#10 生徒会
午後の授業が始まるギリギリの時間に俺は教室に滑り込んだ。
席に着いて机の中を漁ると中身の入ったお弁当袋が出てきた。涼花が俺の為に作ってくれたものだ。
先程、涼花からお弁当は机の中に入れておくとメッセージが入っている。袋も見覚えがあるものだし、これが涼花が作って置いていったお弁当だろう。
昼休みは食いっぱぐれて大変お腹が空いている。
授業中ではあるが、教師の目を掻い潜り、お弁当を開けると中には彩り鮮やかで栄養バランスの良さそうなオカズ。
そして、桃色のデンプンでデカデカとハートマークが描かれていた。
……ギャグ?
漫画とかでよく見るヤツ。実在していたんですね。こんなお弁当。ハートマークて。ハートマークてマジっすか。
これが所謂、愛情特盛愛妻弁当ですか?生で初めて見た。
一体、涼花は何を思ってこんなお弁当を作ったのだろうか……。
おそらくだが、こんなあからさまにあからさまなモノで笑いのひとつでも、かっさらおうとか思ったのだろう。
だってこんなハートのお弁当なんて、こっ恥ずかしいモノを真面目に作ってくる奴なんている?普通の人なら恥ずかしすぎて無理だって。
普段はクールぶって真面目な優等生感のある涼花ではあるが、こんな風に茶目っ気がある。ツッコミ待ちで変なボケをする事もしばしば。
涼花な。こういうところあるんだよな。
天然というかなんというか。あと身内相手にはよく隙を見せるし、変なドジも踏む。
俺が風呂上がりで着替え中にやたらと間違えて脱衣所に入ってきたり、何も無い所で転んで俺を押し倒してきたり、はたまた転んだ拍子にスカートがめくれ返ってパンツが丸出しになったりとか。俺相手だからいいものの、他の男相手にはこんなドジは絶対に踏んで欲しく無い所はある。
というかちょっとドキドキするから本当に気をつけて欲しい。
あと俺の部屋に頻繁に下着を忘れていくのやめて欲しい。その度に思うが涼花は下着を付けずに外を出歩っているのだろうか……流石にそんなことは無いとは思うけど、謎だ。
ちょっと度が過ぎて抜けている所は直して欲しいところではあるが、それもこれも身内の俺に対して気を許している証拠だとも思ってる。お兄ちゃん的には嬉しいものだ。
涼花のそういった部分が人間味があって実に可愛らしい。出会った当初は感情の起伏が乏しく暗い娘だったし。
これもひとつの成長だろう。これからも涼花とは兄妹として仲睦ましい関係を築いていけたらなと思ってる。
そんな義妹が作ってくれたお弁当を俺は授業中にこっそりと食べるのであった。
◇◇◇
放課後。
「皐月くん!一緒に帰りましょう!」
「兄さん一緒に帰りましょう」
俺の元に聖歌ちゃんと涼花の2人がやってきた。
昼休みの再現かとも思ったが美春が居ない。
見回しても美春の姿は既に教室からなくなっている。何処に行ったのか、何か用事だろうか。まぁ、美春とは四六時中一緒に居る訳でもないが、俺に何も言わずに何処かへ行くのは珍しい。
何か用事があるにしても、特に理由も無くまず俺を殴ってから向かうのが美春だ。そう言えば今日はまだ殴られてなかった気がする。やはり珍しくて少し疑問を覚えた。
そんな事より2人の対処だ。美春の事はひとまず脇に置いておく。
これまた、誰と帰るのか選んで!なんて事に発展します?3人で帰るのダメ?みんなで仲良くはダメですか?その前に俺一応放課後は同好会があるのですけど。今日もまた会長に行けない事を言わないとダメだろうか。
あんまり会長から目を離したく無いんだけどなぁ。
ピンポンパンポーン。
『2年○組、久保皐月。至急、生徒会室まで来てください』
2人の対処に頭を悩ませていると校内放送で呼び出しをくらった。
◇◇◇
「……失礼します」
恐る恐ると言った具合に生徒会室の扉を開けて中に入ると、中には1人、設置された長机の席についている生徒会長。明らかに不機嫌なオーラを放ち待ち構えていた。
ああ、嫌な予感がするなぁ……。
「来たか。久保」
「あ、どうもこんにちわ、生徒会長さん……」
入室した俺を鋭く睨みつける美人さんは我が校の生徒会長を務める
文武両道、容姿端麗。性格は真面目も真面目の糞真面目。他人に厳しく自分に厳しい。蔓延る悪には徹底的で容赦ない制裁を躊躇なく執行する、泣く子も黙る絶対正義の女。誰が言ったかアイアンメイデン。鉄の乙女とはまさに彼女の事。
見た目は超絶美女ではあるが如何せん性格がキツすぎる為、男子女子共に人気は壊滅的。厳しいし、口煩いし、おっかない。故にみんなから嫌煙されている。
そんな絵に書いたようなThe生徒会長こそ鳥乃麻沙美先輩である。
そして俺はそんな鉄の乙女に目をつけられている。悪い意味で。
一応、言っておくが"俺は"これといって問題を起こしているわけでもなく、何かしらの悪事を働いているわけでもない。至ってごくごく普通の男子高校生ではある。
しかしながら俺が所属する学校非公認の同好会。その長を務める人物に特大の問題があった。
これでもかってぐらいに様々な問題を起こす。そして逃げ隠れするのが大変お上手で生徒会を嘲笑うかの如く逃走し捕まらない。
鳥乃先輩でもってしても捕まえられないウチの会長の逃走スキルは天下一品である。
おかげで鳥乃先輩は会長を目の敵にしてる訳だが……。
それが原因で俺は頻繁に生徒会から呼び出しをくらう。俺は何もしてないのに。会長が捕まらないとの理由で、その相方である俺が毎度毎度尻拭いをするのである。
会長……今度はまた何をやらかしたんだ……。
「えーっと……鳥乃先輩?この度は私になんの御用でしょうか……?」
「とぼけても無駄だ。おまえをここに呼ぶ理由はひとつしかないだろ。勿論、あのクソ女の事だ」
「は、ははは……ですよね……」
「座れ」
「……はい」
鳥乃先輩に促され彼女が座る対面の席に腰掛ける。
「それでウチの会長は今回ナニをやらかしたんでしょうか?」
「とりあえず、これを見ろ」
そう言いながら鳥乃先輩は自分のスマホを差し出してきたので、俺はその画面を覗き込んだ。
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