第130話 助け舟

 急いで教室に行くと、丁度Aクラスの授業が終わったところだった。


 廊下の前でエディットがやって来るのを待ってると、ランチに行く為にぞろぞろと学生達が教室から出て来た。


 彼らは皆、僕がCクラスの生徒であることを知っている。

その為だろう。軽蔑の目を向けてきたり、聞こえよがしにあからさまな態度を取って来る男子学生迄いた。


「見ろよ、Cクラスの奴が来てるぞ」

「何しに来てるんだろうな?」

「よせよ。馬鹿な奴は放っておけ」


すごく嫌な気分だったけど、僕は聞こえないフリをした。あんな言葉聞かされたって、ここから去るつもりは無い。


「そう言えば君たち、この間の小テストで何点取れたっけ?」


すると突然不後から声が聞こえ、驚いて振り向くとそこにはセドリックとサチの姿があった。


「セドリック……」

「あ……そ、それは…‥」

「……」


途端にたじろぐ3人の生徒。


「クラスの平均点は48点だったけど、君たちは最下位だったよね?」


セドリックは僕を通り越して、視線を彼らに向けている。


「お、おい。行こうぜ」

「ああ」

「そうだな」


彼らはセドリックから視線をそらせると、逃げるように走り去って行った。


「セドリック……」


僕が声を掛けると、セドリックは肩をすくめた。


「全く、馬鹿な連中だよ」


「何も気にすることはないからね?それよりエディットを待ってるんでしょう?彼女は今日日直だから今日誌を書いてるのよ」


サチが教えてくれた。


「うん、ありがとう」


「これからランチに行くんだろう?良かったら僕達と一緒に行こうか?」


セドリックの言葉にサチが反対した。


「何を言ってるのですか?2人の邪魔をしては駄目ですよ。私たちは私達だけで行きましょう」


サチがセドリックの袖を引っ張る。


「あ、ああ。そうだな。行こうか。それじゃ、また」


少しだけ頬をあからめたセドリックはサチに腕を引かれるように去って行った。

それを見届けながら僕は思った。


良かった……。

あの2人、うまくいってるみたいだ。


その時――。


「すみません、アドルフ様。お待たせしました」


エディットが慌てた様子で駆け寄って来た。余程慌てていたのかエディットは肩で息をしている。


「そんなに慌てることは無いよ」


無意識に、いつものように笑いかけながらエディットの頭を撫でた。


「あ、あの。ア、アドルフ様……」


真っ赤になるエディットを見て、我に返った。

しまった!ここは校舎の中だったのに!


気付けば僕とエディットに注目しているAクラスの学生たちがいた。

彼らは何やらヒソヒソと話をしている。

これは……エディットの立場を悪くしてしまうかもしれない。


「ご、ごめん!エディット!そ、それじゃ行こう!」


「はい」


僕の言葉に赤い顔で頷くエディット。


「さぁ、今日はどこで一緒に食事しようかな~」


彼女の空いてる小さな手を繋ぐと、廊下を歩き始めた。

すると、エディットが繋いだ手を握り返してくれた。

それは初めてのことだった。


繋いだエディットの手から、僕に対する好意が感じられる。


それがとても嬉しかった。


僕達は手を繋いだまま、食事に向かった――。

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