2#12 犬



「……――というわけで我々全員が日替わりで皐月きゅんを好き勝(ゲフンゲフン)制裁を加えていくとしようか」



土曜の夜、皐月の恐喝及び強制わいせつが発覚し、それを断罪すべく私達が日替わりで私刑を執行する事になったわけだが。



今考えてみるといろいろとおかしい気がしてならなくなった。



あの時は生徒会長に上手く丸め込まれてしまったが、よくよく考えればツッコミどころが満載である。


まる1日、制裁と称して皐月を好き勝手に出来ることと、それに


「ちなみに当日の担当者以外は一切の手出し禁止と行こう」


他のメス共の邪魔が入らないという好条件に目が眩んで了承してしまった。


が、改めて考えてみれば好条件でもなんでもない。


そもそもの話、皐月は私の彼氏(ではない)だ。それなのに何故、他のメスに自分の彼氏(ではない)を好き勝手にされなければならないのか?


確かに私にも催眠アプリを皐月に使った負い目はあるし、泣きながら土下座する生徒会長の姿に思うところがあって同情もした。


それで隙を見せた結果、こうしてなあなあでよく分からない状況に持ち込まれた感がある。


こうして考えてみると、もしや生徒会長の土下座も演技だったのでは無いかと疑いの目を向けたくもなっていた。これはもしかしてしてやられた?


そんな具合でいろいろと意義を申し立てたくなってきたのだが、1度、了承してしまった手前、今更喚き立ててギャーギャー文句をつけるのも格好がつかない。カズじゃあるまいし。


正直、不満しかなかったりするのだが、こうなってしまっては致し方ない。


私は私で自分の私刑担当日を楽しむことにしようと思った。



皐月をまる1日好き勝手に出来る、か……いいわね(ニチャァ)




◇◇◇




逸る思いが逸りすぎて私は日も出ておらず、まだ薄暗い早朝に皐月の家に突撃をかけた。


皐月ん家の鍵は持っている。この前、借りてそのままパクった鍵だ。皐月に返せと言われたが鍵の代わりのお返しに腹を殴って黙らせた。返す気は無い。借りパクだ。



勝手に部屋に上がり込んで皐月の元へ。


ベットの上ですやすやと寝息を立てる皐月がいた。



(ムラッ)



皐月と初めて体を重ねてから数日がたった。あの日の夜の事は数日経っても、ついさっきあったことのように脳裏に焼き付いている。


ぶっちゃけ皐月と毎日したかった。


だがしかし、あれ以来、いろいろと邪魔が入るし、なんだりで、まともに2人きりに慣れる状況が皆無。


折角、長年の想いが叶って皐月と心を通じ合わせることが出来たというのに、あんまりにあんまりな話では無いだろうか。



そりゃ多少ムラッついてもおかしくないと思う。



今日は誰の邪魔は入らない(予定)し、私の言うことなす事、全てに皐月は従わなくてはならない。


まぁ、そんな事は関係無しに既に私と皐月は付き合ってる訳だから(訳では無い)、何をしようとも私の自由だ。



とりあえず皐月の寝込みを襲った。




◇◇◇




本日は月曜日、朝からご満悦(意味深)の私は皐月を引き連れて登校する。


隣を歩く皐月の歩き方がぎこち無い。



「アンタ……なんかしたの?」


「いや昨日、頑張りすぎて筋肉痛で……」



頑張りすぎて筋肉痛?昨日は私刑初日、あのヤンキーの日だ。


ヤンキーなんてもれなくクソビッチだ(偏見)。性欲の塊で誰彼構わずヤリまくりだ(偏見)。あのヤンキーも例に漏れず性欲の強そうな顔をしてる(偏見)。


まさか休みなのをいい事に皐月とまる1日ヤリまくってたわけじゃないでしょうね……?



「昨日はあのクソビッチヤンキー何してたのよ」


「クソビッチって……鈴木はそんなんじゃないと思うんだが……死ぬほど走り込みと筋トレさせられた」



長年連れ添った経験で皐月が嘘を言っていないことは容易に見抜けた。


しかし、嘘ね。


おそらくあのクソビッチヤンキーは催眠アプリを使って皐月に偽の記憶を埋め込み、本当はまる1日朝から晩までパコっていたに違いない。間違いないわ(間違いしかない)。


だって、好きな相手を好きに出来るのに何もしないわけがないもの。


おのれクソビッチヤンキーめ。私の皐月を好き勝手にして……やっぱりこんな事にするんじゃなかったわ。今度、あのクソビッチヤンキーは締め上げるッ……!


まったくそれにしても皐月も皐月よ。あまりに無防備に催眠アプリにかかりすぎるわ。そんなんだから私以外のメスに好き勝手されるのよ。


これは誰が皐月の所有者であるかを明確にしておかないとならないわね。



「皐月、アンタは今日一日これ付けて過しなさい」


「あ、あの……美春さん?これってその……」



私はカバンから取り出した『首輪』を皐月に手渡した。



「えっと……マジでコレつけるの?流石にコレ恥ずかしいんだけど……」


「なんか文句あんの?」



ギンっと皐月をひと睨みしてやると、皐月はビクンっと体を震わせて背筋を伸ばした。



「いえ!なんの文句もありません!付けさせていただきます美春様!」


「よろしい」



いそいそと皐月は私が渡した首輪を自分の首に巻く。



「あら、なかなか似合ってるじゃない」


「そ、そう……なのか?」



引き攣った笑みを浮かべる皐月にご満悦の私。皐月が私が渡した首輪を付けている……ゾクリと体が震えた。いいわねコレ。



「なんでまたこんなものを……」


「前から付けさせたかったのよね」


「そうなの?」


「あとこれも付けるわよ」


「へ?」



カチャリと皐月の首輪についた留め具に、私はカバンから取り出したリードの先を取り付けた。


まさに首輪に繋がれ散歩に出かける犬の様になった皐月。



「いやちょっとまって!?ここまで!?ここまでするの美春さぁん!?」


「アンタ今日は私の犬だから」


「もはや人間扱いされてない!?」


「キャンキャン吠えるな駄犬」


「うごほぉっ!?」



やかましいので腹に拳をめり込ませて黙らせる。



「今日のアンタに一切の拒否権は無いわよ。私の言うことは絶対なんだからね」


「そ、そんなぁ……」


「返事は「ワン」でしょ?」


「わ、わん……」


「元気が無いわね?何、嫌なの?」


「わ、ワン……ッ!わんわんッ!」



こうして私は皐月を犬にした。


ああ、堪んないわね。コレ。



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