16-02 しゃぼん玉とんだ

「それでは、第二回モルモル会議を始めます!」

 ドーナツを食べ終え、お腹が満たされたところで、優芽が宣言した。

「二回と言わず、もう何回か開かれてない?」

「まあ細かいことは気にしない! さ、まずはやさしい言葉の習得具合について、モルモルさん!」


 紬希のツッコミをさらっとかわして、優芽は机の中央に置いてあるスマホに向かって「どうぞ」と手を向けた。

 うなじ越しに会話されるのは気持ち悪いという優芽のため、紬希が考え出した方法だ。

 モルモルにスマホの近くでしゃべってもらえば、周りからはまるで通話アプリを通して友達三人で会話しているように見える。

 本当の通話だったら機械的な音が悪目立ちしてひんしゅくを買うところだが、実際は違うからその心配もない。


「まだ時間がかかりそう。新しい話し方を習得するっていうのは難しいね」

「えっ!?」

「きもちわるっ……」

 モルモルの声がしたと同時に二人はガバッとスマホの方を見やって、気づけば思ったことをそのまま口走っていた。


 優芽がすごい形相で机をたたいた。

「やめてよ、その口調! 気持ち悪いんですけどっ!」

「でも須藤の話し方はこんな感じでしょ? 須藤の話し方を身に付けるのが目標じゃなかったの?」

「無理無理無理っ! 今すぐやめて! そんなの須藤さんへのボートクだよ!」


 申し訳ないが、紬希も優芽と同意見だった。

「あのね、モルモル。口調をマネても仕方ないの。言葉選びをマネないと」

「真似てるつもりだけど? どこが問題か知りたいな」

「そういうとこだよ! そういうとこ!」

 モルモルの姿は見えないが、きっと首をかしげているだろう様子がありありと想像できた。


「モルモルがマネてるのは須藤さんの語尾。そこはいつものモルモルでいいの。いつものモルモルのまま、わかりやすい言葉選びでしゃべってほしいの」

 と説明しつつ、紬希は「理不尽な要求だなあ」と自分で自分にあきれた。

 それは最初から完璧にやれ、と言っているようなものだ。

 形から入って、徐々に完成形に近づけていくというやり方は間違っていない。

 単に二人が、突然変わったモルモルの口調を受け入れられず、拒絶しているだけだ。


「ムゥ。とりあえずやらせてみてほしいな。このまま会議とやらを続けてみて、自分でも駄目だと思ったら、またやり方を考えるから」

 譲らないモルモルに二人は頭を抱えた。


「まあ、とりあえず続けてみるしかないか……」


 結局、言葉の習得の件は保留して、紬希は議題を次へと進めることにした。

 先行き不安なモルモルに、優芽は早くもげんなりした表情だ。


「私から質問。これにわかりやすく答えられるかどうかが、モルモルの腕の見せ所だからね?」

「うん」

 難しい話をしているときこそ、モルモルが易しい言葉を使えているかどうかが明白になる。

「思ったんだけどさ、モルモルって優芽ちゃん以外からも食事をとることができるんじゃないの?」

 打って変わって、紬希の口調は厳しくなった。



 モルモルは、優芽は自分に食事を提供するドナーとなり、もう切っても切れない関係になったと言っていた。

 しかし、モルモルは夢や想像といった精神的なものを見ることができる。

 また、ヘッブは人間にも機械にも効果を発揮し、かなり応用もきく。


 それらを踏まえたら、モルモルにはいろんな人間を食べ歩くことくらい朝飯前なのではないか。

 紬希にはそう思えてきたのだ。


 だとすれば、優芽ひとりから夢や希望を吸い上げる必要はないし、虚ろのリスクも存在しなくなるはずだ。

 モルモルは、いたずらに優芽だけから精神エネルギーを得ているということになる。

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