第131話 今度こそヒロインと……

「エディット、何処でランチを食べたい?」


手を繋ぎながら校舎を出ると、早速尋ねた。


「アドルフ様と一緒なら私は何処でもいいです」


僕の目を真っすぐ見つめるエディット。


「エディット……」


その言葉が凄く嬉しかった。思わず顔がニヤけてしまいそうになるのを必死で堪えると、提案した。


「ならカフェテリアに行こうか?学食ではあまりゆっくりできないけど、あそこなら食後にコーヒーを飲めるしね」


「ええ、そうですね。古代文字の勉強も出来ますし」


笑みを浮かべて返事をするエディット。

そうだ、浮かれている場合じゃない。まずは5時限目の古代文字のことに集中しなければ。

ブラッドリーの話は帰りの馬車の中ですればいいのだから。


「よし、それじゃ行こう。エディット」


「はい」


僕はエディットの手をしっかり握りしめると、カフェテリアを目指した――。




****


「思った以上に、空いていたから良かったね」


食後のコーヒーを飲みながらエディットに声を掛けた。


「はい、ここは校舎から少し離れているので利用する学生がそれほど多くないのかもしれませんね」


そしてエディットはココアを一口飲むと笑みを浮かべた。

その様子をじっと見つめていると、エディットが顔を赤らめた。


「あ、あの……アドルフ様。どうかしましたか?」


「うん、エディットは本当に甘いものが好きなんだと思ってね」


「はい。甘いものは大好きです。お菓子でも飲み物でも」


「それじゃ、また一緒にこの間イチゴのシフォンケーキを食べた喫茶店に行こうか?」


甘いものは苦手だけど、エディットの嬉しそうな顔がもっと見たかった。


「ほ、本当ですか……?また……私と一緒に出掛けてくれるのですか?」


エディットがじっと僕を見つめ、尋ねて来た。その声は少しだけ震えていた。


「あ……」


そうか。エディットは口には出さなかったけど、まだあの時のことを気にしていたんだ。

お見舞いに行ったときに、僕が『さよなら、エディット』と言ってしまったあの時のことを……。


「うん。エディットが僕と出掛けるのが嫌じゃなければだけど……」


エディットを傷つけてしまった負い目からつい遠慮がちになってしまう。


「嫌なわけ、ありません。すごく嬉しいです。ありがとうございます、アドルフ様」


そしてエディットは笑顔を見せた。

その笑顔を見た時、僕は決意を新たにした。必ずブラッドリーと決着をつけようと。


彼にはっきり告げるんだ。

絶対にエディットは渡さないと。その為にはまず……。


「それじゃ、また古代文字の勉強に付き合って貰えるかな?」


「はい、いいですよ。それでは助詞の使い方を覚えていますか?これは試験に良く出るので重要です」


「うん、多分覚えているよ。それじゃ問題出してくれるかな?」


「はい、それでは……」



こうして僕たちは5時限目の予鈴が鳴るまで、カフェテリアで古代文字の勉強を続けた。

この試験でAクラスの学生達よりも良い点を取れれば、彼らに馬鹿にされることは無いし、エディットにも肩身の狭い思いをさせることも無いはずだ。


 全ての科目で良い点を取って、堂々と皆の前で記念式典パーティーにエディットと参加する。

そして6年前に叶わなかったエディットとのダンス。


今度は僕から彼女に申し込むのだ――。

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