end 花園真理の望む夢




『夢ならば醒めないで欲しい』



誰しも1度は思った事があるんじゃないかい?


ボクもまったくもってその通りだと思うんだ。


夢ならば醒めない方がいい。楽しい事はずっと続けばいい。幸せは終わらなくていい。


エンディングなんてモノ存在しなくていいんだよ。


そうは思わないかい?思うだろ?愉しい物語は終わること無く永遠に続けばいいのさ。そう永遠にね



「人生とは人それぞれ十人十色、異なっている」



やる事なす事全てが全て上手く行き、幸せな人生を送る者も居れば、何もかもが上手くいかなくて不幸な人生を送る者も居る。


それは個人によって異なる事だ。


しかし、しかしだ。


人は誰もが必ず経験している幸せだった時間が存在している。



「ココだよ。ココ」



言って会長は自分の下腹部を指さした。



「世界に生まれてくる前……そう母親の体内、子宮に居る時だ。この時ばかりは誰しもが平等に幸せを教授しているんだよ」



母に守られ、何の不安も心配も無いその場所で人は幸せな夢を見る。



「人は生まれた時、産声をあげるだろ?何故、泣くか分かるかい?」



呪っているんだよ。



この世に生まれ落ちてしまったことを。


苦痛に嘆き、悲しんでいるんだ。幸せな夢から醒めてしまった事を。


夢から醒めたくなんてなかったんだ。あのまま母に守られて幸せな夢を見続けていたかった。


だから人は生まれた時に泣くんだ。



「夢から醒めることは苦痛に他ならない」



会長は自分のスマホを取り出し掲げて見せる。



「事の真相を知ったキミらだが、まだ理解出来ない事があるだろ?ただ人を思いのままに操る元来の催眠アプリ――その催眠アプリに改良を加えた物。そうボクがキミらに配った催眠アプリだ。ボクは何故こんな物を作ったと思う?」



それは人と人との意識を繋げて、同じ夢を見ることが出来る催眠を施すアプリ。


確かに根本的な問題として、なんでこんな物を会長は作ったのか?という疑問が残されていた。



「理由は単純明快。ボクはね。永遠の命が欲しかったんだ」


「……はい?」



永遠の……命……?



「おっと、何を馬鹿げたことをと思ったかい?全くもってその通りだ。実に馬鹿げた願いだろ?だが狂気の科学者的に見れば随分とその名に相応しい願いだと思わないかね?」


「まぁ……言われてみれば……頭のおかしい科学者が血眼になって永遠の命を求める……なんて話は割とよくある話な気がしないでもないですね」


「だろ?ボクはね。今、幸せなんだ。まるで夢のような幸せの中に居る」


「幸せ……?」


「そうだよ、皐月くん。ボクはキミと過ごす日々が幸せで、幸せで、愉快で、楽しく。何よりも大切で掛け替えの無い時間なんだ」


「それはどうも……なんか嬉しいですね」


「だからだ。この幸せな時間を終わらせたくなんかない。幸せだからこそ先を想像してしまった。そして1つの結論が出る『死』という壁がボクらの前に立ちはだかるんだ。いずれはこの幸せな時間は終わってしまう。それが怖くなった。終わらせたくなんかない。ボクは明確な死への恐怖に囚われてしまった。死にたくなんかない。永遠に生き続けて、この幸せを味わい続けていたい。だから求めたんだ。永遠の命を」


「でもそんな永遠の命なんて……無理でしょう?」


「そうだね。永遠の命なんてモノはやはり創作物の中だけのものだ。どうしたって肉体的な死からは逃れられない。しかし、ボクは考え、至った。肉体は滅んでしまうが精神ならばどうだろう、とね。それで作りだしたのがこの催眠アプリの改良型だ」


「それって……つまり……」


「なんとなく察したかい?そうさ。この催眠アプリで2人の精神を繋ぎ合わせて、夢を見る――そうんだ。それでもって擬似的に永遠の命を再現するんだよ」


「いやいや待ってください?そんなことをしても根本的な問題の解決にならないでしょ?夢を見たとして身体の方はどうなるっていうんです?」


「なに心配することは無い。この催眠アプリを使ったならば身体に何があったとしても決して目覚めることは無い。まぁ、こればかりは試すことは不可能だからね。不確定な要素を孕んでいないと言えば嘘になってしまう。しかしだ。皐月くん」


「……なんでしょう?」


「2人の愛の力ならばなんとかなるとは思わないかい?」


「なんか最後凄いアホみたいな理由のゴリ押しになったんですけど……」


「愛する彼女にアホとは失礼だね、まったく」


「いやだって……ねぇ……」


「そういうわけだよ皐月くん。2人で一緒に行こうぜ。辛いことも悲しいことも苦しいことも何も無いただただ幸せなだけの終わることの無い永遠の夢の世界に。肉体は滅んだとしてもおそらく魂で2人混じりあってひとつになることだろう。そこで2人きりで愛を語らい永遠の時を過ごすんだ。こんな素晴らしい事って無いだろ?」



確かにそれは魅力的な提案ではあった。


夢の世界に旅立ったあと体が死んだらどうなるかという恐怖はあるにはあるが。


浮世を捨てて会長と2人でひとつになる……なるほどこれが俺に対する罰、会長以外の全てを捨てる事であり。また同時に愛する会長と永遠を過ごすというご褒美である、ということなのだろう。




「さあ!皐月くん!ボクと一緒に死んでくれ!」


「普通にイヤですけど?」



即答した。



「…………」


「…………」



沈黙が流れた。



「…………」


「…………」


「理由を……」


「理由を?」


「理由を……聞いてもいいかい?」


「はぁ……いいですよ」



ひとつ大きなため息をして俺は理由を語った。



「正直な話。真理さんと死ぬのが嫌な訳では無いです」


「それは助かる」


「だけど、それ使う必要あります?」


「どういうことかな?」


「俺らまだ高校生ですよ?不慮の事故にあったりしない限りはこれから死ぬまで何十年と時間が残されてるんですよ?それを今このタイミングでぶん投げてやる事じゃないでしょ、コレ。何考えてるんですか?馬鹿なんですか?使うとしても歳とって死ぬ間際とかでいいんじゃないですかね?」


「…………」


「そこら辺はどうなんですか?何か今使わないと不具合でもあるんですか?」


「…………」


「ちょっと黙ってないで何か言ってください?」


「…………」



何を思ったか、会長は手を顎に当てて考え込む素振り。


そしてキャスター付きのチェアでくるくるくるくると回り始めた。


しばらく回ったあとでスチャリと止まり。


右手をグー。左手をパー。


グーをパーに振り下ろし、ポンっと擬音をならして会長は言った。



「確かに」


「確かにじゃねーよ」


「これは盲点だったね。確かにこれを今使う必要は無いね。後からでも問題ないじゃないか。むしろ後から使う方が全然いいじゃないか。いろいろと経験を積み重ねてから使った方が精神世界の厚みも増す事だし。いやはやまったく恋は盲目と言うが、こんな簡単な事にも気が付かないとはボクも大概どうかしていたようだ。まったくそれもこれも皐月くんがボクを夢中にさせるのがいけないんだぜ?キミって奴はホント罪な男だね。この天才美少女のボクを骨抜きにして思考を鈍化させるとは侮りがたい事だ。ははっ、参った参った」



ぺちゃくちゃと会長は早口で捲し立てる。表情は変わらないがこれは恥ずかしがってるな間違いない。



「はぁ……じゃぁもうこの話はこれで終わりでいいですかね?」


「そうだね。もう特に話すことは無いかな」


「それじゃそろそろ帰りますよ?」


「いやいや皐月くん?こうして会うの久しぶりなのだからもう少しゆっくりして行ってもいいんじゃないかい?」


「言われてみれば確かに……そうですね。もう少しゆっくりして行きましょうか」


「うむ。それがいい。それでは皐月くん。いつもみたいにギューってしてもらってもいいかい?」


「はいはい」



両手を広げて俺を待ち構える会長を俺はめいいっぱい抱きしめた。


久しぶりの会長の感触に懐かしさが込み上げてくる。



「ふふふっ……すっかりご無沙汰になってしまっていたからね。今夜は寝かさないぜ?」


「ははっ……お手柔らかにお願いします」



そう幸せを噛み締めていると、どこからともなく……というか主に背後からゴゴゴゴゴッと物凄い圧力を感じた。


ギチギチと錆び付いた玩具のように首を動かし背後を確認すると俺たち2人を睨みつける5つの視線があった。



「随分と仲が良いようですね皐月くん」


「兄さんのそんなデレデレな姿初めて見ましたよ私」


「私らをほったらかして何をイチャついているんだオマエらは」


「サツキのアホっ!ボケっ!雑魚!くたばれ!」


「……いいなぁ」



怒りでわらわらと震える、俺が手を出してしまった美少女5人がそこに居た。



「と、とりあえずみんな落ち着こ?」


「落ち着けませんよ!何かいい感じで終わらせようとしてますが、話は何一つ進んでないですからね、皐月くん!」


「そうですよ兄さん!私達の事は一体どうするつもりなんですか!?しっかり責任とってくれるんですよね!?」


「ええい!そのクソ女から離れろ皐月きゅん!そいつは!そいつだけはダメだ!皐月きゅんのハーレムにその女はいらない!捨てろ!」


「クズっ!カスっ!ゴミ虫っ!腐れちんぽっ!」


「俺も皐月とあんな感じでふわふわしてぇな……俺も抱きしめてもらって……それでもって……(にこやかー)」



みんながそれぞれギャーギャーと喚き立てる。


これどうしようね。もうホント収集がつきそうにないね。



「ふむ、皐月くん」


「なんでしょうか?」


「逃げようか」


「そうですね」



俺は抱きしめていた会長をお姫様抱っこすると、するりと会長の腕が俺の首に巻き付く。


俺と会長は一目散にこの場を逃げ出した。



「あっ、ちょっ!?皐月くん!何処に行くつもりですか!?」


「逃げようたってそうは行きませんよ兄さんッ!」


「追うぞ!絶対に逃がさんぞ皐月きゅん!なんとしてでも捕まえて身ぐるみ剥いで犯してやるっ!」


「僕から逃げられると思ったら大間違いだからねサツキ!」


「寄せよ皐月ぃ。そんな言ったって何も出ねぇぜ?そうだな俺も大好きだよ……えへへっ……ん?なんだ?どっか行くのか?俺も行くぜ!」



ドタバタとみんながそれぞれと走り出す。



「ははっ!キミらに捕まるほどボクらは甘くないぞ!捕まえられるものなら捕まえてみるといいさ!」


「ちょっと真理さん!黙っててください!舌噛みますよ!」




こんな日常がこれからも続いていくのかな、なんて俺は思うのであった。










催眠アプリを手に入れた恋する乙女がスマホの画面を見せてくる~完~






読者の皆様!ここまでのご愛読大変ありがとうございました!


本編はこれにて完結になりますが、もう少し(?)だけ続きがあります


ここから先を読むか否かはお任せ致します!


私は一切の責任を負いませんので自己判断でお願いしますね!


それではまた次回!




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