第42話 出張

週末は久々に出かけない日にしようと決めて、要さんとゲームをしたり、2月の旅行の計画を立てたりであっという間に時間は過ぎていた。


週明け、要さんは小さなカートに1週間分の着替えとちょっとの生活用品を詰めて旅立つ。



紗来ちゃん、着いた

電車長過ぎ


お疲れ様です

電車は我慢してください

午後からすぐに仕事ですか?


うん

今日はデータセンターの入館手続きと搬入チェックだけだから早めには終われそうだけどね


じゃあホテルに早く入ってゆっくりしてください 


ホテルに行っても紗来ちゃんがいないもん


充電するって週末に一杯触ったじゃないですか


充電無理だったみたい

やっぱり紗来ちゃんも一緒に連れてくれば良かった


要さんが仕事を早く終わらせて帰ってくればいいんじゃないですか?


……頑張るけど

夜に電話していい?



しょうがない人だな、と思いながら了承を返した。


私はいつも通り仕事をして、家に帰ってご飯を食べて、後は最近始めた資格取得の勉強を少しだけする。


流石に要さんに一から全部教えてもらうわけにはいかないので、毎日少しずつでもやろうとテキストを開く。


でも、3ページ目くらいで眠くなって、途中意識をなくしながら何度も起きて目標のページになんとか辿り着く。


なんで技術書って、魔法が掛かったみたいに眠くなるんだろう。


とりあえず目標を達成できたので由としようとテキストを閉じて立ち上がる。何度も寝てしまったせいで、もう時間は23時前だった。明日も仕事だし、とお風呂をセットして戻ってきたところでスマートフォンに着信がある。


要さんだろうとディスプレイを見ると、やっぱり要さんだった。


「紗来ちゃん、今大丈夫?」


「お風呂に入ろうかなって思ってましたけど、大丈夫です。要さんはホテルですか?」


「そう。さっきご飯がてら飲みに行って帰ってきたところ」


「こんな時間まで飲んでたんですね」


要さんはお酒が強いとはいえ、夕方からこの時間まで飲み続けていたとしたら、なかなかの時間だった。


「一緒に行ってるメンバーがお酒飲む人たちばかりだから、ついね」


「ご当地グルメ何か食べました?」


「うーん、普通の居酒屋だったから、そういうのはなかったかな」


「飲めればいいってだけで店を選んだんですね」


「うん。ほら、紗来ちゃんとなら美味しい店に行こうって頑張れるけど、仕事での飲みだと、ビールがあればそれでいいから」


「飲み過ぎは駄目ですよ」


「分かってます」


「……あっ、お風呂が沸いたみたいなので、もう切りますね」


声が聞きたいという目的は果たしたし、私から切ると言わなければ要さんはずっと電話を続けていそうだったので、丁度お風呂が沸いたというアラームで電話を切ることを告げる。


要さんの声が聞けるのは嬉しい反面、長く話をしてしまうと触れられないことに淋しさが増してしまう気がした。


「うん。おやすみ、紗来ちゃん」


「おやすみなさい、要さん」





普段だって毎日会わないのに、出張中の要さんは淋しいモードで、それから毎晩電話が掛かって来た。でも、要さんの声を聞くと、安心できる私がいて邪険にできなかった。


週末には要さんに会えるし、たまにはこういうのもいいのかもしれないと思いながらその週を過ごしていた。



出張延長になりそう



要さんから涙を流すスタンプつきでそのメッセージが届いたのは、金曜日のお昼だった。


帰りは今日の夜遅くになるとは聞いていたので、寝ずに要さんが帰って来るのを待つつもりだった。



何かあったんですか?



お客さんの現行環境との疎通が上手く行ってなくて

期間的にも余裕ないから、週末使って調査になりそう



それは仕方ないですね


週末は紗来ちゃんといちゃいちゃしようって思ってたのに


焦らなくても私は要さんの帰りを待ってますから

お仕事頑張ってください



要さんが帰って来られないのは残念だけど、仕事なら仕方がないだろう。


要さんと過ごさない週末なんて、すごく久々に思えて何をしようか悩む。


資格取得の勉強は、一気にやっても頭に入らなさそうなので、毎日少しずつするにしているし、デートの時に着る服を見に行こうかな、と同期に声を掛けた。


未玖は予定があって駄目だったけど、凛花は日曜ならとOKを貰って会う約束をした。

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