婚約者はこの世界のヒロインで、どうやら僕は悪役で追放される運命らしい

第115話 ヒロインと一緒に

「あの……エディット」

「はい、アドルフ様」

エディットが返事をする。

「そろそろ……手、離して貰えると助かるんだけど……」

「え？キャアアアアッ！！」

途端にエディットは真っ赤になると、手を離した。

「す、すみません！わ、私ったら……な、なんてことを……」

俯くエディットは耳まで真っ赤になっていた。

あんなに酷い態度を取ってしまったのに、僕のことを心配して居残りしてくれるなんて。

やっぱり僕は……。

「ごめんね。エディット」

未だに俯いているエディットに声を掛けた。

「え……？」

エディットが驚いた様子で顔を上げた。

「昨日、あんなに酷い態度を取ってしまったのに……僕を心配して、目が覚めるまで待ってくれていたんだよね？」

「はい。私はアドルフ様にとって、迷惑な存在なのかもしれません。それでも心配で……前回、馬に蹴られてしまった時のことを思い出すと、いてもたってもいられなかったんです。だってあの時アドルフ様は5日間も目を覚まさなかったのですよ？」

エディットは涙目だった。

「うん。確かにそうだったよね。だけど、僕は一度もエディットを迷惑な存在だとは思ったことは無いよ？」

「アドルフ様……」

大きく目を見開くエディット。

あの時、僕は馬に乗る為に厩舎へ行った。

だけど何故乗馬をやろうと思ったのだろう？以前のアドルフの記憶は、今の僕には全くと言っていい程残っていないので理由が全く思い当たらない。

でも、誰かと約束をしていた気もする。一体誰と……？

すると頭が一瞬ズキリと痛んだ。

「う！」

思わず呻くと、エディットが心配そうに声を掛けて来た。

「アドルフ様、どうかされましたか？やはりまだどこか体調が悪いのではありませんか？」

「あ。ご、ごめん。今……以前馬に蹴られた時の記憶が少しだけ思い出した気がしただけだよ。だけど、頭痛が起きて……」

頭を押さえながら苦笑いした。

「アドルフ様、頭が痛くなるなら無理に思い出さないほうがいいですよ。それよりもそろそろ帰りませんか？もう下校時刻はとっくに過ぎていますから」

「うん。そうだね……。それじゃ……」

僕はエディットに右手を差し伸べた。

「一緒に帰ろうか？エディット」

「！は、はい……」

エディットは一瞬、泣きそうな笑みを浮かべ……小さな手で僕の右手に触れて来た。

僕はその手をしっかりと握りしめた――。

「アドルフ様、制服をどうぞ」

エディットがきちんと畳まれた制服を差し出してきた。

「制服……？これ、どうしたの？」

ブラッドリーがエディットに届けたのだろうか？

「いや、馬術教師が届けてくれたんだよ」

すると、今まで気を使って席を外してくれていたのか校医の先生が医務室に入って来た。

「そうだったんですね」

「アドルフ様。着替えて帰りますか？」

エディットが尋ねて来た。

「うん、そうするよ」

「それでは私は廊下で待っていますね」

「すぐに着替えて行くよ」

するとエディットはニコリと笑って医務室を出て行ったので、僕は早速カーテンの奥で着替えを始めながら、ふと思った。

そう言えば、ブラッドリーは今どうしているのだろう――と。