#20 今、行きますよ



決闘前―昼休み―図書館



「好き好き好き好き好き。うひひっ……今日は皐月先輩に会える日じゃなかったのに、それなのに皐月先輩は私に会いに来てくれた。そんなに皐月先輩は私の事が好きなんですか?愛してるんですか?そうですそうです私も先輩が大好きです愛してますアイしてますあいしてます。今日は私をどうしたいんですか?ナニをしますか?アレはどうでしょうか?アレがいいですよね?アレにしましょうそうしましょう大丈夫です良いんです問題ないです先輩となら先輩のためなら私はなんでも出来ますなんだってしますから先輩は遠慮なんてしないで私をたくさん愛してくれればいいんですもっと愛して愛して愛してもっともっともっともっともっと……」



今日も私に会いに来てくれた皐月先輩に上岡緑は愛されていました。


皐月先輩はホント私の事が大好きでしょうがないんですね。私も皐月先輩の事が大好きです。



しかし私の心はまだまだ満たされてはいませんでした。



こうして皐月先輩に愛してもらってはいますが、それも、ここ図書館で先輩が会いに来てくれる時だけで、それも昼休みの間のみ。


昼休み、短くは無いですが長くは無いです。


そうなるとやはり先輩と出来る事は限られてしまいますし、何より先輩も私の事を愛し足りません。かく言う私ももっと先輩に愛してもらいたいと思っています。


先輩と居られるこの時間が世界から切り離されてずっと続けばいいのに。


時間が。もっと先輩と過ごせる時間が欲しい。


先輩にはもう何度となく愛を注いでもらっています。しかしながらまだ先輩との愛の絆は形になってはいません。


これでは先輩は満足出来ないでしょう。先輩との愛を形に成せない私のなんと不甲斐ない事か、自分で自分に嫌気がさします。


でも。そんな私でも先輩は変わらず愛してくれます。あぁ、皐月先輩はなんて素晴らしい人なのでしょうか。やはり私の愛する先輩は他の有象無象とは違い、遥か高みに位置する人類の究極の到達点だと思ってもなんら問題は無いでしょう。皐月先輩、好き。


だからこそ先輩には満足の行くまで私の事を愛させてあげたい。先輩に我慢を強いらせたくなんてありません。


皐月先輩にもっと私と過ごす時間を増やしてあげたい。



ここはやはり私が覚悟を決めて新たなる1歩踏み出すべきなのでしょう。



皐月先輩にたくさん愛されて、私も、こんな私にも、少しだけ自信がついてきました。


こんなに皐月先輩が私を愛してくれるのだから、私もその期待に応えたい。こんなどうしようも無い、壁のシミでしかなかった私を愛してくれた先輩に報いたい。


そうだ。私が、私がもっともっと頑張らなければならないんだ。


でもどうしたらいいのか?私は足りない頭で必死に考える。


皐月先輩との時間を増やす。それにはやはりココから外に出ないといけない。この閉鎖的な図書室から外に出て、そこで皐月先輩と会えたなら、私たちの時間は今よりも、もっと増えるはずだ。


怖い。と思った心を無理矢理に奮い立たせる。


この図書室では殆どが私と皐月先輩の2人きりの空間で、私にとっての安息の地でもある。


そんな安全な図書室から危険な外に出る。何が起こるかわからない。危険な目に会うかもしれない。わからない。


だけど、先輩と、皐月先輩と一緒なら、私の傍に寄り添ってくれる皐月先輩が居れば、きっと乗り越えられると、そう思う。


皐月先輩の為に私は外に出る。自分の為じゃ出来なくても、誰かの、愛しい人の為ならば出来る。


先輩の為に、先輩のとして、私も新たなる1歩を踏み出そう。



幸いにも今日は金曜日で明日明後日と学校はお休みだ。


放課後、学校が終わったら先輩の家に行こう。そうして今日の夜から土日と月曜日になるまで、ずっと先輩と一緒に居ることが出来る。朝から晩まで寝ても醒めても先輩と愛し合える。


先輩の事は先輩から聞いて全部知っている。生年月日、血液型、住所、電話番号、連絡先、家族構成、好きな物、嫌いな物、趣味趣向性癖etc……。


先輩の事は全て頭の中に入ってる。


先輩の住んでいる場所にはなんの問題も無く辿り着ける。だって毎日のように近くまで足を運んでるから。



ああ、先輩とココ以外で一緒に居られるなんて夢のようです……。


皐月先輩……愛してます……。




◇◇◇




放課後。




授業が終わり私は1度帰宅しました。テーブルの上にはいつも通り少なくない食費と書き置きが残されています。


両親共に今日も帰っては来ないようです。


両親の仲は悪く、そして共に出来損ないの私には興味が無いのか、私は家でも一人ぼっちです。もう慣れました。


ですが、今の私には皐月先輩が居ます。あぁ、早く……皐月先輩に会いたい……。


逸る気持ちを抑えて浴室へ。念入りに身体を洗いました。今からのことを考えると気持ちが昂り下腹部に疼きを感じます。


入浴を終えて準備をしますが、そこで何を着ていけばいいのかと思い悩みました。外出する事も少ないのでまとまな私服がありません。致し方なく新しい制服を卸して着替えました。


最後に書き置きを残して家を出ます。



今、貴方の愛する緑が行きますよ……先輩……。



薄暗い夜道を一人、皐月先輩の元に向かって歩きました。そうして迷うことなく辿り着いた先輩の部屋のあるアパート。


外から見ると窓から光が盛れてたので先輩はすでに帰宅済みだとわかりました。


皐月先輩……来ました。貴方の、貴方だけの緑が来ましたよ。


私は意を決して先輩の部屋のインターホンを鳴らします。否応なしに心臓の鼓動が早まりました。


部屋の中から先輩の声が聞こえました。あぁ、先輩に、皐月先輩に、会える。



「緑ちゃん……?なんで俺ん家に?」



扉が開くとそこから顔を出した愛しの愛しの皐月先輩。キョトンとした様子で私に問いかけます。



「皐月先輩……ッ!」


「んんんーーーッッッ!!?!」



気がつけば私は辛抱たまらず皐月先輩に飛びついて、そして皐月先輩の唇に自分の唇を押し付けます。


その時の私は周りが見えてなくて、もう皐月先輩の事しか頭にありませんでした。



「皐月しぇんぱぁい……んんっ……んちゅ……しぇんぱい……ちゅぱっ……じゅるっ……!」


「んーっ!んんんーーっっ!?」



気持ちを抑えきれず口内に舌を滑り込ませて皐月先輩を求めました。先輩の慣れ親しんだ味……美味しい。



「……んはっ」



しばらく堪能してから口を離すと絡んだ唾液が糸を引いて途切れました。



「あ、あの……み、緑ちゃん……?」



唖然とした様子の皐月先輩。どうしたんでしょうか?いつもなら、ここから……。


あぁ、そういえばまだを使ってませんでしたね。いけません私としたことが先走りすぎてしまったようです。


大丈夫ですよ。皐月先輩。今、いつもみたいに――……。



「ちょっとアンタらナニやってんのよーッ!!!」



皐月先輩の背後。そこから怒声が響きました。



見るとそこには複数人の女の人が……。







  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る