16-01 しゃぼん玉とんだ
「あ、ここも参加するんだ」
いつものドーナツ屋で会計を済ませるとき、二人は店員の後ろにポスターが貼ってあることに気づいた。
二人が持っているチラシと同じものだ。
「こんなイベントがあるんだけど、よかったらボランティアとして参加してみない?」
二人が帰る前、須藤はそう言ってチラシを差し出した。
街中くるくるストリートという文字が目に飛び込んできた。
ひとが来る来る! ものがクルクル! 駅前大通りがお店屋さんに大変身!
そんな言葉が楽しげに踊っている。
「前にかけはしの子どもたちと関わりたいって言ってくれたでしょ? だから、もし興味あるなら、と思って」
二人は顔を見合わせた。
あれはモルモルの易しい言葉の習得のために申し出たことだ。
二人自身が子どもと接したいと思ってお願いしたことではないし、モルモルのモデルは須藤ということになったから、もう子どもとの関わりは必要のないことだ。
しかし、そんな事情を須藤が知るわけない。
須藤は二人自身が子どもと接することに興味があるのだと受け取ったのだろう。
イベントはいつも二人が降りる駅の近くで開かれる、幼児から小学生をターゲットにしたものだった。
自分の使わなくなったオモチャを寄付する、学習系のブースに参加する、協力店で簡単な職業体験をする等でスタンプがたまり、それを協力店での買い物に使ったり、景品と交換したりできる、という内容だ。
かけはしも毎年参加しており、お気軽相談コーナー、かけはしとその系列施設の紹介展示、そして何らかの工作コーナーの実施を考えているらしい。
二人にはその工作コーナーでの子どもたちのサポートをお願いしたいのだという。
「返事は今すぐじゃなくていいから。夏休み中で予定もあるだろうし」
そう言われて、二人はとりあえずチラシを持ち帰った。
でも、やはり優芽はその場で気持ちが固まっていたらしい。
かけはしを出てすぐに、「やる!」と紬希に宣言した。
「せっかく誘われたし。かけはしの役に立てるなら、それ以上に大事な用事なんてあたしにはない!」
「でも一応、家族にも確認しなきゃ」
「大丈夫大丈夫。どうせ予定なんか入らないよ。もし入ってもかけはし優先! 遊びに行くわけじゃないんだし、わかってくれるよ!」
優芽はオッケーと輪っかを作って笑った。
即答しなかったのは紬希に配慮したのだろう。
優芽が快諾すれば、紬希もそうしなければ、とあせってしまう。
でも彼女は考えてから物事を決めたい性格だ。
スケジュールを照らし合わせたり、優芽がどうするのか聞いたりして、やっと、どうするか考え始められるのだ。
「私は一度予定を確認してみるね。スピーチコンテストもあるし……」
そう告げながら、紬希の中に苦々しいものが広がった。
萌には無理にやる必要はないと言われたのだが、紬希にはどうしても断ることができず、もう参加が決まっていた。
それ以来、普段は考えまいと蓋をしているのだが、ふとした拍子に思い出すたび身がすくむ。
なぜできもしないことを承諾してしまったのか、と激しく後悔した。
でも、もう決まってしまったことだ。
一連のことが終わるまではずっと後悔して緊張するのだろう。
それでも、決めたからには頑張るしかない。
というわけで、紬希は語学部では、彩生と共にスピーチ原稿を鋭意作成中である。
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