21-02 勉強会
「さあ、お次はマミさんですよ」
笑っていた優芽の顔がギクッとひきつった。
「ボクらはのろの尻を叩くから、マミさんのことは紬希に任せたであります!」
ビッと虹呼が敬礼して、紬希も苦笑いで額にふにゃりと手をかざして応えた。
それを見たかどうかのうちに虹呼はくるっと向きを変え、自分たちの宿題は棚上げに、彩生と何やら楽しげに言葉をかわし始めた。
「お手柔らかに……」
声をかけられて紬希がゆっくり振り返ると、優芽も苦々しい笑みを浮かべていた。
他人に何かをやらせるというのは、紬希には向いていない。
しかし、のろを相手にするよりは遥かにマシだろう。
優芽には少なくとも、宿題をやらなければ、という気持ちはある。
「何からやる……?」
とりあえず紬希が声をかけてみると、優芽はうーんと唸った。
「何からが……良いと思う?」
そんなこと聞かれても、と紬希は困惑した。
でも優芽にとってはそこからして問題だ。
国語は文章を読んでいるうちにつまらなくなって寝る。
数学はわからないなりに解こうと一生懸命考えているうちに寝る。
英語は頭の中がアルファベットで埋め尽くされて寝る。
理科も社会も寝る。
とにかく寝る。
まんべんなく寝るため、この機会にどれを優先させてやっつけてしまうべきかがわからない。
「とりあえず、一番苦手な科目からやってみる? 数学とか、よかったら教えるよ?」
「つ、紬希様~!」
ひしと抱きついてくる優芽にうもれながら、紬希はまた困った表情を浮かべた。
がっつり見てもらえるのなら、提案のとおり数学をやってみよう。
ということで、二人は同じ数学の問題集を開いた。
紬希はすでにいくらか取り組んだらしく、最初の何ページかは解答が埋まっており、整然と丸が並んでいた。
これが頭の良い人の解答済み問題集か、と優芽は見慣れぬ光景に感慨を覚えた。
そして、少し安心した。
まっ白な状態から二人同時によーいドンと始めれば、紬希にどんどん引き離されていくのは目に見えている。
自分がバカなのは今さら恥ずかしがることでもないが、紬希との差がページという数値でリアルタイムに突きつけられてしまうのは、さすがにみじめだった。
「行き詰まったら遠慮せずに声かけて。どんなことでもいいよ。眠くなってきた、とかでも」
大きく頷いて、優芽は問題に取りかかった。
優芽と紬希が集中し始めると、部屋にはシャーペンの滑る音だけが響いた――ということはなく、虹呼と彩生は相変わらず楽しげにしゃべり続けていた。
「ちょっと、うるさいんですけど。あとスマホ返せ」
解答を書き写しているだけ、とはいえ素直に宿題に取り組んでいたのろがイライラと二人をにらんだ。
それに対して、二人は挑発的な仕草、表情でさらにのろを煽ってきた。
「これはのろとマミさんに宿題をやらせる会だから、私たちはしゃべってても良いんですぅ~」
「なのですぅ~」
「うっわ、ウッザ! 紬希を見習いなよ! あたしとマミさんのための会なら、あたしたちのやる気なくすようなことすんのやめてくんない!? あとスマホ返せ」
スマホはともかく、のろの言うことはもっともだ。
でも二人はケケケ、プププと意図的に笑って、両手でバツを作った。
「ボクらの会話はBGMだと思って聞き流しなよ。ほら、音のないとこよりちょっとざわざわしたとこで勉強した方が身につくっていうし。親切だよ、親切」
「スマホはそれ一冊終わったら触らせてあげるから我慢しな」
この二人は何を言っているんだ。
思わず呆れて笑ってしまった優芽は、同意を求めようと紬希の方を見た。
が、ギョッとした。
紬希はのろと二人のやり取りなど気にせず、黙々と宿題を進めていたのだ。
こりゃ、頭が良いわけだ。
舌を巻いた優芽は、紬希につられて再び問題集に意識を戻した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます