無別編³
相談の相談の相談。
『やあ、熊崎。この間の相談なんだけどさ、シャンプーをボトルに詰めて販売するってのはどうだ。な。それでそれを売って金に変えれば、お前は金の卵を産むガチョウになって、一生働かなくても金に困らなくなる。どうだ、俺のアドバイス気に入ったか?』
時は遡ること、数日前――。
『なあ、川尻。同僚の中で一番口が硬い男と見込んで、ちょっと相談したいことがあるんだが』
『なんだよ熊崎。改まって』
『まあ、その、大きな声で言えないことなんでな。絶対に誰にも言わないで欲しいんだけど』
『言わないよ』
『実は俺、なんでか知らないけれど数日前から、尻穴からシャンプーが流れ出てくるんだ。なあ、どうしたらいい』
『何かの冗談か?』
『冗談じゃねえ。うんこの代わりにシャンプーが出るから、トイレがフローラルな香りで満たされて頭がおかしくなるんだ。なあ、こんなこと妻にだって恥ずかしくて言えない』
『なあ熊崎。勇気を出して医者に診てもらえ。内科か肛門科……あるいは精神科に』
『医者なんかに見せたら尻穴調べられるだろ……! そんなのは死んでも嫌だ……! なあ、気心の知れたお前にだから話してるんだ』
『わかった。わかったって。それじゃあ……うーん……。ちょっと時間をくれ』
『ありがとう。だけど、くれぐれも口外しないでくれよな』
『わかってるって』
その日の夜。川尻邸にて。
『なあ、ちょっと聞いてくれよ。今日同僚から変な相談を受けてさ』
『なに?』
『あいつの名誉のために一応名前は伏せておくが、そいつの尻からいい香りのシャンプーが流れ出してくるらしいんだ』
『それってなんの冗談?』
『俺も同じこと言った。けど、どうやら本当らしい。なあ、俺はなんてアドバイスしたらいい。そういった病気とかってあるものなのか?』
『あるわけないでしょう。……と言いたいところだけど、もしかしたら腸液とシャンプーを間違えてるのかも知れないわね。ただ、いい匂いがするってのが気になるわね。うーん……ちょっとその相談は保留にさせて』
『さすが。持つべきものは、医者の妻だね』
翌日。とある病院内の、食堂にて。
『Bランチひとつ。ライスは少なめで』
『いつもありがとうございます』
『こちらこそ。――ところで純菜さん。面白い話があるのだけれど』
『なんです?』
『昨日夫から聞いた話なんだけどね。なんでもお尻からシャンプーが出る男がいるらしいのよ』
『えへ!? それ本当ですか?』
『私は何かの勘違いだと思ってるけど、でも勘違いにしても面白いわよね』
『ははは。ですね』
『ただ、夫は誰かからその相談を受けたらしくて、真面目にアドバイスしたいらしいのよ。ねえ、純菜さんだったらどう答える?』
『私ですか。そうですねえ……』
『ごめんなさいね。汚い話をして』
『いえいえ。悩み事なら仕方ないです。それじゃあ、ちょっと考えさせてください。あ、それからこちら、お待たせしました。Bランチのライス少なめです』
『いつもありがとうね』
『いえいえ、こちらこそ』
その日の夜。純菜は帰宅した夫に相談した。
『ねえ、ちょっと相談に乗って欲しいんだけど』
『ん? なにかな』
『実はある人から相談を受けてね。なんでも、その、ある人のお尻からシャンプーが出るらしいの。ねえ、その人になんてアドバイスしたらいいと思う』
『え……嘘……。俺と同じ症状のやつがいたなんて……』
『なに? 小声で聞こえないんだけど』
『ああ、ううん。なんでもない』
(クソ。俺だって知りたいのに、なんだって赤の他人にアドバイスせにゃならんのだ)
『えーっと、そうだなあ、その人には、せっかくならボトルに溜めて販売してみたらとか、アドバイスしたらどうかな。うんこが金になるなんて、まるで夢のようじゃないか』
『なるほどね。ポジティブであなたらしい。そうよね、お尻からシャンプーが出るわけないんだから、そんくらい適当な返事でいいわよね』
『ははは。そうだね。シャンプーが出るわけないよね。ははは……。はははは…………。はぁ……』
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