第14話 同期女子会
翌週の楠見さんからの誘いは流石に断れなくて、行きつけになったカフェで楠見さんとランチをする。
「紗来ちゃん、眠そう」
「遅くまでっていうか、朝までライブ配信を見ていたんです」
「若者らしい自堕落な週末の過ごし方ね」
「自堕落でいいんです。帰ったらもう一回寝ます」
楠見さんと会うことを意識して眠れなかったとか、そういうんじゃなくて、久々に配信に夢中になってしまって、寝たのは6時前だった。
「この後うちに来ない? って誘おうと思っていたのに残念」
「今ちょっと別のゲームの配信が楽しくって、徹夜しちゃいました。すみません」
「振られちゃった。女心って移ろいやすいものよね」
「飽き性なんです」
「でも、紗来ちゃんて、何も考えずに突っ込める方じゃないよね?」
「確かに臆病ですね。だから新しいことって中々できないです」
「SEになるのは怖くなかったの?」
「不安でした。1人暮らしも初めてでしたし、1年目は会社に行きたくないって何度も思いました。でも、私の地元は就職先も限られている場所で、地元で就職活動をしてみたんですけど、ずっと働けそうな気がしなかったんですよね。
それで、外に出る決意をしました。SEなのは、実は兄がSEなんです。会社も違うので滅多に会うことはないんですけど、兄に女性でも男性と同じように働くことができるって聞いて、今の会社に就職しました」
「堅実だよね。紗来ちゃんって」
「堅実ってほどじゃないですよ。取り柄もないのでただ不器用なだけです」
「そんなことないんだけどな」
「楠見さんはゲームとか好きだったから、システム会社を選んだなんですか?」
「それじゃあゲーム会社を選ぶになるんじゃない? いくつか全然傾向が違う会社の説明会に行って、一番働けそうな感じがしたから、今の会社にしたかな。上司の言うことは絶対みたいな、昔気質の会社なんて絶対働けないから」
「楠見さんって言いたいことを言うタイプですよね」
「我慢しても何にもならないと思うからね」
私は自主性が消え入るくらいしかないので、楠見さんのようなことは絶対できないだろう。だからこそ、そういう所は楠見さんの魅力の一つだとは感じていた。
先日の研修がきっかけで、久々に集まらないかと同期から声が掛かって、翌週の土曜日は同期での飲み会になった。
「飲み過ぎないようにね」
楠見さんから誘いがあったものの、同期会だからと断ると、そうメッセージをもらって、そんなに飲みませんと返した。
飲み会の前に同期の中では仲のいい女子3人で集合して、チェーン店系のコーヒーショップに入る。直接会うのは久々なこともあって、喋り始めると話は止まらなかった。
そんな中で話題は恋バナになって行く。
「紗来は気になってる人いないの?」
向かいに座る
「ないなぁ。保守だから関わる人も限られてるし、休みの日は家にいるのが好きだから外に出ないし」
「だめでしょ、それ」
「仕事以外で見つけたっていいのに」
「誰とも付き合ったことのない恋愛経験ゼロの私にできると思えません」
恋人ってそんなに必要なのかなんて言おうものなら、2人からの責めが長引くのは目に見えていた。
「そんなこと言ってたらあっという間に30超えるよ」
「そんなに付き合うって楽しいの?」
「紗来はそこからか……」
がくっと2人に項垂れられて、いいでしょ、と小さく怒りを出す。
「同期だと誰が好み?」
凛花にそう聞かれて、同期の男性たちの顔を思い浮かべる。
でも、
「叶野さんかな」
「叶野さんって誰?」
2人に突っ込まれて、同じ部門の女性の先輩だと答える。
先日会った、休みの日の叶野さんの姿は、それくらい私の中で印象深く残っている。
恋愛感情があるとか、そう言うんじゃないけど、私が会ったことのある人の中で一番かっこいい人は叶野さんだった。
「紗来……あのねぇ」
「休みの日に会ったら、男性にしか見えなくて、ほんと格好良かったの」
「はいはい」
2人に呆れられたままで、プレ同期会はお開きとなった。
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