2#6 水っぽい
俺が作ってきた手作り弁当を美味い美味いと言いながら笑顔で食ってくれる皐月。
なんかすっげぇ嬉しいなコレ。
体の内からじんわりと暖かくなって、頭が熱に浮かされたようにボヤついてくる。
生まれてこの方、料理なんざしたことはなかったが、こうして自分の作ったものを食ってもらう、つーのは良いもんだと思った。
思い返すのは皐月ん家に泊まったあの日の夜。みんなで夜メシを食った訳だが。その夜メシを作ったのが皐月の義妹のスズカと幼なじみの美春パイセンだった。所謂、手作り料理。
それを美味そうに食った皐月は笑顔で2人に礼を言って、2人ともやたらと嬉しそうにしていた。
俺はそれを見てなんか憧れちまったわけだ。俺もあーして礼を言われてーなって。
それでやったこともねぇ料理に挑戦し、結果は上々と。はっ!俺だってこんぐらいやりゃ出来んだよ!
俺は自分の分のメシに手をつけた。
気合いで固めて、俺の気持ちと共に詰め込んだ大量の塩が入った無骨なオニギリだ。
ジャリィ。
ちょっとしょっぺーけどまぁこんなもんだろうな。
俺は特に気にせずミルクでそれを流し込んだ。
◇◇◇
午後。
「鈴木コーチぃ!めっちゃ雨降ってるんですけどぉ!」
午前中の快晴が嘘のように土砂降りの雨が降っていた。もはやちょっと先も見えないぐらいの半端ない豪雨だ。横殴りの容赦ない風も吹き荒れ、なんか雷もなってる気がする。
「丁度いいじゃねぇか!滝修行みてぇなもんだ!気合い入れて腕立てしろやオラッ!」
しかし、鈴木。そんな豪雨の中であってもお構い無しである。
腕立て伏せの姿勢の俺の背中に乗っかり筋トレを催促してくる。思いのほか軽い鈴木。というか背中に女の子が乗っていることにちょっとドキドキする。
「コーチぃ!そもそも重りアリの腕立てが無理なんですが!?」
平凡な身体能力しか無い俺。腕立てなんて10回かそこらで腕がぷるぷるし始めるのに、人一人分の重りありの腕立てが出来るわけがない。
「皐月!てめぇなら出来る!気合いでなんとかしろ!」
「ぬごぉ……」
「出来なかったらまた走り込みさせんぞ!やってみせろよ皐月ぃ!」
「ぐおおおおおおお……!」
腕を曲げ、体を地面スレスレまで近ずけ、そして、限界を迎えてグシャリと雨でドロドロになっている地面に突っ伏した。もはや上から下までびしょ濡れだし、ドロドロである。
「たくっ、情けねぇな。ほら、そっから体持ちあげろ。それなら出来んだろ」
「はぁ……はぁ……う、うっす……!」
腕に力を込めてなんとか上体を起こす。
「よし。やりゃ出来んじゃねぇか」
「あ、ありがとうございやすッ……!」
それからしばらく腕を曲げては地面に突っ伏し、体を持ち上げるという腕立てであって腕立てではなくなってしまった筋トレを続けた。その間も雨が止む気配は無く容赦なく体を打ち付けてくる。もう、ただただ普通にキツかった。
それからも豪雨の中の筋トレは続く。腕立てを初め、腹筋、背筋、スクワットは鈴木が背中におぶさるオマケ付き。もちろん豪雨のオマケももれなくついてくる。
なんども根を上げたがその度に鈴木の
◇◇◇
「うっし!こんぐらいにしておいてやるか!今回はこれで終わりだ!おつかれさん!」
「あ、ありが……と……ござ……した……」
その場で大の字にぶっ倒れた皐月はそのまま意識を失った。
たくっ……この程度で気絶しちまうたぁ鍛え方が足りねぇな。
だが、何だかんだ言いつつも皐月は途中で辞めたり逃げたりする事はなかった。そこらの有象無象に比べたら根性だけはある。流石は俺が見込んだ男だけはあるってもんだ。
しっかし雨やまねぇな……。
昼過ぎから降り出した雨は豪雨となり、容赦なく降り続けている。
俺もすっかりびしょ濡れで皐月に至ってはさらに泥まみれになっている。
俺にしてみればこんぐらいの雨なんざなんともねぇが。流石にもう引き上げるべきだろう。
「皐月、帰っから起きろー」
気絶した皐月の頬をぺちぺちと引っぱたいてみたが、意識が戻る気配は無い。
「…………」
俺の前に無防備を晒す皐月。ぐにぐにと頬をこねくり回してみる。ちょっとおもしれぇなコレ。
今なら何やっても気が付かれねぇか。
皐月の頬で遊んでいると自然と俺の視線は皐月の口元へと吸い込まれていった。
不意にフラッシュバックする皐月とヤッた時の記憶。激しく混じり合いながら、俺の口を貪った皐月の口。
雨で冷えきった身体の奥底から熱が湧いてきた。
「ま、まぁ……こ、これは今回の褒美っつーことでな……皐月も頑張ったことだしな……ちょっとだけな……」
気がつけばそっと俺の唇は皐月の唇に触れていた。
雨でびちゃびちゃでかなり水っぽかったが、そうしてキスをすると身体の内底がぞわりぞわりとして奇妙な感覚に陥る。
ああ……俺は意識の無い相手に何やってんだ……。
軽い自己嫌悪に陥りながらも初めてでも無いわけだし、別に構いはしねぇーだろとその気持ちに言い訳をした。
「さて帰っか」
俺は意識の失った皐月を肩に担いで帰路についた。
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