ミ#03




「……さつきせんぱいっ……せんぱいっ……!」



意思に反して身体は一切動かせない。口も動かず声も出せない。


今まさにボクの目の前で男女2人が抱き合っていた。


貧相な身体で彼を貪る女。口元を大きく歪ませ涎を垂れ流しながら声を上げている。


長い前髪の間からチラリと垣間見える瞳がボクの視線と交差する。ボクを見下すように煽る瞳は完全に狂気に染まっている。



ああ、ボクは一体何を見せつけられているんだろうね。



まったく……脳が壊れてしまいそうだよ……。




◇◇◇




「あの女から回収した催眠アプリです。これで私の皐月先輩に触れた糞女全員を洗脳して連れてきてください」



言われて私に催眠アプリが入っているであろうスマホが手渡された。


見知らぬ男に縋り付きながらニコニコと笑っている上岡。その頬は僅かに蒸気し、身につける衣服が僅かに乱れていた。直前までお楽しみ、だったということだろうか。


こいつも男の為によくやるわね。まぁ、私には関係の無いことだからどうでもいいけど。



「5人全員連れてきたなら、この女を好きにさせてあげます」



上岡が指さす方を見ると、そこには虚ろな瞳で無表情に突っ立っている女が居た。


その女の顔を見て私の感情が瞬時に沸騰した。



「待て」



飛び出そうとして体が上岡の言葉で静止する。私は上岡の言葉に抗えない。



「行儀の悪い駄犬ですね。ご褒美はちゃんと言うことが聞けたら、ですよ?私の言うことが理解出来る頭が、まだあるなら、さっさと行ってください。それともただの操り人形として使い潰された方がいいですか?」


「…………」


「貴女の事はただの操り人形にするより、意思を残しておいた方が面白そうだったので飼ってあげてるだけです。勘違いしないでくださいよ?貴女は私の飼い犬です。飼い主の言うことはしっかり聞いてくださいね?」


「わかってるわよ」


「わかってるならいいんです。それではもう動いてもいいですよ」



上岡の言葉と共に体に自由が戻ってきた。


私は踵を返してその場を後にしようとすると、背後から上岡の声がかかった。



「ちなみに連れてくる過程で殺さない程度に『つまみ食い』ぐらいはして構いませんよ」


「つまみ食い、ね……ああ、それならもうしたわ」


「そうですか。やっぱり行儀の悪い犬ですね」



呆れたような声を背に私はその場を去る。


去り際に少しだけ後ろを振り返る。



「皐月せんぱーい!」



辛抱たまらないとばかりに上岡は私がまだ部屋から出ていないにも関わらず、見知らぬ男に絡みついて唇を重ねていた。


行儀が悪いのはどっちだか。


上岡が絡みつく男。見知らぬ男。上岡の男。


まったく知らない、これまであったことも無い男。


だけど、その男の顔を見ていると心がザワついた。










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