第135話 ブラッドリーの本音
ドアを開けてくれたのは年若いフットマンだった。
ブラッドリーに会わせて貰いたいと告げると、すぐに彼は返事を聞きに行ってくれた。そして5分程その場で待たされた後、僕は応接室へ通された――。
「凄い装飾品だな……」
応接室の壁面には大きな絵画が幾つも並べられていた。天井からは豪華なシャンデリアがぶら下がり、床は重厚なえんじ色のカーペットが敷かれている。
テーブルは大理石だし、椅子は皮張りソファだった。
壁に掛けてある絵画をじっと見ていると、不意に声を掛けられた。
「アドルフ、お待たせ」
振り向くと室内にブラッドリーが現れ、僕の向かい側のソファに腰を下ろした。
「ブラッドリー。突然押しかけてごめん」
「ごめん……か」
フッとブラッドリーは笑うと膝を組んだ。
そこへ……。
「失礼致します」
年若いメイドさんが紅茶を乗せたトレーを運んでくると、僕達の前に置いてくれた。
「ありがとう」
笑みを浮かべてお礼を述べると、途端に真っ赤になるメイドさん。
「い、いえ。失礼致します」
頭を下げて、メイドさんがすぐに部屋を出て行くとブラッドリーが肩をすくめた。
「全く……相変わらずだよな。お前は」
「え?」
「俺は昔からお前のそういうところが嫌だったんだよ。誰にでも愛想よく振舞って……」
そしてブラッドリーは紅茶を手に取ると口をつける。
「そう……か」
ついに彼は本音を口にした。
「何だ?あまり驚かないんだな?」
意外そうな顔で僕を見るブラッドリー。
「それはいくら何でも気付くよ。あんなことがあったんだからね」
口には出さなかったけれども、彼は気付いたようだ。
「あんなこと?ああ、お前が本当に言われた通り馬の腹を触るとは思わなかったよ。まさかとは思ったが……やっぱり今回は演技じゃなかったんだな。以前のお前ならあんな真似絶するはずないし」
「演技?」
一体何のことだろう?
「お前……またそうやって惚けるのか?俺が何も気づいていないとでも思っていたのか?」
だんだんブラッドリーの口調がイライラしたものに変わって来る。
「アドルフ。6年前に突然演技を始めたのは俺の為だったんだろう?だったら何で途中で演技をやめるんだよ。俺がいい加減エディットにお前を諦めさせるように言ったからか?それで惜しくなったんだろう?」
「え?何だって?」
ブラッドリーがエディットに僕自身を諦めさせるように言った?そんな話……僕は知らない。
「何だよ。その顔は……訳が分からないフリしたって、もう俺は騙されないからな。ああ、それとも何か?以前馬に蹴られたショックで本当に記憶を無くしてしまったか?何しろあの時からお前は別人のように……というか、昔のお前に戻ってしまったもんな」
「ブラッドリー……」
駄目だ。僕には彼が何を言っているのか理解出来ない。アドルフとしての記憶が無いと言う事がこれほどもどかしく感じたことは今まで無かった。
ブラッドリーの話はまだ続く。
「小学校の卒業記念パーティーで俺がどれ程ショックだったかお前に分かるか?挙句に、勝手に俺を追いかけてきて、俺が投げた石を避けて勝手に階段から落ちやがって……なのに、お前は何も知らないふりして惚けたよな?それがどれだけ俺に罪悪感を持たせることになったか、お前には理解できないだろう!」
彼は憎悪に満ちた目で僕を睨みつけて来た、その時……。
「い、今の話……本当ですかっ?!」
突然部屋に声が響き渡り、振り向くとそこには顔を真っ青にさせたエディットが立っていた――。
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