辺境伯が来たみたい



 レックス商会での話し合いが終わってウエストブリッジを出る。

 外に出て普段できない脚力や心配能力の鍛錬をするため。

 ボクの周囲には結構な数の子供達がいる。10人以上かな。結構増えてきた。

 将来的にはボクの手足となる配下が必要だろうと、かなり前からクレアが企んでいたみたい。

 勧誘の方法は様々。餌付け同然に懐かせたり色々だ。

 クレアお姉さまと言ってついてくる女子もいるんだもん。

 トラジェット家からは何の期待もできないと分かっている。頑張らないと。


 ボクは自分の将来について明確な意思表示をしていない。トラジェット家当主が何を企んているから分からないから。

 まずは最低限は生活に困らないようにしたい。そして力を蓄えようと思っている。

 力といっても色々あるけどさ。

 とりあえずは経済力と武力だ。


 経済力は商会を運営が順調にいけば問題ないと思う。


 武力については騎士隊を所有する事は考えているんだ。

 家の使用人から選抜する事も考えたのだけど。彼らはトラジェット家との契約もあるから簡単ではない。それにボクを馬鹿にしているしね。

 ならば外から見つけるしかない。

 ボクが自由に行き来できるのは屋敷の敷地・・・今は自由に出入りできる所は少なくなったけど・・、それとウエストブリッジの街だ。

 そこで暮らしている下級貴族の子供達、職人達の子供達。色々な家の次男とか家を継がない子供達に声を掛けている。

 簡単ではなかったよ。でも成果はあった。

 特にコーディとボビーは優秀だと思う。この二人はトラジェット家の寄子の子供達。二人は長男じゃない。だから後継者にはなれない。よって自力で生活方法を探さないといけない。

 特にこの二人はもう少しで成人する。早めに生活ができる目処をつけるべきだと考えていたらしい。声を掛けたら承知してくれたんだ。

 他にも職人の息子であるトムやネイサンとか。いい人達が見つかったよ。

 

 今日は彼らと一緒に体を鍛える事を目的とした遊びだ。

 何をするにも体力は必要。騎士を目指すなら有り余る体力は欲しい。

 他には親交を深めるという目的もあるけどね。

 こんな感じで定期的に外に出てトレーニングする。ボクもいい感じのトレーニングになるし。


 今日は追いかけっこみたいな事しながら、ひたすら走る。勿論ボクも一緒に走る。ボクは彼ら以上に体力をつけないといけないしね。


 遊びながらしばらく走り回る。

 

 体があたたまってきていい感じになった時。クレアから声がかかる。


「坊ちゃま。あちらから騎馬が接近しています。幸いまだ遠いです。こちらが場所を変えたほうが良いかと」

「・・確かに。余計な面倒は避けたいね。こっちが避ければいい事だしね」

「野武士ではなければ良いのですが。この周辺は脱走兵は来ていないはずですし」


 ボクも同意見だ。周囲を見回してハンドサインを周囲に出す。ボクに向かって集まれというサインだ。そしてボクは騎馬達を避けるように方向を変える。

 





「坊ちゃま。森に向かうか、街に戻るかを選択した方が宜しいようですわ」

「え?ついてきているの?」


 暫く集団走行をしていた。騎馬達は街か南に向かうだろうと思ってたから街から離れたんだけど・・・。

 振り返るとクレアの言っている理由が分かった。


 ・・騎馬達が速歩で追走している。大きく方向を変えてボク達を追いかけてくる。

 なんで?

 子供達はまだ気づいていない。ボク達の走る速度についていくのがやっとみたいだし。


「・・駈歩じゃないね。間違いなく狙っているね。目的はなんだと思う?」

「馬装や武装から推測しますに・・領内の騎士ではありませんね。山賊の類でもありません。国の正規の装備のようですから・・他領の騎士かと思います。もしくは野武士の可能性も」

「よくそこまで見れるね。他領の騎士だすると今日のお披露目関係で招待された騎士という所かな?」

「それが正解だと思います。ですがお披露目は儀式ですよ。あれらのような武装は礼に反します」

「だよね。・・・爵位が上位で日々戦に明け暮れている領主は一人しかいないよね?」


 いやな予感がする。ボクの想像が合っていればだけど。クレアはその想像を冷静な表情で肯定する。


「はい。辺境伯であるフレーザー侯爵かと。お披露目はまだ続いていますから挨拶だけして抜け出てきたのでしょう」


 ・・・やっぱりか。

 フレーザー侯爵は国境を治めている貴族だ。この領に隣の領でトラジェット家含めた周辺領の貴族の軍を招集し指揮する権限を持っている。そんなとんでもない人だ。

 その人がなんで領地と逆方向のウエストブリッジ方面に来るんだよ。忙しいんでしょ?早く領地に戻ったほうがいいと思うんだけど。


「街に逃げるのはマズイと思う。街の守衛が勘違いするかもしれないし。森は・・ちょっと遠いよね。全力でにげても駈歩じゃ追いつかれる」

「そうなりますよね。あちらの目的が分かりませんが他領の住民を殺したりはしないかと」

「逃げるのを諦めて先方を待つ?」

「ええ、逃げ疲れたという体で宜しいかと」


 ボクは早速クレアの助言を受け入れる。ゆっくり停止のハンドサインを出す。みんな限界に近いようだった。やっぱり森に逃げ込むのは無理だったね。



 走るのをやめたボク達に向けて騎馬が近づいてくる。二騎だ。

 子供達も騎馬に気づいたようで青ざめていたり、狼狽えていたり、指示を待ちでボクを見ていたり、様々だ。

 うん、こんな経験はないものね。勿論、ボクも無いよ。


 

 騎馬の速度はゆっくりとなる。

 一人はいかにも歴戦の騎士という風格がある。略式の鎧だけど隙が無い。青みがかった黒い髪は後ろに撫でつけている。オールバックじゃん。初めて見た。精悍で鋭い顔つきだ。こっちがフレーザー侯爵かな。

 一人は騎士とはあまり思えないかな。こちらも略式の鎧だけど太っているせいか、あまりしっくり来ていない感じ。スキンヘッドに糸のように細い目。でも、迫力はある。


「やっと追いついたぞ。手間をかけさせおって・・・。この中にフェリックス・トラジェットはおるか?」


 太っちょのほうが声を掛けてくる。

 そうだとは思ったけど。ボクに用事があったのか。いきなり殺したりはしないよね?

 子供達の中から先頭に出る。クレアもついてきてくれる。


「ボクがフェリックス・トラジェットです。侯爵様が庶子に落とされたボクに何か御用がございますか?」


 太っちょの細い目が開かれる。あ・・開いても小さい目だ。夜に出会ったら・・ちびりそう。

 少し考えていたような感じの太っちょは後ろに目を向ける。

 オールバックが軽く頷く。


「小僧。我と仕合え」


 馬からひらりと降りて、鞍に差していた大剣を抜く。

 は・・い?

 

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