第43話 王都での生活−1

サトルとスザンヌはキタミだけでは活動が限られると、王都にも新居を構え活動を始めた。


スザンヌ的には男性のサトルがもう少し少なくともこの国、メッシーナ王国では最強の冒険者だと知れ渡って欲しいという思いと、王妃からの勅命を受けた時も直ぐに馳せ参じが可能になる考えて王都に家を設けた。


スザンヌが少し心配なのは王妃や王女、はたまた、王都の冒険者ギルドのギルドマスターであるエミリアがサトルに興味を持っていることが少し心配だった。


サトルの特殊なスキル『行かせスキル』に全員が虜になるか心臓発作を起こして死亡して大事件にならないか、今後できれば王宮とは距離を取り、エミリアとは自分が対応しようと心に誓っているスザンヌだった。


古代人遺跡の調査依頼クエストを受けた翌日は朝からサトルは地下に作った訓練場の横の研究室兼作業場で古代人遺跡で倒した金属製人工魔物を解体して溶かしこみ

金属ごとのインゴットの塊にする作業をしている。


訓練場ではスザンヌがマーガレットとルビーゼに剣の手ほどきと魔法の効率良い使い方をそれぞれ二人の魔法特性に合わせた魔法で教えていた。


「マーガレット、ルビーゼ朝の訓練はこのぐらいにして、そろそろお腹が空いたわ、シャワーを浴びたら朝食にしましょ!」


「サトル、インゴット化の作業は終わった?私達はシャワーを浴びたら朝食にするから貴方もキリのいいところで1階に上がって来て」


「わかった!後少しで全てインゴット化出来るので先に上がってて」


サトルはミスリルのインゴット、アダマンタイトのインゴット、ダマスカス鋼のインゴット、鉄のインゴット、銀のインゴットと解体した人工魔物の本体や部品から得た金属を綺麗に精錬して純粋な単一金属ごとのインゴットに作り変えた。


「お待たせ、朝飯はできてる?」とサトルがルビーゼに声をかけた。


「はい、もうできてます。スザンヌさんがシャワーから上がれば、あっ、来ましたわ!それじゃ朝食にいたしましょう」


「待たせたわね、サトルの方も作業できたの?」


「うん、ミスリルのインゴットとアダマンタイトそれにダマスカス鋼のインゴットはかなり高値で鍛冶屋に売れると思うよ。でも、俺のスキルでミスリル製の剣も作って見たい気もするけど・・・」


「朝食終えたら、昨日言っていた私が懇意にしているドワーフのおばちゃんのところに行って見ない?」


「そうだな、『鬼切丸』と『誅戮剣』を時々砥ぎに出すのにお世話になるから一緒に行くよ!」


「しかし、女性の鍛冶屋なの?普通はドワーフといえば男性の鍛冶屋だろう?」


「何ぶつぶつ言っているの?男が剣を重たいハンマーを打って作れるわけないじゃない、錬金術師だって魔力がない男性じゃなく女性が全て店をやっているわ」


「ほんとこの世界はラノベの世界でも真逆なんだな」と呟くサトル。


サトルとスザンヌは二人で新居の自宅から王都の商店街のメイン通りを300メートル程歩き、冒険者ギルドを左に見て3番目の交差点を左に折れ数メートル行ったところにある店の扉を叩いて開けた。


「ビアンカのおばさん!いるかな?」


なかからはシーンとして返事が聞こえてこない。

もう一度スザンヌは大声を出して、


「ビアンカのおばさんいないの?」


すると奥の方から野太い声で「誰だい!こんな朝っぱら早くから」


「何だ、スザンヌのお嬢か!久しぶりだな、王都に出張か?」


「おばさん、紹介するわ!私の旦那様のサトル。私結婚してキタミと王都にも家を購入して住むことになったの」


「スザンヌの夫のサトルです、これからお世話になると思いますので宜しくお願いします」とサトルは丁寧にお辞儀した。


「何だい、お嬢は自分より強い男性としか結婚しないと言っていたじゃないか、この男がお前さんより強いのかい?どう見ても強そうに見えないがね・・・」

とビアンカはサトルを射る様な目つきで見つめると、


「男にしちゃ、魔力が凄いな!」


「サトルと言ったか?私とちょっくら腕相撲しようや」


「いや、おばさん!サトルは特別なスキルでサトルに触れると一瞬で気絶するか

酷いと死ぬので腕相撲はダメだわ」と慌ててスザンヌが止める。


「何だい、触れないのにお嬢は結婚したのかい?」


「何故だか私だけ耐性があって、大丈夫なの」


「それじゃ、お前の腰にある剣を見せてごらん」と言ってサトルが腰に掛けている『鬼切丸』に目をやる。


「これですか?この剣は刀と云って、俺の田舎に古くから伝わる剣ですが・・・」

サトルは『鬼切丸』を鞘ごとビアンカおばさんに手渡した。


「ほほう、鞘も珍しい作りをしているな。これはどこの国のものでもないな?剣も片刃で反りが有って、・・・お前剣の達人か?」


「刀を見ただけでわかるのですか?」


「私を誰だと思っている?剣を見ればそいつがどのくらいの力量かなどすぐにわかるよ」


「それで、きょうは何だね?旦那のお披露目で来たのかい?」


「いや、実はミスリルのインゴットを手に入れたので刀ではなく剣を作ろうと思って頼みに来ました」


「ミスリルだって?そんな高価で貴重な金属をどうした?」


「古代人遺跡の人工魔物を倒して手に入れました」とサトルは精製したとか、細かいことは言わずに伝えた。


「どうやら、お嬢の旦那はこの世界の男達とは根本的に作りが違う様だな、お嬢が負けるのも何となく理解できた。ミスリルかぁ!数年ぶりに打ってみたいな、よし、ちょっとこの剣で素振りをして見てくれ」と店にある剣をサトルに渡した。


サトルは剣を軽々と片手で持ち、2、3回と素振りをして見せる。


「お嬢、こいつはとんでも無い化け物だな!この重たい両手剣を片手でしかもワシでさえ目で追えない速さで素振りをするとは・・・」


「だから言ったじゃない!私より強いって」


「ミスリルは魔法伝導効率が非常に高い金属だがお主の魔法特性はどうなのじゃ?」


「俺ですか?全ての魔法、神聖魔法、無属性魔法、闇魔法までレベルMaxです」


「なんと、4属性以外にか?私のところでは4属性を放つ剣は打てるがそれ以外では無理だぞ!」


「いや、魔法を放つ魔剣ではなくあくまでも切れ味が素晴らしい剣、両刃の剣があれば魔法は剣から放たず己の体から放つからいいです」


「そうか、わかった!私が鋼鉄、岩さえもお主の手にかかれば簡単に切れる両刃の剣を打ってやる、1週間半程時間をくれ」


「ビアンカのおばさん、お代はいくら程考えればいい?」


「私もミスリルを打って見たいし、久しぶりに剣聖の腕前を見せてもらったからおおまけにまけて、金貨80枚ってとこかね」


「いいの?そんなに安くて。白金5、6枚覚悟してたんだけど」


「いやいや、いい男を連れて来てもらったからね」


「それとビアンカのおばさん、『鬼切丸』を時々研いでいただけますか?」


「ああ、いつでも持っておいでサトルが来るのなら大歓迎だよ」


「ありがとうございます、それでは1週間半後にスザンヌと又来ます」


「あぁ、そうだ!ビアンカのおばさん、安くしてもらうからこれおばさんに

あげるわ」とサトルが【次元ストレージ】からアダマンタイト鋼のインゴットを

ビアンカに渡した。


「サササトル、お主本当に何者じゃ?こんな高価なインゴット貰うわけにいかんぞ!」


「いいよ、おばちゃん、時々『鬼切丸』を安く磨いてくれれば」


「お前なぁ、アダマンタイト鋼のインゴットだけで白金数十枚の価値が有るんだぞ、

砥ぎ何ぞいつでもタダでやってやるわい」


「それじゃ、頼むね」とサトルはビアンカにミスリルとアダマンタイト鋼のインゴットを渡してスザンヌと外に出た。


サトルはスザンヌとビアンカの鍛冶屋を後にして王都の中央市場にやって来た。


流石にここに来ると貴族の下男達が買い物に来ており、女性に混じって半数が男性達の姿が目立つ。


「ここは男性が多いね?」


「家で買い物は主に男性の仕事だからね、特に貴族社会では騎士達が女性で身の回りの世話は男性がするから買い物は冒険者以外は男性の仕事よ」


「何だか男を見るとホットするよ」


「まだサトルはこの世界になれてないのね」


「だって、未だ3ヶ月経って無いんだぜ、この世界に来て」


そんな会話をしながら、市場の中を回りながら買い物をした。


二人は今後の冒険者クエストを受けて移動するために、食材を少し多めに買ってサトルのストレージに入れていった。


「サトル、2週間ほどは王都の冒険者ギルドのクエストを受けて、ミスリル製の剣が打ち終わったら4人で少し旅をする感じで動かない?」


「そうだね、2週間ほど王都にいて王都の街を早く覚えるよ」


****


「スザンヌ、お茶でも飲んで行かない?」


「そうね、たまには二人でお茶もいいわね」


市場から出た二人は近くのお茶屋さんに入り、紅茶を頼んだ。


男性で座っているのはサトルだけで、周りを見ると貴族風の女性と女性騎士の脇に男性が一人買い物の荷物を抱えて立ち、また少し離れた所に商人の女性3人のそばにやはり男性が一人立っていた。


「お茶を飲むのにもこれでは冒険者カードは必須だね」


「そうね、それがないと店員から席に座らず立ってくれと言われても身分を証明する物が無いとこの世界では法律になっているから仕方無いわね」


「通例でなく、法律で決められているの?」


「そうよ、男性はどこでも席に座れるのは冒険者かギルド職員、宮廷の職員、騎士、貴族以外は座る権利は無いわ!」


「酷い法律だな!」


「今まであまり考えていなかったけど、サトルを知って確かにおかしいということがわかったわ」


「俺が座っていると必ず女性が文句を言って来るのも頷けるな、変な世界だなここは」


「私達は生まれてからずっと当たり前に見ていたから、それがおかしいとも感じなかったのよ、怖いことよね」


「何故男には魔力が無いんだ?」


「もちろん男性でも魔力がある人はいるわ!でも使える人がいないのよ。獣人族が魔法を使えないのと同じ理由からかしら?」


「魔力があっても魔法特性がないと魔法を放つ事は出来ないわ!」


「男性には魔法特性が出ないということ?」


「そうらしいわよ」


「獣人族は魔法は使えなくても身体能力が高いからな、でも全く使えないわけではないのだろ?」


「ええ、獣人族の中でも初期魔法で有れば使っている冒険者は結構いるわ、でも全て女性よ」


そんな会話をしながらお茶を飲んでいると、定番の様に貴族らしき女性の騎士がサトルに近づいて来て、


「お主は冒険者か?冒険者カードを見せてくれ」とサトルに問かけた。


「俺のたたずまいを見て力量がわからないのかい?君の力量はEクラス程度のちからだね」と言って、SSSカードのプラチナカードを見せた。


「あっ、これは大変失礼いたしました。この国で一躍有名になられたサトル殿でしたか」と言って席に戻って貴族らしき女性に何やひそひそと言っていた。


「サトルもこうやって少しずつ顔を売っていくしかしょうがないわね!そのためにも王都でクエストをいっぱいこなしましょ」


二人はお茶を飲み終えて、新居の家に帰って行った。


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