第2話 異世界の常識

ガサッ

「………」

仕方なかった。

どうしようもなかった。

お腹が痛かったんだ。

公衆トイレなんて物は当然無いし、誰かにトイレを借りるなんてもっての外だ。

だったらするしか無いじゃないか。

まだお尻はヒリヒリするし、ここにはウォシュレットもなければ紙すらない、痔ろうの恐怖に怯えながら、とりあえず自分の置かれた状況を確認する。


多分街並みとしては中世ヨーロッパ?中世の街並みがどの程度か分からないけど、漫画やアニメでよく見る程度かには栄えているように見える。道を行き交う人はそれほど元の世界と違いはあるようには見えない、角もなければ羽も生えていない。ただ所々武器の様なものを携えている事は分かった。

「この世界は武器が必要な程度には物騒って事か?」

そもそもこれは異世界転生なのか?過去にタイムスリップしたって線は無いだろうか。

そんな考えを打ち砕く物が前を横切って行った。

なにこれ可愛い。こんなふわふわな生き物がいるの?

ここでは大きいカワウソみたいなのが荷車を引いてるの?

可愛すぎない?

いやいやいやそんな事より、ここが異世界って事は確定したな。あんな可愛いのが居たら元の世界で争いなんて起きようが無い。


しかしここからどうした物かな、何となく自分が置かれた状況は理解できたが理解した所で何が出来る。

よくある異世界物だったら何か凄い力が身に付いていたりする物だが、

「あっ」

一つ思い出した、異世界物ではお約束の事を一応だがやってみよう、あくまで一応だ。

「ステータス!!!」

知ってる。出ない事は知ってるさ、だからそんなジロジロとこっちを見ないでくれ。

ステータスが出ないとなったらどうしたものかな。

とりあえず次のお約束の冒険者ギルドでも探してみるか。

歩いてればそれらしい所があるだろう。

そう思い歩き出そうとする。

「ちょっと」

誰だ!!今から新しい冒険への第一歩を進もうとする若者に向かって出鼻を挫く様な事しやがって!!

「はい?」

そう振り向くと衛兵さんと思わしき男性が後ろに立っていた。



これは迂闊だった。確かに見慣れない格好した男がキョロキョロと街を彷徨いて居たら怪しまれても仕方ない。泥棒が下見をしていると勘違いされたのだろう。

「先程見慣れない格好をした男が変な言葉を叫んでいたと通報があってね」

違った、変質者の方だった。

そうかこの世界では道端で急に叫んだら通報されるのか、元の世界とは常識が違うようだ。

「君この辺では見ない格好をしてるけど何処から来たんだ?」

「え?あ―…」

この質問どう答えたら良い?

異世界から来たなんて答えれば頭がおかしいと思われるに違いない。だからといってこの辺りの生まれじゃない事も分かるだろう。どうしたものか…

「異世界から来ました」

もうどうしたら良いか分からないから一旦馬鹿になってみよう。

「はぁ?君職業と名前は?」

この世界にはさっき来たばかりなんだ職に付いているわけないだろう、ただでさえ元の世界でも職という職に着いて居なかったのに。

それに名前も出来れば伏せておきたい、ブラックリスト入りされても困る、ただ偽名を使うにもこの辺りの一般的な名前が思いつかない。

「あぁ…あぅぁ…」

「なんだやましい事でもあるのか」

「あぇ…うぁぅ」

「もしかして、魔力欠乏か?」

「あぇ…??」

「魔力欠乏が原因で稀に意識や記憶の混濁が起きるって聞いた事があるし、冒険者ならその見慣れない格好も説明が着くな」

「冒険者ならギルドに行けば仲間が迎えに来るだろう、そこまで連れて行ってやる」

なんか分からんが助かった上に情報まで手に入った。

魔力欠乏って事は、この世界には魔力の概念があるのか、ようやく異世界物らしくなって来たようだ。

まずはギルドで情報を集めて当面の方針を決めよう。


「おい、早く着いてこい」

「あぇあ!!」

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