第84話 ゴールデンウィーク入り
ゴールデンウィークのデートは、出かけるなら連休の前半に出かけて、後はゆっくりするのがいいよね、という話になって連休初日に決まった。
「要さんは他に出かけないんですか?」
「だってゴールデンウィークって、限定イベントやってるし、紗来ちゃんともいちゃいちゃできるし、わざわざ他の用事を入れる必要ないでしょ?」
「家に籠もってゲームするってことですね」
要さんらしすぎて溜息が出る。でも、最近要さんがゲームをしていないと、何かあったのかな? と思うくらいになったので、私も要さんの生態に慣れてしまっている。
美人が家に引きこもって勿体ないって思いはあるけど、逆にそれは私が要さんを独占できるってことでもある。
私の方はというとゲームは相変わらず上達していない。それでも何回かに一回は一緒にしよう? と誘われるのでトライしているものの、下手の横好きなだけだった。
でも、元々ゲーム実況を見ていたくらいなので、要さんのプレイを隣で見ているのも苦にならないし、時々要さんに調べ物を頼まれると嬉しくなる。なので、今の状態に文句を言うこともなかった。
「今からゴールデンウィークの旅行を予約するのは無理があるけど、夏休みは合わせて一緒にどこかに行かない?」
「そうですね。要さんのところは夏休みっていつもどんな感じなんですか?」
うちの会社はお盆休みはなくて、7月から9月の間に好きな日に夏休みを取る仕組みになっている。自由にとは言っても仕事の波もあるし、みんなが同時に休むと困ることも多い。
「時と場合によるかな。今年は今のところ夏に大きなリリースもないし、紗来ちゃんに合わせられるよ」
「私は……いつ取れそうか考えておきます」
WBSはどうなっていたっけ? と思い浮かべながら、一応リーダなので、国仲さんと予定をずらせれば休めるかな。
「今度は2人っきりでお風呂に入れるところにしようね」
「なら、旅館じゃなくてホテルっぽいところの方がいいかもですね」
「部屋から出られなくなる気がする」
「シングル2部屋にしましょうか」
その理由にすぐに思い当たって、突き放してみる。
「それ、普段より距離あるってことじゃない」
「要さん、その気になったら止まってくれないですから」
「だって、紗来ちゃんに触れたいんだもん……紗来ちゃんの負担になってる?」
上目遣いで見てくる要さんは狡い。そんな目をしたら駄目とは言えなくなってしまう。
「そういうんじゃないです。ただ、家でも結構してる方だと思ってるんですけど、旅行に行ってもそっち優先なんだなって思ってるだけです」
「狭い家でご飯食べるよりも、自然を感じて開放感がある場所に行ったら美味しく感じるじゃない? それと一緒」
要さんって仕事では論理的で頼りになるインフラ屋さんなんだけど、プライベートは真逆でびっくりするくらい感性のままな人だった。
でも、そんな要さんを私だけが知っている嬉しさはある。
「我慢したくないってことはよく分かりました」
「余裕を持ったスケジュールに、あらかじめしておけばいいんじゃないかな」
要さんが我慢するわけないか、と思いながら夏休みの話は今後詰めて行くことにする。
まずは目前のゴールデンウィークの計画を立てようと思いながらも、お客さんとの要件定義の打ち合わせ準備で毎日ばたばたしている内にゴールデンウィークがやってきてしまう。
たまたまだけど、ゴールデンウィーク前の最後の打ち合わせがインフラチームとの打ち合わせだった。
参加者は、他のメンバーが忙しくてアプリチームは私だけ、インフラチームが要さんと有瀬さんだった。
時間がないこともあって、以前説明した対応内容からの変更点だけに絞って、要さんと有瀬さんに伝える。
作業量的には、多分一人でできる範囲だろうけど、有瀬さんのOJTも兼ねているのだろう。有瀬さんがいくつか質問を投げてくる。
でも、あれ? と思うことがあった。
初めて合った時の有瀬さんは、好戦的な感じだったけど、今日は気になることを冷静に確認してきて、最後には検討します、と笑顔まで向けてくれた。
「お願いします。気になることがあったら、何でも聞いてきてくれたらいいよ」
それでその場は平和に終わったんだけど、問題なのは帰ってからだった。
「紗来ちゃん、有瀬さんに優しすぎない?」
例の如く泊まりに来た要さんは、背後から私の腰に腕を回して離れる気配がない。
男性といてならまだしも、女性と仲良くなって拗ねなくてもいいのに。
「普通に後輩に接しているだけですよ」
「有瀬さんは他部門なんだし、優しくしなくていいから」
「仕事を円滑に進める為にしてるだけです。それ以外の他意はありませんし、相手は女性なんですから気にする必要ないじゃないですか」
「やだ。わたしの紗来ちゃんだもん」
「そうですね。飲み会の時もですけど、要さんは有瀬さんを気にしすぎじゃないですか? それとも有瀬さんも女性が好きなんですか?」
「知らない。興味ない」
「じゃあいつまでも拗ねてると、今日は一緒に寝てあげませんよ」
「それはだめ」
それで漸く要さんは諦めてくれて、明日の用意を軽くしてから2人でベッドに入った。
翌朝は会社に行くのと同じ時間に起きて、2人で電車に乗る。
要さんが選んだ今日の目的地は、海沿いの古刹の街だった。メジャーな観光地で、要さんの性格を考えるとちょっとだけ意外な場所だった。
それでも行ったことがない場所だったし、ターミナル駅で乗り換えて何とか座る場所を確保できた。そうなると少し長めに電車に乗るということもあってか、自然と睡魔が襲ってくる。
その原因を作った要さんも当然ながら眠そうで、私はいつの間にか眠りに落ちていた。
「紗来ちゃん、次の駅だから起きられる?」
要さんに腕を揺さぶられて、私は意識を戻す。1時間は掛かったはずなのに、もう着いたの? って思ったくらいだった。
「起きました。要さんはいつから起きていたんですか?」
「2、3駅位前からかな。紗来ちゃんすごくよく寝ていたから」
「眠いのは要さんのせいですからね」
「そうだね。だって我慢できなかったんだもん」
「……可愛く言っても要さんのせいは要さんのせいですから」
昨晩は明日の予定を立てるはずが、要さんが拗ねていたせいで、結局何も決まらないまま見切り発車になってしまった。
「それは紗来ちゃんに慣れてもらうしかないかなぁ」
「開き直らないでください」
そんなことを言ってる内に電車は駅に到着して、ホームに降りる。
ゴールデンウィークということもあって、同じ駅で降りる人はそれなりに多くて、要さんに手を引かれて引き寄せられる。
「迷子になるかもしれないでしょ?」
要さんが手を繋ぎたいという本心は隠れてもいなかったけど、人混みの中だしいいか、とそのまま改札に向かった。
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