21-03 勉強会
紬希も、のろたちのやり取りが聞こえていないわけではなかった。
その不毛な内容に、思わず顔がニヤけたりもした。
でも問題を解く手は止めなかった。
そもそも、友達で集まって勉強会というのは、ほとんど成り立たないのが前提だ。
このメンバーではなおさらだろう。
それを承知で集まったが、誰かひとりでも机に向かっているうちは自分も机に向かおう、というのが紬希の中での線引きだった。
優芽の勉強を見る、というのも自分に与えられた任務として真面目に受け取っていた。
優芽にやる気があるのなら、きちんとサポートしてあげたい。
だから、優芽が遊び出す前に自分が勉強をやめるわけにはいかないのだ。
とはいえ、そうやって意志をガチガチに固くして、自分に鞭を打っているわけでもない。
友達の話をなんとなく聞きながら、なんとなく手元の問題も解くというのは、紬希には難しいことではなかった。
そうして紬希は、自分の問題をこなしながら、頑張っている二人の気配にアンテナを張った。
相変わらず虹呼と彩生は会話に花を咲かせ続けたが、のろと優芽は意外と粘り強く宿題に取り組んだ。
特に隣に座っている優芽のことは、視界の端でちらつく感じから、彼女が今どんな状態なのかをわりと正確に把握することができた。
手が止まっていないか、船を漕いでいないか。
優芽が困った素振りを見せたら自分から声をかけられるよう、紬希は彼女のことを見ずに見守った。
出だしはまずまず順調なようだ。
自分のことをバカだアホだと言う優芽だったが、ページ左側にのっている解き方を参考に、その手順どおりに基礎問題を解くことはできるらしい。
ペースは亀なものの、なんとか自力で進めることができている。
しかし、何ページ目かをめくったところで、ぴたりとその手が止まった。
しばらく続いた、解説を見ながら解くという形式が終わったのだ。
今まで出てきた色んなタイプの問題が一堂に会しているそのページには、ずらっと数式が並んでいるだけでヒントがない。
突然問題集から冷たく突き放されて、優芽は途方に暮れた。
「……手伝う?」
優芽のペースが崩れたのを察して、紬希が静かに声をかけた。
「やさしかった数学が変わってしまった……」
しおれた優芽の口走ったことが、紬希にはよく理解できなかったが、とりあえず、優芽の問題集を借りてみる。
パラパラとめくってみると、基礎問題は軽いミスがいくつかあるものの、きちんと解けていた。
それが確認テストになったら、にっちもさっちもいかなくなったらしい。
紬希は優芽の状況を把握した。
「一緒にひとつずつ解いていこう。この問題はこのページのこのやり方で解けるよ」
優芽の問題集の横に、紬希は自分の問題集をくっつけて指差した。
基礎問題の解き方例の部分だ。
優芽はそれを目を細めて見つめた後、ゆっくりと問題に取りかかった。
最初は本当に自分に解けるのかと半信半疑な様子だったが、すぐにパッと目が開いて、手が動き始めた。
「紬希やっぱ頭良いな~」
「違うよ。優芽ちゃんは解く力はあるけど、どの問題にどの解き方を使えば良いのかがわからないだけだよ」
何を言われたのかはイマイチわかりきっていなかったが、褒められた気がして優芽はちょっぴり嬉しくなった。
「優芽ちゃん、伸び代あると思うよ。いろんな問題が並んでてもこの問題にはこの解き方って思いつけるようになったら、ぐっと解ける問題が増えるんじゃないかな」
「本当!?」
紬希が頷くと、優芽は躍り上がらんばかりに歓喜した。
自分の中にも眠れる力があるんだ!
他の誰でもない紬希にそう言ってもらえて、俄然期待が膨らんだ。
問題は、それをどうやって起こすかだ。
「紬希はどうしてこの問題にはこの解き方ってわかるの?」
「どうしてって……」
無邪気に聞かれて、紬希は言葉に詰まった。
クラスで「どうやったら勉強ってできるの?」と言われたときと同じだ。
でも今回は「すごいね」の言い換えではなく、優芽は本当に言葉通りのことを聞いている。
笑ってやり過ごすことはできない。
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