―#10
「時に皐月くん。キミに浮気する予定はあるかい?」
「いや……無いですけど……藪から棒になんなんですか?」
とある日の放課後。不法占拠中の空き教室にて同好会の活動と称して会長と2人きりの時間。
不意に口を開いた会長は唐突に訳の分からない事を聞いてきた。
「皐月くん結構モテるだろ?」
「俺がモテる?いやいや会長が人生初めての彼女ですよ?何をどうしてそんな思考に至ったんですか?」
「そうは言うがね皐月くん。キミ、なんだかんだで周りに女性を侍られせてる事が多いじゃないか。ほら幼なじみの矢田美春だったり。義妹の涼花くんだったり。ボクと居る時以外はだいたい周りに女性が居ないかい?」
「侍らせてるって人聞き悪いなー。だいたい幼なじみと義妹でしょう?別に一緒に居てもおかしい所あります?」
「それにクラスメイトの聖女様と仲良く話してるところを見たが?あとはアレだね後輩の火之迦具土神くんと、この前、一緒に昼食をとっていたろ?それに極めつけは麻沙美ちゃんと乳くりあっていたね?」
「クラスメイトと話ぐらいしますし、鈴木は飯忘れたらしいかったから先輩として奢ってただけですし、それになにより鳥乃先輩とは誰のせいで関わる事になったと思ってるんですか?ええ?」
「ほら、皐月くん。キミ、誰彼問わず女生徒に手を出してるじゃないか」
「人聞き悪いなー。みんな友達でそれ以上じゃないですよ?俺の大切な人は真理さん1人ですから」
「そう言って絆てようとしても誤魔化されるボクでは無いよ皐月くん?ところで今度の日曜デートしないかい?綺麗で可愛い年上のお姉さんのボクが昼食ぐらいは奢ってあげよう?何処に行く?」
「ホントですか?ならいつものフルーツサンド食べに行きましょうか。なんだかんだ絆されてません?」
「ふむ、そこでボクの好物を提案してくるキミはやはりあざといね。絆されてないよ」
「会長の好きな食べ物が俺も好きなだけですよ」
「こうしてボクを誑し込む皐月くんではあるが。その彼の連絡先は男性より女性の方が多く登録されているのが現状だ。これは由々しき事態であると思うんだが、どうだろうか?」
「どうだろうかと言われてもたまたまとしか……っていうか、なんで会長が俺の連絡先の事を把握してるんですかね?」
「キミのスマホのデータを抜いたからだが?」
「個人情報ェ……」
「なに囁かな乙女心からの犯行だ。恋人の交友関係を把握しておきたいと思うのは至極普通の事だと思うんだが?」
「わからないでもないですが……言ってくれたら普通に見せますんで勝手にデータ抜くのやめてもらえます?」
「それでは事前に準備されてしまうじゃないかい?抜き打ちチェックは大事だよ。それとも何かな?抜かれて不味いものでもあったのかい?」
「ありませんよ」
「時に皐月くん。キミは最近ハーレム物の成人向け漫画をよく検索しているようだね。ところで皐月くん話を戻すが浮気する予定もしくは彼女を増やす予定はあるかい?」
「ぐっ……すぐに履歴は消した筈なのに……」
「甘いね。甘すぎるよ皐月くん。ボクの目から逃れられるとでも思っていたのかい?それで?寛大なボクはキミの無様に取り繕った弁明を聞きたい気分なんだが?最高に面白い解答を期待してるよ」
「複数の会長を侍らせられたら最高にハッピーだなと思いました」
「……キミは一体何を言っているんだい?」
「いろんな会長をまとめて楽しみたいと思いました」
「世の中にはまだまだボクに理解できない事が多く存在している。実に興味深い話だよ」
凄い微妙な空気になってしまった。
とりあえず今度からスマホでエロ本を見るのはやめようと思う。バレる。エロ本は現物で確保した方がバレなさそう。
普通、逆じゃね?なんて思った。
「もし会長がもう1人現れたら浮気してしまいますねー。他の誰にも会長を渡したくないので」
「なるほど。最大の障害は自分自身か。流石のボクも自分と相対することになれば勝率は5分と言った所だね。どういうわけだね?」
「さあ?」
「兎にも角にも皐月くんには浮気の予定あり、と」
「まぁ、そういうことになってしまいますね」
「ヨシならば性行為しようか」
「なにがどうして「ヨシならば」なんでしょうか?」
「もしもの可能性を考慮して初体験は早々に終えておくべきだと思うのだよ。皐月くんも経験はまだだろ?」
「それはまぁ……そうですけど……」
「やはり初めての経験は貴重なものであると思うわけだ。そしてボクはキミの初めての相手でありたいし、ボクの初めての相手はキミであって欲しい。浮気予定ありのキミがボク以外の女性と初体験を迎えてしまうのは耐え難いものがある。あの時さっさと手を出していればと後悔したくは無いのさ」
「いやだからってそんな急に……そういうことは然るべきタイミングで……」
「逆にだ、皐月くん。ボクは見ての通りの絶世の美女だ。そんなボクが何者かに無理矢理襲われ処女を散らしてしまう可能性も無くはないと思わないかい?」
「そんな事は……絶対、させない」
「まあまあ落ち着きたまえよ。僅かばかりの可能性しかない例え話だよ」
「しましょう」
俺は会長の手を握りしめて真っ直ぐ見つめて、はっきりと力強く宣言した。
いつも飄々としている彼女ではあるが、この時ばかりは平然を装いつつも、ほんの少しだけ顔を赤らめていた。
「もう少しごねられるかと思っていたんだが、あっさり堕ちたね」
「俺は真理さんの初めてが欲しい。それに俺の初めての相手になって欲しい。気持ちは一緒なんですよ」
「ふぅ……全くキミと言う奴は……」
「とりあえずここじゃなんですし。場所を変えましょう」
言うが早いか俺は荷物を手に立ち上がり。空き教室の出口に向かった――のだが……。
「アレ?扉が開かない?鍵は……閉まってないよな?なんで?」
不思議な事に教室の扉が押しても引いてもビクともしない。
これは……まさか……。
俺は振り返り会長に問いかける。
「会長……なんかしました……?」
「皐月くん実はね。ボクは最近面白いモノを開発してね。催眠アプリというものなんだが」
「催眠、アプリ……?それってその……よくエロ本でネタにされるような?アレですか?」
「まさにそのアレだ。それを少し試したくてね。こっそりキミに少しばかり催眠をかけさせてもらっている」
「アンタって人はまたなんつー事を……」
「まあ、まだ試作段階でね。そんな大層な催眠を施したわけじゃない。実に軽いものだよ。キミの事を教室から出れないようにしただけだ」
「それはまた微妙な……とりあえず実験は成功みたいですから、その催眠さっさと解除してもらえません?」
「それは無理だ。なんせ催眠アプリは教室の外に置いてきた。そしてボク自身にもキミと同じ催眠を施してある」
「は?それじゃどうやって部屋の外に出るんですか?」
「この催眠はある行動をトリガーとして解除されるように設定してある」
「その行動っていうのは?」
「性行為だ」
「…………」
「つまりセックスしないとボクらはこの部屋からは出れない」
なるほどなー。つまりはアレか会長は最初から俺がどう出ようともヤル気まんまんだったということか……いやまあ少し嬉しいけど。
「喜べ、皐月くん!実験は成功だ!催眠アプリにより擬似的ではあるが「セックスしないと出れない部屋」を再現する事が出来たぞ!」
「わぁ(棒)」
「キミこういうの好きだろ?」
パチリと片目を瞑りウィンクしてみせる会長。
悪戯が成功した悪ガキの様に無邪気な笑顔。
ホントこの人は……時たまにビックリするぐらいアホになるんだよなぁ……。
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