2#45 付き合うつもりが無いなら



ぎしりぎしり、とベットが音を立てていた。


服の上からでもわかる聖歌ちゃんの至高とも呼べるソレは脱いだらもっと凄かった。極上を通り越して究極と表現出来るものはあまりにも魅力的で、これをデザートと称して味わうには勿体無いとさえ思う。一生に1度、食べられるか食べられないかの超高級料理だと思って遜色ない。それを俺は隅から隅まで余すことなく味わえるというのだから贅沢がすぎる。俺はおそらく今世の運を全て使い果たした。


聖歌ちゃん、しゅごい(壊滅的な語彙力消失)。



あまりにもあっさりと聖歌ちゃんの誘惑に屈してしまった。


今までは最後の一線は越えるまいと頑なに思っていたのが嘘のようだ。


聖歌ちゃんの様子がおかしくて怖かったというのはある。余計な事はしないで流された方がいいと思ったのもある。聖歌ちゃんに誘われたからというのもある。


だがしかし、最後の一線を越えてしまったのは確かに自分の意思だ。それらは結局言い訳に過ぎない。俺は自分の意思でもって聖歌ちゃんを抱いた事を誤魔化す気は無い。


昨夜は一晩中カズとまぐわったが、そこに好きとか愛してるとかいう恋愛的な要素があったかといえば微妙な所だ。


俺とカズは普段通りに遊んでいる感覚が抜けきらず、その延長線上で快楽を求めあったという気持ちがあまりにも強かった。


カズとの行為をただの遊びだったと切り捨てるつもりは無いが、恋人同士の甘く切ない事情では無い。カズの事は好きではあるが、恋人かと言われると首を傾げる。カズとはやはり親友で、親友だからこそ身体を許しあえたという、なんとも奇妙な感覚があった。


アホの突飛すぎる行動で軽々と越えてしまった最後の一線。


直近でそのような経験をしていて、その思考が抜けきらず抵抗感が薄れていた。



「さつきくん……愛してます……」



聖歌ちゃんは熱い吐息を洩らした。


聖歌ちゃんに溺れ、快楽を求める事しか考えられていなかった頭が唐突に冷静になる。聖歌ちゃんの奥底までに流れ込んでいた思考が引き返してきた。



現状、かなり不味いのでは?と。



付き合ってもいない(?)のに2人の女の子と致してしまったという事実が襲い来る。


『責任』という言葉が脳裏を過ぎった。


こうして肉体関係に発展した以上は責任をとらねばならないのは間違いない。しかし、こうしていても、俺の中で『付き合う』という選択がまったく湧き上がってこない。


恋人同士になる気がない。


だったらどうするのか?1度きりの誤ちとして切り捨てるか?身体だけの関係だと言い逃れるか?まってそれどうしようも無いクズなんだけど。いや連続で2人の女の子と致している時点でクズは確定だけど。というかなんだったら2人だけに収まってない可能性もあって、俺は何人の女の子と関係を持っているのか定かじゃない。


あれやこれやと思考がぐるぐるぐるぐる。まったく考えがまとまらない。



「さつきくん……デザートのおかわり如何ですか?」



俺の思考は一瞬にして蒸発した。


彼女の求めるがままに、自分の本能の赴くままに、俺はデザートのおかわりを食い荒らした。




◇◇◇




気がつけばお昼になっていた。


部屋の惨状を目の当たりにする。


脱ぎ散らかされた衣服とか、ナニをしていたかがありありとわかる色んな物が散乱している。


その中で一際、目に付いたのは『血』の後だった。



「聖歌ちゃん、処女だったの?」


「ちがいますよ?」



キョトンと首を傾げる聖歌ちゃん。


違うとは言うけどこの血は明らかに初めての奴だと思うんだけどなぁ……。



「皐月くん……その事で実は、私、皐月くんに謝らなくてはならないことがあるんです……」


「謝ることっていうと……もしかして催眠アプリの事……?」


「……ッ!?そ、そうなんですけど……皐月くん、催眠アプリの事、知ってたんですか……?」


「まぁ、いろいろあってね」


「そうですか……皐月くん……ごめんなさい……私、皐月くんの事が好きで……我慢できなくて……催眠アプリ使ってしまって……それでその時に私の初めてを……」


「そっか……いいよ。こうして反省して素直に謝ってくれるなら、それ以上とやかく言うことは無いかな」


「皐月くん……」


「あ、でも、催眠アプリは消してね」


「はい。もう必要ありませんし、ちゃんと消します!」



力強く宣言する聖歌ちゃん。素直でいい子だ。まぁ、催眠アプリを使ったのもホントに魔が差したってだけだろうから、もう大丈夫なはず。


というか気がつけばすっかり元通りになってる。不必要なまでににこにこしてない。


アレ……ホントなんだったんだろ……。



「あの……皐月くん?もし、もしもの話なんですが……皐月くんは私以外の人から……告白、とかされたらどうしますか?」


「告白されたら、か……そうだな。その時はしっかりと断るよ。俺は誰とも(誰とも)付き合う気は無いから」


「あっ……はいっ……!やっぱり、そうですよね!そうなんですよね!皐月くんは(私以外の)誰とも付き合うつもりなんて無いですよね!」



やったった後にこの発言はどうかと思う。かなりどうかと思う。驚きのクズ発言ではあるがしっかり伝えとかないとならない。


ああ、こっから先なんと説明しようか……と思案していたら、何故か聖歌ちゃんはにまにまと笑顔を堪えきれずに嬉しそうにしている。



「せ、聖歌ちゃん、なんか嬉しそうだけど……どうしたの?」


「いえいえ!なんでも無いですよ!」



言いうや否や聖歌ちゃんは俺の腕へと飛びついてきた。



「あ、あの……聖歌ちゃん……これは?」


「……ダメですか?」



上目遣いで俺を見つめる聖歌ちゃんに俺は思わず顔を背ける。



「ダメでは……無いです……」



ど、どうしてこうなった?なんで聖歌ちゃん嬉しそうにしてらっしゃる?


ぐいぐいと押し当てられる凶悪なソレに否が応でも、先程までの行為がフラッシュバックしてムラついてしまう。


なんかいろいろどうでもよくなってきたなぁ……。



「あ、そういえば皐月くんに書いてもらいたいものがあったんです!」


「書いてもらいたいもの?」


「はい!」



言うや否や聖歌ちゃんはどこからともなく1枚の紙とペンを取り出した。いやほんと何処にあったのそれ?



「それじゃここにサインお願いしますね!」



にこやかに差し出される1枚の紙には『婚姻届』と書いてあった。



「にこにこ」



なるほどな。付き合う段階を飛ばして結婚すればいいと。これは盲点だったなー。




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