第25話 途切れぬ道のり
三日間に及ぶ航海が終わろうとしている――。当初の予定よりも二日は早い到着となり船員も
「たったの三日間だったのか……なんだかすごい長い間船に乗っていた気分だなぁ……」
「うん……でもすごい貴重な経験だったよ」
「たしかに今までのクエストでは味わえないようなことだったと思うわ……」
ブラウたちは船の先端から港を眺めつつクエストの終わりを感じていた。セキはというと結局船の
また、
「まぁお前の説得のおかげでブラウも自信を取り戻したし今回は大目に見るけどな……あーいうのはほんとおれ苦手だ……」
「ファファファッ……我の助言を受けられるなど至上の喜びであっただろうの」
セキの頭の上で潮風に吹かれながらカグツチは満足そうに答える。と、そこに
「セキとカグツチ様はすぐにでもスピカに行っちゃうのー?」
「うん。ちょっと中央で不穏な噂も聞いたからまずは村に行っておきたいと思ってるんだ」
「そっかぁ……町で最後の食事でも、と思ったけどそういう理由ならしょうがないわよね。えっと……それじゃこれ、
クリルは
「ありがとう。村の様子を確認した後に早速使わせてもらうようにするね。それでこれはおれから
今度はセキが丸めた樹皮紙をクリルに渡す。それを不思議そうに受け取ったクリルが丸まっている樹皮紙を開くと。
『ハネ爺まだ生きてる? おれが旅でお世話になった
あともちろんだけど――』
という内容だがセキが記す文字は
ついでにカグツチの手形まで付いておりその後にも文章が続いているが少し物騒な内容となっているため、自身の村の鍛冶師への魔装作成の依頼書ということだけを伝える。
「え……セキそれって……?」
クリルの開いた樹皮紙を前のめりに覗きこんでいたブラウがセキを見上げる。
「うん。
「あ、もしかして鍛冶街ですか?」
セキの質問にゴルドがはっとした表情で答える。
「そうそう! 精選の時期に合わせて、おれの故郷の鍛冶一家もそこに武具を売出しに行ってるんだ。今も時期的にちょうどいいから
他の鍛冶屋に頼んだことがないため語尾に自信の無さが表れているセキ。
頬を指でかきながら視線が盛大に泳いでいる。
「今、おれの手持ちにも少し魔力源になる爪とかはあるんだけど、魔装に合うように魔力源は見繕ってもらってから作るほうがいいと思って……迷惑でなければだけど……」
セキの言葉に
「ほ、ほんとにいいのか!!」
ブラウがセキに確認。
「こ、これはもう『嘘だよー!』なんて言ってもダメですからね??」
さらにゴルドも確認。
「え、別に
クリルはセキに飛びつき両手で抱きしめるとセキの顔は豊満な胸の谷間へと埋まっていく。
探求士たちの生命線とも言える魔力源と魔装。
あるとないでは探求士としての強さ、魔獣討伐の成功率は雲泥の差であることは言うまでもない。
それ故に入手への道のりも遠く険しいものとなることを探求士は覚悟している。
その魔力源と魔装入手の
「むぐぐぐぐ……! ぐぐぐむぅ……」
(な、なんだこれ……ふわふわでいい匂い? 締め付けられているはずなのに心地よさが増していく……? 魔装よりもよっぽど凶悪な武器なんじゃ……)
クリルの谷間を堪能しているセキにブラウは興奮気味に語り掛ける。
「こ、こんな紹介状のお礼で魔装なんて……! 聞いたこともないぞ! い、いくらお前が世間に疎いと言っても……」
お礼が大きすぎると言いたいブラウの懸命な言葉は谷間を堪能しているセキにはもちろん届いていない。
「こら、クリル! そんな締め付けてたらセキが息もできないだろう!」
ゴルドがクリルを叱るとクリルは慌ててセキから両手を放し一歩下がり頭を下げながら謝罪の言葉を口にする。
「わっ! ごめーん! 苦しかった? うれしくてつい……ほんとにありがとうね!」
「えっ? むしろお礼を言うのはおれのほうだと思うんだけど……あ――いや、ううん、そんな大げさな……」
クリルが頭を下げるときもセキの視線はもちろん、
「あっ……うん、まぁ気にしないでよ……故郷は『コト村』っていう名前だからそこから来てる鍛冶師を探してもらえれば見つかると思うよ。もしくはさっぱり売れてない出店に聞けばたぶんそこ……」
「えっ? あっうん……わ、わかった?」
ブラウは多少混乱気味に返事をする。
「なんかいつも言ってたんだよね。『どいつもこいつも刀の良さがわかっとらん! 何がそんな細い刃で魔獣を斬れるんですか? だ! 刀は斬ることを追求してこの形になっとるんじゃ!』ってね。それで一本も売れずに帰ってきてたから」
「そこの鍛冶一家のじいさんが彫金師も兼ねてるからゴルドも魔装は大丈夫だと思う。うん、なんというか……うん……」
セキはクリルをちらちら見ながら気まずそうに言葉を放つ。
◇◆
「さぁ! 到着だ! 長いようで短い航海だったがみんなの協力に感謝する!」
「いやー! こんなに早くつけるなんてなぁ! 待ってるやつらも驚くだろうなぁ」
船員は意気揚々と錨を下ろし下船準備に入っている。
筋骨隆々の船員たちが一同満面の笑みで作業を行うその姿は事情を知らない者にとっては少々怖い絵面でもある。
「いやー船長さんに頼んで大正解でしたよ! これでゆっくりと商談の準備ができる!」
船内にいた行商たちも下船しながら口々に船長へのお礼の言葉をかけていく。そして護衛であるセキやブラウたちの所へ船長がやってくる。
「これは今回の護衛証明だ。ちょっと色を付けるようギルドにもしっかり報告しておくから安心してくれ!」
船長がクエスト完了の樹皮紙をブラウに渡すと
「あ、船長。おれの分は入りませんよ。出港当日に無理を聞いてもらった上に代金までもらうのはちょっと……それに特にクエスト? とかを受けてるわけでもないので」
セキが代金を遠慮していると。
「何を言っているんだ。今回セキがいなければあの『
船長は樹皮紙をすっとセキに向けるが――
「あははっ。評価してもらえてうれしいですが、乗せてもらった上にこの船のおかげでたった三日で
セキはにこにことしながら樹皮紙を持った船長の手を船長の胸元へ優しく返す。
その表情を見ると船長もそれ以上の無理強いは粋ではないと判断をしたのか、樹皮紙を持つ手を下ろしセキの笑顔に釣られるようにその風格ある表情を破顔させる。
「そ、そうか……それならばまた船が必要な時はぜひとも俺に声をかけてくれ! むしろセキが乗船するならこっちとしても願ってもないからな!」
「ええ、必要な時はぜひとも頼らせてください。それと今回の乗船ほんとにありがとうございました」
「ああ!
「はい!」
乗船時のように船長とセキはがっちりと握手を交わす。ブラウたちも同様に船長と握手を交わし四名の探求士は船から降りていく。その姿を見た船員たちからも感謝の言葉や再会の言葉が向けられていた――
「よし! それじゃ今日はベスで一泊して明日『ギータ』を目指すことにしよう」
船を下りたブラウがクリルとゴルドに今後の予定を告げる。『ギータ』とは
クエスト完了報告はベスでも可能だが
「うん、そうだね。もう日も暮れてきてるしそのほうがいいだろうね。でも……セキはほんとにもう出発してしまうのかい? 今日くらい一緒に町に泊まっていっても……」
ゴルドは名残惜しそうにセキに視線を送る。
「ん~ありがたいんだけど、もう海やらで行く手を阻まれることもないって思ったら落ち着いていられなくて……だからおれは行くよ。もらった紹介状はスピカに行ってから使わせてもらうから!」
「そっかー……
セキの言葉に少し残念そうにするクリルだが、気を取り直し別れの言葉を口にする。
「俺たちは同じ探求士だ! また会うこともあるだろう! 次会う時は俺もセキに負けないように強くなっているからな!」
ブラウはあの船尾での一件が嘘かのように自信を取り戻し、また会う日への約束を交わす。
「今回の船旅は僕たちにとってすごい貴重な経験になりました! 何か困ったことがあったらいつでも力になりますからね!」
ゴルドが自身の前でぐっと拳を握りしめる。
「
カグツチの言葉にブラウは無言で頷く。
「こっちこそ
セキが
「やだー! セキ走ってもあんなに早いの? ブラウと大違い!」
「お、お前! ほら……えーっと……セキはコートにシャツにズボンに武器、うん、武器すっごい差していたけど。俺はライトアーマーにインナーにズボンに武器! 鎧の有無はでかいだろ!」
「ブラウ……鎧の有無はわかるけど、なくてもあの速度はでないでしょ……それにカグツチ様が言ってたこともう忘れたの……?」
クリルの言葉にムキになるブラウをなだめるゴルド。いつもの
「う……わ、わかってるよ……俺はセキとは違う。俺はセキになれないけど……セキだって俺になることはできないんだ!」
「セキはブラウになりたいなんて思わないでしょ」
「クリル~~~~!」
ブラウの言葉をクリルが指摘しゴルドが泣きそうな声で叫ぶ。これもまた
「いつかお前の隣で戦えるようになってみせるからな……ん~……やっぱり斜め後ろくらいかな……」
「ブラウー! 何してるのよ! 早く宿に行きましょうよー!」
先に歩いているクリルが振り向きブラウを急かす――
「そんなに急かすなって! 道は途切れてないし、しっかりと続いてるんだから!」
不思議な顔をするクリル。だが隣のゴルドの口角で弧を描きながら優しい目で駆け寄ってくるブラウを見つめていた――
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