ミ#02



なくなった。


なくなった。


なくなった。


なにを?


わからない。


わからない。


わからない。



「あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ッッッッッ!!」



部屋にある物を手当たり次第にぶっ壊した。


わけも分からず、ただ何かを壊していたかった。


壊しても、壊しても、壊しても、何も無い。


両親は帰ってこない。父親は会社に泊まってる。母親は何処にいるかわからない。


でも私にはアイツが居るから何も問題は無い。いつも一緒に居るから寂しさを感じた事はあまり無かった。私にはアイツさえ居ればよかった。他の誰もいらなかった。アイツさえ。アイツさえ居れば。



アイツって誰?



私ってこれまで何して来たんだっけ?


ぽっかりと胸に穴が空いていた。いや、心そのものを何処かに落としてしまったかのように、なにもなにもなくなった。


何が何なのかわからない。片っ端から壊したガラクタを詰め込んでみても、私の心はスカスカでなにもない 。


わからない。ガラガラのこの心には何を詰め込めばいいのだろうか?


ふと脳裏を過る顔は幼なじみ、涼花。鬱陶しいバカ、夏雲。邪魔なクラスメイト、白井。偉そうな生徒会長、鳥乃。巫山戯た不良、鈴木。根暗オタク、上岡。


他にも知り合いは居るが、コイツらの顔が鮮明に思い浮かぶ。


そして、1番にアイツ。あの胡散臭いクソ女の薄ら笑いが私の脳裏にこびりついて、感情を焼き焦がしていた。


この奥底から湧き上がるドス黒い感情が何かはよく分からない。


分からないが、きっとコイツらを壊してバラして心の隙に埋め込んだのならば、満たされるのでは無いかという漠然とした確信がどこかにあった。


ああ、壊せそう。みんなまとめて壊したのなら、きっとこの心に空いた大きな穴は塞がってくれるはずだ。私の心はきっと元に戻るはずだ。



壊そう。




◇◇◇




「……うぅ……ゆる……じで……もぉ……やめで……いだいよ……だずげ……で……ざ……づきぃ……うぁ……」


「はぁ……はぁ……あはっ……あははハハハハハハハはははは八っ」



息が荒い。気分が高揚する。高ぶる気持ちに呼応して身体が燃えるように熱くなる。火照りが抑えられない。もっともっと壊してやりたい。


涙と鼻水でぐちゃぐちゃの表情。不様。苦痛をスパイスに恐怖で仕上げた肉料理。肉肉肉。これはただの肉。どうぶつのにく。生臭い。鉄臭い。失敗作。あらやだのんなもの食えたもんじゃないわ。捨てよ。ゴミゴミゴミ。生ゴミ。ただのゴミ。腕によりをかけて作った料理。苦労して作った料理を食わずにそのまま、ゴミ箱に叩き込む。爽快だ。もったいない。ダカラ気持ちいい。贅沢だ。あは、あは、あは。楽しい。最高に晴れやかな気分だ。



それに水を差すようにスマホが鳴った。



「邪魔すんじゃないわよ」


『捕まえました』



端的に告げられた言葉で私は瞬時に理解した。


どうやらメインディッシュの用意が出来たようだ。



「すぐに行くわ」



それだけ伝えて通話を切った。


眼下で蹲るバカを見る。コイツはどうしようか。どうせ動けないだろうから放置でもいいか。そうね。助けを呼べないようにスマホだけ壊しておこう。


むんずと髪をわしずかみ顔をあげさせる。



「うぇぁ……」



涙で泣き腫らし、何度も殴りつけて腫れ上がったぐちゃぐちゃの顔。



「……ごべん、ない……ごめ……んなざい……」



うわ言のように何かを口にしているが、何を言ってるのかは理解出来なかった。



「やっぱりアンタの泣き顔だけは好きになれそう」



バカの瞳に私の顔が映り込んでいる。


ああ、私ってこんな風に笑うのね。





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