第9話


「結局あのドワーフたちと会話するタイミングがなかったけど、大丈夫だったかな?」




 無事アクシデントから生還した俺とカルミアは蛮族王討伐までの準備期間として、今後の作戦を計画するために町で三日ほど準備を行うことにした。治療後はそのまま解散となってしまったので、テントから出る頃にはドワーフたちはその場から引き払っていた。衛兵から、あのドワーフパーティーが借りている宿を教えてもらったから、あとで心ばかりのお見舞い品として、安酒になってしまうが送っておくことにする。あの窮地を脱した仲だしな。




 しかし…今回でかなりの実力不足を実感させられた。襲撃をした賊程度に苦戦しているようでは、蛮族王とやらを倒すのは難しいのは火を見るより明らかだ。




そこで、まずは戦力となる仲間を増やすことが第一の小さな目標にする。同時に資金と装備の調達を行い、冒険者ギルドと呼ばれる場所で手頃な依頼を受けて戦闘経験を積む。冒険者ギルドの存在についてはカルミアから既に聞いているが、やっぱりこういう要素はワクワクする。目的の達成も重要だがレベルアップと寄り道、楽しむことも同じくらいには重要なのだ。討伐事態も今すぐにというお達しではないので、経験を積むことは問題がなさそうだ。




 カルミアは装備の調達があるとかで俺とは別行動をとっている。宿は衛兵が教えてくれたオススメの宿を借りたが後払いで良いとかで、かなり良い部屋を二つも貸してくれたのだ。ひとまずの住居は確保できたので安心である。そして俺が俺自身に課したミッションはカルミアが不在のこの一日で冒険者ギルドへ登録を済ませて、町の地理をある程度把握することと、ボロボロのローブを買い替えることだろう。ただ銀貨数枚程度しかないので値段チェックで冷やかすことにはなりそうだ。




 町を一人で歩いてみて改めて思う。転生?後は状況が状況だったから、あまり周りを調べたり楽しんだりする余裕が無かったが、周りを見渡すと全てが新鮮だ…。年季の入った西洋風建築物。自信満々に武器を持った戦士たちに怯むことなく、商魂たくましい者が見たことのないフルーツを売っている。




大通りでは何処からか明るい音楽が聞こえてくる。音を辿ると大きな広場に出た。広場では町のシンボルとして大噴水が設置されていた。噴水の中央にはどういう仕組みなのか全く分からないが、一つ三メートル以上ありそうなほどの丸い水晶体が、噴水を囲むように等間隔に三つ浮かんでいた。どんな場所でも新しい発見の連続。そんな町を見ているだけであと数十年は楽しめそうなくらいには、ずっと見ていたい気分だ。




あそこも見たい、こっちも見たいと足取りも軽くなるが、調子に乗って大通りを抜け、見覚えのない場所まで出てしまって迷ってしまった。




「う~ん、ここが魔法具店かなぁ?シールドウェストの町の地図はルールブックには無いんだよなぁ」




 綺羅びやかな大通りとは打って変わって、ややうらぶれた印象の裏路地に出てきてしまった。目の前には魔法の杖がディスプレイされている魔法店らしき建物がある。ちょっと入ってみよう。




「こんにちは~!」




鈴の音が鳴り俺が来店したことを部屋いっぱいに知らせるが、誰も出てくる様子がない。物色していたら誰か来るかとも思ったので、店に陳列されている商品を見る。




「すごい!これは魔法の杖かな…スターフィールド世界でデフォルト装備に該当しそうなものではないけど、オリジナル装備かな?」




ついつい夢中で展示されている杖や魔道具、ローブなんかを眺めてブツブツ呟いていると急に肩を叩かれた。




「君、ずいぶん詳しいネェ…?」




「ぎょわあぁぁっ!」




つい驚いて手に持っていた水晶玉のようなものを地面に落として盛大に割ってしまった!甲高い破裂音が場を支配していると声の主が静寂を打ち破る。




「あ~…、急に声をかけたアタシも悪かった。それもたいして高いものじゃないから気にしないで大丈夫ダヨ~?」




 全く気配がなかったがどうしてだろう。とりあえず謝ろうと思い、振り返って姿を確認する。一番の特徴は尖った耳だ。恐らくエルフかハーフエルフのどちらかだろう。服は正しく魔法使い系のクラスっぽい、黒で合わせたツバの広いとがった帽子とローブ。青髪を帽子からのぞかせているが、おろしているので長髪なのがわかる。身長は自身と比べても少し小さく細身。切れ長の目だがニコニコしており喋り方で独特のなまりがあり、話し方が帰国子女っぽい。エルフの言語と共通語が話せる場合はこんな感じの話し方になるのかな?




「こちらこそすみません。弁償したいのですが持ち合わせが少なく…お幾らでしょうか?」




「それは金貨一枚程度のシロモノだけど、今回はアタシが悪かったし、別にいいんだヨ~?」




「き、金貨…。持ち合わせが心許ないですね。お言葉に甘えたいところですが、何もしないというのもちょっと気が引けます…少々お待ちください」




 持っているお金は銀貨数枚程度だが、これでは同様の価値が示せないことは何となく分かるぞ。急いでルールブックを再度確認すると、お金は鉄貨、銅貨、小銀貨、銀貨、大銀貨、金貨に分けられており、それぞれ十枚で上位の貨幣に換算されるようだ。ある程度の手持ちの金額が把握できたところで売れそうなものがないか手持ちを確認していると店主が俺のルールブックを手に取った。




「これ…見たことのない本だ…魔法の発動触媒にしては市販されているどれとも一致しない作りィ~。何ならコレでも全然いいけド?あれ?中には何も書かれていない!…へェ~」




しかし…ずいぶん楽しそうにけらけら笑いながら本を調べている。魔道具や不思議な物が本当に好きなんだろうか。貨幣の説明項目を指さしているが何も書いてないように見えるらしい。店主にはルールブックの内容を見ることができないようだ。エルフがページをめくったりしてルールブックを調べていると、本は光を放ちエルフの手元から消えて俺の手元へ瞬間移動してきた。




「これは一体…どういうコト?」

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