16-06 しゃぼん玉とんだ
なのに、そんな余計なことを言い始めたモルモルを優芽は疎ましく思った。
「そうかもしれないけど、ヘッブは努力して得たわけじゃないんだから。実力とも違うでしょ?」
紬希の反応は案の定だ。
優芽は彼女をまるで修行僧か何かみたいだと思った。
彼女の生真面目さは尊敬できるが、何でも努力で解決できると考えているのは、彼女の能力が高いゆえだろう。
実際、紬希の中では「できない」は「努力が足りていない」に変換されがちだった。
それを他人に押し付けて、努力を強要したり、できないことを罵倒したりということはないのだが、自身に対しては容赦のないところがある。
努力主義とは、一歩間違えば「自分のせい」という地獄へと落ちる道なのだ。
自分を律して、厳しく生きていこうとする紬希のことを、優芽は眩しく思うと共に、畏怖のようなものを感じるのだった。
「やっぱここはあたしらしく、人のために使おう!」
並べた願いをいろんな方向からつついた末に、優芽はそう提案した。
紬希は他人の願いを叶えるのはヘッブの安定消費に向かないという意見だった。
まず願いのある人を探してその詳細を知ることに始まり、モルモルの安全確認、ヘッブの媒介作業など、クリアすべきことが多いからだ。
でも、優芽の考えはもっと単純なものだった。
「たまたま周りにいた人を楽しい気持ちにさせるとか、ちょっとだけ能力を上げるとか、運が良くなるとか、そういうのはどう?」
今まで暴走を懸念して、ヘッブの効く範囲を具体的にすることばかり考えてきたが、細かいところにこだわるから話が難しくなるのだ。
優芽がモルモルを受け入れたときのように、ヘッブで魔法少女に変身したときのように、良くも悪くも深く考えなければ、物事に取りかかるのは簡単だ。
「確かにそれならこっちに都合の良いタイミングでヘッブを使えるね。……でも、それって本当に人のためになるのかな? 一時的な気分の高揚で羽目を外したり、そのときはできたって喜んだことが後からまったくできなくなったり――」
新たな意見を、さっそく紬希はこねくりまわし始めた。
優芽はそれをいいことに、考える作業を彼女に丸投げした。
あげ足取りとも言えそうな紬希の細かい思考だが、優芽はそれをまったく面倒くさいと思わなかった。
むしろ大歓迎だ。
優芽にとって面倒くさいのは、自分が思考することなのだ。
紬希と関わり始めた頃に「田沼から気にかけるよう頼まれたが迷惑ではないか」と確認したのと同じで、良かれと思ってやったことで他人を不幸にしてはいけない。
それはただの自己満足であり、人の役に立つのとは正反対の行為だ。
だが、その時と違って、今回は相手から答えをもらうことはできない。
他人を不幸にする行動ではないか、事前に自分で想像して判断するしかない。
だから、紬希が考えてくれるのは本当にありがたかった。
必要不可欠なのに自分ではできない作業を、紬希が進んで引き受けてくれる。
頭の良い紬希の言うことなら間違いない。
そんな信頼とも依存ともとれる気持ちを、優芽は紬希に寄せているのだった。
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