第124話 6年前の記憶 7
全身に衝撃を受けて、息が詰まりそうになった。
「ゴ、ゴホッ!!」
激しく咳き込んだまま、地面に横たわる僕。
目に映る光景は満天の星空と……。
「アドルフッ!!」
ブラッドリーが僕を呼ぶ声が近づいてくるのを感じ取りながら……目の前が真っ暗になった――。
****
何も見えない暗闇の世界で、ブラッドリーが僕を責め立てる声が聞こえてくる。
『どうせ俺はお前やエディットのように賢くはないさ!だから婚約者にだって選ばれなかったんだろうさ!お前は口ではうまいこと言って、本当は俺のことをいつだって馬鹿にしていたんだろう?!』
違うよ……。僕は一度だって君を馬鹿にしたことなんか無いのに……。
エディットだって君をそんな風に思ったことは無いよ……。
『こっちへ来るなよ!お前の顔なんか見たくもない!あっちへ行け!!』
そんな……僕たちは親友同士だったはずだよね……?
僕はブラッドリーとエディットがお似合いだと思っていたのに?だってエディットは僕の前ではあんな風に楽しそうに笑ったことは無いよ……?
父の言葉が聞こえてくる。
『全く、相変わらずあの少年は礼儀知らずだな……』
礼儀知らず……?
僕が礼儀知らずなら、エディットの婚約者に選ばれなかったのかな?
そこへ、再びブラッドリーの言葉が聞こえる。
『お前やエディットは頭がいいから同じクラスになれるだろう~羨ましいぜ』
そうか……。
僕が成績を落とせば、エディットとは違うクラスになるし‥…ブラッドリーとは同じクラスになれるかもしれない。
ブラッドリーのことを考えたらエディットと同じクラスになったら駄目なんだ。
僕はブラッドリーを失いたくないし、エディットは僕といるより彼と一緒にいる方が楽しそうだ。
エディットと婚約するべき相手は僕じゃない。ブラッドリーだ。
だけど、この婚約は親同士が決めたものだし、僕の方からエディットとの婚約をやめたいと言えば彼女が傷付くだろう。
エディットの評判だって悪くなってしまうかもしれない。
だったら僕の態度が悪くなれば、伯爵だって僕とエディットとの婚約をやめさせようと考えるかもしれない。
僕が……エディットに意地悪をすれば、彼女は僕を嫌って婚約をやめたいと訴えてくるかもしれない。
だったら……僕は……。
****
ズキズキする頭の痛みで僕は目が覚めた。
目を開けると、そこは見慣れた僕の部屋だった。
「え……?」
一体、いつの間に僕は自分の部屋に戻っていたのだろう?
ゆっくり、身体を起こし……。
「う……あ、痛たたたた……」
全身の痛みと、頭の痛みで思わず呻いてしまった。
すると――。
「アドルフッ!目が覚めたのか!!」
突然近くで声が聞こえ、目を開けるとすぐ側で父が心配そうに僕を見つめていた。背後には母と兄。
更に驚いたことにエディットと伯爵までが揃っていた。
「大丈夫か?アドルフッ!!」
父が心配そうに声を掛けてくる。
「アドルフ……良かったわ、目が覚めて」
涙ぐむ母。
「お前、2時間近く意識が戻らなかったんだぞ?」
兄が腕組みしながらため息をついた。
「アドルフ様……ご無事で良かったです‥‥…」
泣きながら僕を見つめるエディット。
ごめん、エディット……。
もう心に決めた。今から僕は……。
「何だよ、揃いも揃ってうるさい奴等だな‥‥…。俺は頭が痛いんだよ!さっさと出てけ!1人にさせろよっ!」
全員を睨み、大声で怒鳴りつけた。途端に皆が驚いた様子で僕を見る。
僕は今から変わる。エディットの婚約者として相応しくない男になる為に。
その時、僕の視線の先には扉の近くで驚いた様子でこちらを見ているブラッドリーの姿があった――。
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