第83話 計画
週末は、要さんの甘えん坊モードが継続していて、私の部屋で2人で過ごした。
ベッドに居てもくっついてくるし、コタツに移動してもくっついてくるので、じっと視線を投げかける。
「だって、紗来ちゃん今週は週2でしか来てくれなかったじゃない」
「元々そういう約束でしたよね?」
「紗来ちゃん、わたしがいなくても全然平気ってことなんだ」
「そんなことないですけど……平日って仕事で一杯一杯なことも多いので、必要最低限の生活をするのがやっとなんです」
「それでも紗来ちゃんの顔を見られるだけでわたしは嬉しいんだけど」
「そんな風に言っても戻しませんよ。もうしばらくは我慢してください」
私だって本心を言えば要さんには毎日会いたい。
でも、このまま要さんと一緒に暮らし始めたら、私は毎日要さんに仕事の愚痴を言う嫌な存在になりそうな気がする。
ちょっと言うくらいならいいかもしれないけど、仕事のことで余裕のない自分を、私は要さんとの関係に持ち込みたくない。
社会人になって思ったのは、社会人って生きて行くために仕事をしているはずだけど、いつのまにか仕事をするために生きてるみたいになる。
一日の大半を仕事で費やして、残る時間は必要最小限の労力で動くみたいな、そんな生活に私はもう馴染んでしまっている。
その中に要さんが入ってくるようになって、要さんと一緒に生活をすること自体は楽しいけど、同時に要さんは私を甘やかしてくれるから、ついそれに頼ってしまう自分にも気づいた。
でも、それでいいの? って思う自分がいて、自力で解決しないといけない問題と、要さんに頼ろうって部分の切り分けをできるようになりたかった。毎日一緒だとずるずるになりそうで、振り返る時間が欲しくて、今は一人でいる時間も欲しい。
「もうしばらくって紗来ちゃん言った。3ヶ月くらい?」
要さんがめげないのはいつものことだ。
半年なのか1年なのか、それ以上なのか、いつ決断できるかって目測もできてないけど、要さんの言葉に国仲さんに連れて行ってもらった叶野さんと国仲さんの家を思い出す。
同棲するとなると、やっぱりああいう感じの家に引っ越すになるだろう。
「そんなのまだ分かりませんからね。それに一緒に暮らすってなると、それなりに家具とか家電とか買い直さないと駄目ですよね?」
「そうだね。敷金とか礼金もいるし、じゃあ毎月2人で貯金するところから始めようか。1万ずつだと月2万で、年24万……ちょっと少ない? でも倍にするのはしんどいよね?」
同じ会社なので、要さんは私の給料は、過去の自分の給料からおおよそ見当がついてるだろう。寮費扱いだから家賃は相場より抑えられているけど、残業がないとそこまで余裕があるとも言えない。
「そうですね。遊びに行く資金は欲しいので、せいぜいボーナスの時に多めに貯金するくらいでしょうか」
「そうしようか。じゃあ、給料日の後に毎月紗来ちゃんに渡すね」
「私に預けて、もし何かあった時に返さなかったらどうするんですか?」
「紗来ちゃんならそんなことはしないって思ってるから大丈夫。ほら、わたしはそういう管理が苦手な方だから、一緒に管理しておいた方が貯まって行く感があるでしょう?」
「……わかりましたけど、その前に要さんが貯金してるのか、の方が気になって来ました」
要さんはバックとかアクセはそんなに高いのは買わないって聞いたことがあったけど、服には少なくとも私よりはお金が掛かっている。
「ん……毎月こつこつはできてないけど、紗来ちゃんと新婚旅行に行けるくらいには貯めてるかな」
「折角貯めたのに、一瞬で使おうとしてますよね?」
なんでどさくさ紛れにそんな例を出すのかな、と思うけどそういう発言にも多少は耐性はできている。
それに、多分要さんの本心も入っている。
「一生に一度のことなんだからよくない?」
「そういうことは、私が承諾してから言ってください」
「じゃあ、言っていい?」
「言っちゃ駄目です。家でだらだらしていて、そんなついでみたいに言わないでください」
「紗来ちゃんって、タイミングとか場所重視なんだ。どこでするか考えておこう」
変に知恵を入れてしまったかもしれない。
冗談っぽく言うならまだしも、真顔で要さんに言われると押し負けてしまいそうな自信はある。
「そんなことよりも、今は考えるとすればゴールデンウィークの予定の方じゃないですか?」
今年のゴールデンウィークは、日並びもあって5連休になっていた。4月のプロジェクト開始のことで頭がいっぱいいっぱいで、あと3週間くらいなのに何も予定は立てられていない。
「流石にこれから旅行の予約は厳しいだろうし、紗来ちゃんと家でエッチするでいいよ」
「さらっと言わないでください。5日もあるんですよ」
「大丈夫、大丈夫。5日なんてあっという間だから」
「その後、社会復帰できなくなりそうなんですけど」
何となく、できてしまいそうな予感はある。でも、その後、日常に戻れる気がしない。
「駄目か。じゃあ、日帰りでどこか行こうか。紗来ちゃん行きたい場所ある?」
「たまには要さんの行きたい場所を言ってください。いつも私の意見を大事にしてくれるのは嬉しいですけど、要さんが行きたいと思ってる場所にも行かないと不公平です」
「うーん、じゃあラブホとか?」
「要さん!!」
「冗談だから、そういう怒った紗来ちゃんも食べちゃいたいくらいに素敵だけど、すぐには浮かばないから考える時間ちょうだい」
「わかりました」
要さんも私も基本家でいい方なので、こういうのを出すのは苦手な方だった。
「じゃあ、それは今後の検討ってことにして、今日は2人で仲良くしよう?」
要さんの腕が腰に回ってきて、引き寄せられるままに身を委ねる。
やっぱり週末はこうなるんだなと思いながらも、私も平日の疲れは癒やされたかった。
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