第66話 要さんの望み
要さんが全然離してくれなくて音を上げると、
「休憩しようか」
「終わる気はないんですね」
「うん。だって、今日の紗来ちゃん可愛すぎるんだもん」
やっと要さんに体を解放してもらえて、そのままうつ伏せに布団に身を預ける。
糊のきいたシーツに顔をくっつけると、肌触りが良くて気持ちがいい。
「要さんはエロすぎです」
普段は大雑把なのに、エッチをしている時の要さんはしつこいくらい丁寧で、時間を掛けて溶かされる。気持ち良くても、集中力が続くかと言われれば限界がある。
でも、いつもなら音を上げれば解放してもらえるけど、今日はしてくれなさそうだった。
恋人同士で旅行なんてそんなものなのかもしれないけど。
「紗来ちゃんへの愛情があってのエロだからね」
「そういうことを力説しないでください」
要さんの腕が私の腰に回ってきて、掛けられた力に従って横寝に変える。そのまま腰を引かれて抱き合う形になった。要さんの細い腕には束縛する程の力はなくて、緩く繋がる。
「そこが大事なんじゃない。わたしはもう紗来ちゃんとしかこういうことしたくないから」
「他に魅力的な人は一杯いますよ?」
「それでもわたしには紗来ちゃんが一番合うんだってもう分かったからね」
「そんな迷いなく言わないでください」
私は迷ってばかりなのに、要さんは迷いなく私を求め続けてくれる。それに答えたい思いはあるけど、答えられる自信はまだない。
「これはちゃんと言っておかないと駄目なことじゃない? わたしは悩むよりまずやってみるタイプだけど、それでもこれは真面目に考えて出した結論だから、紗来ちゃんには知っておいて貰いたいの」
「要さん……」
応え切れていないのは私なのに、要さんの愛情は私を包んでくれる。
「さっき、わたしのお願いも聞いて貰うって言ったの覚えてる?」
それは私が要さんを露天風呂に引っ張って行くことの対価のことだろう。
夜に、と要さんが言ったので、恥ずかしいことをしてと言われるのかと何となく考えていた。
「できることとできないことがありますからね」
「叶えてくれないと泣いちゃうかも」
「……とりあえず聞きます」
要さんに特殊な性癖があったらちょっと応えきれる自信はない。でも、どういうことを求められるか想像もつかなかったので、要さんが口を開くのを待った。
「半分だけ、同棲しない?」
「半分ってどういうことですか?」
要さんからの要望は、今何かをしろというものではなかった。
同棲は前から要さんが望んでいることは知っているけど、一緒に住むってことは逃げ場がなくなるので、私の心の準備ができてからじゃなければ失敗しそうな気がしていた。
「今のまま隣に住んで、週の半分くらいは2人で同じ部屋で寝起きするのはどうかなって」
平日は前もって予定が合わせづらいこともあって、隣に住んでいても会うことは少ない。だって、会うとそれだけで済まなくなるだろうし、翌朝のことをつい心配してしまうのは私の悪い癖だ。
要さんがもっと会いたいと思っていてくれることは知っていたけど、今言うということは前から変えたかったのかもしれない。
「それは要さんか私かが泊まるって理解でいいですか?」
「そう。どんなバランスがいいかは、始めてみないと分からないけど、わたしは平日も紗来ちゃんと一緒に過ごせる時間が欲しい」
「完全に同棲じゃなくていいんですか?」
「紗来ちゃんが頷いてくれるなら、明日からだってしたいけど、それは紗来ちゃんがわたしと生きるってちゃんと腹をくくれた時だって思ってるから」
私にはまだ今を要さんといることしか見えていない。要さんもそれは理解してくれているということだろう。
「それでも要さんはできるだけ一緒に過ごしたいって思ってくれてるってことですよね?」
「わたしは紗来ちゃんに悩みを背負わせてるからね。何かあったらすぐに気づけるように傍にいたいし、紗来ちゃんに頼ってもらいたい。今の距離は今の距離で楽しいけど、わたしは紗来ちゃんの手を離したくないから」
要さんの半分だけ同棲しようの理由は、想像したよりもちゃんとした理由があるものだった。
いや、要さんは本当に私の迷う性格をよく分かっている。距離があれば何かあった時に壊れる確率が高くなる。それをできる限り0に近づけたいと言ってくれているのだ。
「要さん……」
「だめ?」
要さんは私を抱き締めていて、表情を確認することもできなかった。
でも、
「要さんがそこまで望んでくれているのなら、まずはお試しで始めてみてもいいですよ」
「本当に? 紗来ちゃん大好き」
要さんに更に力を込めて抱き締められ、乗せられた感はあるけど、関係を近づけ合うことには前向きになれていた。
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