#03 Reasons to take red medicine
「親友のヴェルちゃんにお薬を届けに来たんだよ」
ロキは小さな紙袋をチカゲに投げた。薬という割には、扱いが雑である。
チカゲが中身を確認すると、赤い錠剤が大量に入っていた。確かに普段服用している薬で間違いない。
お礼を言い、キッチンに置いてあるガラスの密封瓶に赤い薬を移し替えると、八割ほど埋まった。瓶を揺すってならし、蓋を閉める。
その様子を見ていたヴェルザンディが「あー」と声を漏らした。
「もう薬がなかったのか」
「え⁉︎ ヴェルちゃん、ちゃんとお薬管理してる⁉︎」
彼女の言葉を聞いて、ロキは目を剥いた。
「ワタシが管理なんてするガラじゃねえだろ。でもちゃんと飲んでるよ、毎食五錠ずつ」
「それならいいけど。で、調子はどう? 力が入らないとか、どこか悪いところはない?」
「今んところないんじゃねえの? 元気だし、ペットボトルのキャップも自分で回せるぞ」
ヴェルザンディは冷蔵庫に頭を突っ込み、リーシ・フルッティを手に取った。
その白い容器は二つに分かれており、ミルク粥とジャムが入っている。間食にはちょうど良いサイズで、ほのかにバニラ味がするミルク粥がジャムと合わさると美味い。
「ブルーベリーしかない〜」と不満を漏らす彼女に、チカゲはすぐさま「夕飯前なんだから食べないでよ」と引き止めた。
それをなかなか冷蔵庫に戻せず、食欲と葛藤するヴェルザンディを横目に、チカゲはロキに訊ねた。
「この薬って何なんです?」
「ああ、それ? ヴェルちゃんから聞いてないの?」
「
チカゲはキッチン台に手を置き、寄りかかった。
「巨人族や人間族と違って、神族は人間にとって有害な神威をまとってるんだよ。ボクが調合した特別の薬で、その
「神威って黒い霧、みたいなものでしたっけ?」
「あたり。ヴェルちゃんの場合はそうだね。神によって色が違ったり、ボクみたいに光状だったり、いろんなタイプがあるよ」
神威とは神の威光であり、位を表す。
位が低い神は力が弱い為、神威も少なく目に見えにくいが、上位になるほど多く漏れ、色が濃く見える。さらに感情の起伏でも色濃く現れる。
その神威自体に攻撃能力はないが、人間には害があり、人間の魂に傷をつけ、異常をきたし、最悪死に至る。
よって、本来ならば神は無意味に
食欲に勝ったヴェルザンディは、バタンッと冷蔵庫のドアを閉めた。
「言っとくが、本当はオマエが作った得体の知れない薬なんて飲みたくねえんだからなァ!」
苛立ち、語気を強くするが、その目は潤んでいる。
「八つ当たり……?」と呟くロキ。
「まあ、他に方法がないんだし、ちゃんと飲んでね」
「飲むよ! ワタシのせいでチカゲを傷つけたくないしな!」
ヴェルザンディはロキの斜め前に座った。ぎゅむっとぬいぐるみを抱きしめ、顎を乗せる。
「それにしても」ロキは話を切り出し、足を組み直した。
「相変わらずインクちゃんのことが好きなんだね」
ロキの細めた目がチカゲと合う。
だが、チカゲは伏し目がちのまま、すました顔をしていた。
「ボクも『
そのゲームの主人公、茨木レンは日本人設定だ。半分日本人の血を持つチカゲは、髪型とその色だけが似ていた。
話題にのぼるチカゲだが、特に気にする様子はない。
「言葉に気をつけろ。チカゲが好きだからそばにいるんだ。ロキもゲームとかが好きだから
不愉快だといわんばかりに、ヴェルザンディの声が低い。
険悪な雰囲気の中、チカゲは話しかけるタイミングを見計らって口を開いた。
「話の途中で悪いんだけど。ヴェル、ロキ様に食料を食べられたから、買い出しは新市街地の大きいスーパーに行こう」
「言われてみれば少なかったな……ロキ! 人様の食糧を食い尽くすとは何事かッ‼︎」
ヴェルザンディはホッキョクギツネのスリッパを履いたままテーブルに乗り、ロキの胸ぐらを掴んだ時だった——部屋の中に突然、新たな気配が発生する。
「これは」
吐き気を催すような不快な空気に、ヴェルザンディは手を離し、チカゲの前に飛び降りた。
黒いヒールがコツッと鳴り、着地と同時に黒いウエディングドレスへ変わる。
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