げると、拍手をくださる。さすが『スターライト・フェローズ』のファンの皆様、僕のことも知っていてくださった。
そしてさっきのクイズコーナーでメッシーナと僕の役柄が出題された理由に納得がいったようだ。
僕たちの椅子が用意されてそこに座るように促される。
座ってすぐ吉川さんが僕たちの登場の理由を紹介してくれる。
「はい、お三方に登壇していただいた理由を発表しましょう!こちら!──『スターライト・フェローズ』
それがスクリーンに出て。キャストがマイクを持ちながら拍手を始めると。
今日一番の歓声で会場が揺れた。
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