第62話 和解?
「おい、エディットが一緒にいるのって…今噂になっている2人の転校生じゃないか?」
ラモンが僕に声を掛けてきた。
「う、うん……。そうみたいだね……」
「そうみたいだねって、随分他人事みたいな口ぶりだな」
ブラッドリーが何処か非難めいた口調で僕を見た。
「別にそういう訳じゃないけど…ほら、エディットはAクラスの委員長だろう?だから転校してきたばかりの2人のお世話係みたいなものをしているんじゃないかな?きっとそうに決まっているよ」
僕は皆に…と言うか、自分自身に言い訳するかのように言葉を口にした。
「なるほどな。きっとその通りなんだろう?」
エミリオは僕の言葉に納得したのか頷く。
「そうか……まぁ、お前がそんな風に考えているなら別に俺は構わないけどな」
そしてブラッドリーは再びコーヒーを口にした。
「……」
けれど、自分ではそう言いながらも実際はエディットのことが気になって仕方がなかった。
エディットは僕に背を向けるような形で座っているので僕に気付いている様子はない。
一体どんな話をしているのだろう……?
あんなに2人の仲を取り持とうと思っていたのに、何故か今は……サチが一緒にいるにも関わらず、エディットと王子の様子が気になって仕方がなかった。
友人たちの会話に相槌を打ちつつ、ついチラリとエディットの後ろ姿を見た時……。
運悪く、王子と視線があってしまった。
すると、何故か王子は僕に冷たい視線を向け…すぐにエディットに笑顔を向けて何事か話しかけている。
「!」
その姿に一瞬驚いた。
ひょっとすると、王子は僕にエディットと親しくしている姿を見せようとしているのかもしれない。
やっぱり王子はエディットが気にいったんだ。
この様子だと、2人が親しくなるのも時間の問題かもしれない……。
僕は無理やり自分に言い聞かせ、すっかりぬるくなったコーヒーを口にした――。
****
5時限目の地学、6時限目の美術の授業も無事に終わり……ついに放課後になった。
帰り支度をしていると、エミリオが声を掛けてきた。
「アドルフ、お前本当に一緒にダーツをしに行かないのか?」
「うん、ごめん。約束があるからさ」
「お前、男の友情より女を優先するのかよ」
ラモンが口をとがらせると、ブラッドリーが間に入ってきた。
「まぁ、仕方ないだろう?女と言ってもエディットはアドルフの婚約者なんだからな。ダーツの店には女の子たちも集まってるんだから、俺達は俺達で楽しめばいいだろう?」
「そうだな。アドルフがいなければ俺たちにもチャンスが回ってくるよな」
「こいつ、女にはやたらモテるからなぁ」
ラモンとエミリオが僕を見ながら頷きあう。
「よし、それじゃ行こうぜ。ラモン、エミリオ。アドルフ、お前もあまりエディットを待たせるなよ」
「うん、分かったよ」
そして3人は教室を出て行った。
「よし、僕も急ごう」
片付けを終えると、急ぎ足でエディットとの待ち合わせ場所に向かった――。
****
正門を抜けて緑道に出ると、白い馬車が止まっているのが見えた。
「エディットの馬車だ」
きっと、もう中で待っているに違いない。慌てて馬車へと向かった。
もうすぐ馬車に到着するというところで扉が開かれた。
「アドルフ様」
エディットが扉を開けて声を掛けてきた。
「遅くなってごめん、エディット。待ったよね?」
「いいえ、大丈夫です。どうぞお乗り下さい」
「うん、ありがとう」
馬車に乗り込み、扉を閉めて椅子に座るとすぐに馬車は走り始めた。
「エディット。今日は君に変なところを見られてしまったけど、あれは違うんだよ」
僕は早速誤解を解こうとエディットに話しかけた。するとエディットから意外な答えが返ってきた。
「はい、分かっています。アリス様から伺いましたから」
「え?」
サチがエディットに……?
一体どんな話をしたのだろう?
「実はあの時間はAクラスは美術の時間だったのです。校内写生が課題で、グループを組んで写生をすることになっていました。私はクラス委員長ということもあって、アリス様とセドリック様と同じグループを組んでおりました。そして気づけばアリス様がいなくなっていたのです
「いなくなった?」
ひょっとして、サチは周りの景色に興奮して勝手に行動してしまったのかもしれない。
「それで慌ててセドリック様とアリス様を探していた時に……アドルフ様とアリス様が一緒にいるところを目撃したのです」
それがあの時のことだったのか。
「最初に御二人の姿を見た時は、すっかり勘違いしてしまったのですが……アリス様からお話を伺いました。アリス様はあの旧校舎が気に入ったらしく、写生場所を探していた時にアドルフ様と思いきりぶつかってしまったのですよね?」
「え?」
ぶつかった?僕とアリスが?
「そのまま御二人は地面に倒れ込んでしまい、慌てたアリス様がアドルフ様の様子を見ていたところだったのですよね?ただ…それだけのことですよね?」
どう考えてみても、苦しい言い訳にしか聞こえないのにエディットはその話を信じている。いや、ひょっとすると信じようとしているのかもしれない。
何故なら彼女の小さな手が少し震えていたからだ。
「エディット…」
僕はエディットの小さな手に自分の手を重ねた。
「ア、アドルフ様…」
エディットが顔を赤らめて僕を見る。
「そのとおりだよ。僕とあの女子学生は偶然あの場で出会っただけの関係だから」
そして僕はエディットの手を包み込んだ――。
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