宣誓

「ではー」


 そう言って掃除道具は部屋を出る。シーンとした空気が流れると思ったが、桜の歌いかけの音楽が、そのまま流れている。


「スゥッー」


「ちょっと待った」


 今にも歌い出しそうだったので反射的に止めてしまった。適当に続ける。


「さっきの女子多くない?って質問なんだよ」


「そのままだけど?」


「いや、別にそんなこと……」


「ギィィ♬バァガガ!!デバーーーン♪」


 タイミング悪くサビに入り桜が歌い出す、いや騒々しい機械音がカラオケBOXいっぱいに響く、もちろん俺の鼓膜にも響く。ちなみに歌詞は俺の心に響かない。


 その後も交互に地獄とカラオケを行き来するが、徐々に体力も削れ俺の点数も酷くなり始めた。このままだと過去最低点を更新してしまう。


「一旦休憩しよう」


「バラードってこと?」


「違うはボケ」


 こいつの中ではバラードは休憩に入るのか。まぁこいつのバラードも地獄だろうが。


「じゃあバラード行きます!」


「お前っ二回連続ってか話聞いてたか?」


 俺は急いで耳を塞ごうとする。だが歌い出しで驚いた。コイツっ……バラードめちゃうめぇ……


 さっきの機械音はどこはやら、小鳥のさえずりのように耳触りが良く、川のせせらぎのように澄んだ声。あっという間に曲が終わる。


「桜さんバラードだけ歌ってくれ」


 そんなこんなで3時間が過ぎた。まだ昼過ぎ。あの後はバラードだけだったので、俺も心が弾み、一緒に飯を食うことになった。


「ありがとうございましたー!」


 タワシに背中を押されて外に出る。そういやポテトフライ食ってねぇな。なんて思いながら一度俺の家に帰る。


「形君」


「なんだ?」


 桜が歩みを止める。そして俺の方を向く。


「私、あなたを惚れさせて見せる!」


 その目には見えない覚悟があった。なぜ急にそんなことを言い出したかは分からんが。良い気持ちだ。俺は思わず口を隠す。そして押さえられた口はこう言った。


「性別不明先輩……」


 なぜこう言ったのかは分からない。真上にある太陽は俺たちを高々と見下ろしていた。

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