エピローグ
「それじゃ、いってくるよ」
「いってらっしゃい」
玄関の扉を開ければ、穏やかな風が吹いていた。。春の陽気を全身で味わう。
冬は過ぎ春の訪れ。
季節の訪れは誰にも平等だが、それぞれに趣は異なる。
始まりか、終わりか、それは本人にしかわからない。今年の春は加治屋にとって再出発の春だった。
スーツを着て、教師として働くことになった学校へ向かう。
ビリオンスターズで過ごした日々は過去になった。もう、汗を流しながらバットを振ることもボールを投げることもない。決められた時間に決められた場所で働く。
しかし、あの日々が。
独立リーグという、プロリーグの幻想のもと集まった野球人たちと野球ができたことを加治屋は覚えている。
記憶は薄れ、あの日々が忘却の彼方へ誘われるのは人の性だとしても、失うことはない。永遠に生きつづける。
入学式を終えた教卓には一人の新任教師がいた。
齢は二十六歳。スーツも真新しい。
ファンからの熱い視線は生徒からの視線に変わった。
加治屋昌隆。
元プロ野球選手の第二の人生が始まった。
定年、26歳 地引有人 @jibikiarihitoJP
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