第221話 エピローグ

 9月のある日曜日のこと――


 雲一つ無い青空の下で、真っ白な教会で僕とエディットの結婚式が執り行われた。




 結婚式には多くの友人たちが訪れ、今は屋外パーティーの真っ最中だった――。


**



「それにしても驚いちゃった。いつか2人は結婚すると思っていたけど、まさか高校卒業と同時に結婚しちゃうんだから」


 

 大人びたワインレッド色のパーティードレスを身に着けたサチが飲み物を手に口を尖らせた。


「何だい?僕たちのこと、お祝いしてくれてるんじゃなかったのかい?」


 真っ白なタキシード姿の僕は苦笑しながらサチの頭を撫でた。隣ではウエディングドレス姿のエディットが僕とサチの会話を聞いている。


「アリスは大切なお兄さんが結婚するから寂しいんだろう?」


 セドリックが笑いながらアリスに話しかけて来た。


「そ、それは……そうだよ!お兄ちゃんがいつまでも頭を撫でたりするから私は兄離れが出来ないんだよ!やるならもうエディットさんだけにしておきなよね?」


「え?あ!ご、ごめん!」


 慌ててパッと手を離すと、何故かエディットが謝って来た。


「すみません。アリスさん。大切なお兄様なのに私が取ってしまった形になってしまって」


「え?そんなことないですからエディットさんは気にしないで下さいよ!そ、そうだ!どうせこれから2人はずっと一緒に暮らすのだから、向こうで女子会しましょう!」


 アリスが指さした先には高校時代のクラスメイトの女子達が手招きしている。

 きっと誰もがいち早く結婚したエディットの話を聞きたいのかもしれない。


「はい。すみません、アドルフ様。行ってきますね」


「うん、行っておいで」


 笑いながらエディットの頭を撫でると、途端に真っ赤になるエディット。僕と結婚しても恥ずかしがりやな所は変わっていない。

 エディットは僕に軽く頭を下げると、サチに連れられてパラソルの下に集まっているクラスメイトの所へ足早に向かって行った。



 2人がいなくなると、僕は早速セドリックに尋ねた。


「ねぇ、君とサチは一体どうなってるの?気持ちは告げたのかい?」


「お、お兄さん……いきなり直球の質問ですね」


 セドリックが顔をしかめる。


「それは気になるよ。1人の兄としてね」


「俺だって、結婚したい相手は彼女しかいないですよ。何しろ彼女は前世で俺の初恋の女性だったんだから」


「え?!そ、そうだったのっ?!そんなの初耳だけど?!何で今まで黙っていたのさ!」


 まさかいきなりの爆弾発言だ。


「いや、そんなこと言われても‥‥…思い出したのが昨夜だったから……。彼女、俺が中学2年の時……初めて好きになった女の子だったんですよ」


 赤くなりながらセドリックが説明する。


「それじゃ君は……僕より5歳も年下だったんだね?」


「だから、それは前世の話でしょう?今だって俺は敬語で話してるじゃないですか」


「いや、別に僕はそんなつもりで言ったわけじゃないけど……」


 すると、セドリックが僕の背中をバンバン叩きながら笑った。


「大丈夫!安心して下さいって!必ずアリスを幸せにしてみせますから!」


「うん、頼むよ」


 そして僕は青空を見上げながら思った。


 ブラッドリーは元気にしているのだろうか――と。




****


 あれから少しの時が流れた。



 

「アドルフ様、今日も授業の後は本屋さんでアルバイトですか?」


 エディットの用意してくれた朝食を食べていると、向かい側に座る彼女が声を掛けて来た。


「うん。いくら双方の両親から資金援助してもらっていても、卒業まではまだ先があるし、少しでも自分で働いておかないとね。ごちそうさま、食事美味しかったよ」


 食べ終わった食器をキッチンに運ぼうとするとエディットが立ち上がった。


「お片付けなら私がするのでいいですよ?これから大学じゃないですか」


「うん、そうなんだけど……」


 僕はすっかり大きくなったエディットのお腹にそっと触れた。


「いつ赤ちゃんが生まれもおかしくない状況だから、出来るだけエディットにはじっとしておいてもらいたいな」


「フフ……少しくらいは動いた方がいいんですよ」


「ごめん、エディット」


「アドルフ様……またそのお話ですか?」


「うん。エディットだって大学は卒業まで通いたかったんじゃないの?」


 するとエディットは首を振った。


「確かにそれは少しはありますけど……でも、私の一番の夢は大好きな人と結婚して家族を持つことだったんです。だから今、私は最高に幸せですよ」


「ありがとう、エディット」


「ところで、アドルフ様。今夜のお食事はどうされますか?」


「うん、オムライスが食べたいな」


するとニッコリ笑うエディット。


「はい、分かりました。楽しみにしていて下さいね」


「それじゃ行ってくるね」


エディットを抱き寄せて、キスすると僕はそっとエディットのお腹に手を当てた。


「行ってきます」


エディットのお腹の子供にも声を掛けると、僕は彼女に見送られながら大学へ向かった――。




****



 翌月、エディットは元気な女の子を出産した。


 色白で青い目の瞳はエディットそっくりで、僕達親子の幸せな生活が始まった。

 けれど、僕達はまだ何も知らなかった。


 生まれてきた子供自身にも、ある秘密があったことを。



 でも、それはまたいつかどこか別のお話で――。


 


<完>


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婚約者はこの世界のヒロインで、どうやら僕は悪役で追放される運命らしい 結城芙由奈 @fu-minn

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