ゲームブック(十一頁目)
王の介入により、一時休戦状態にあった戦場の時間が、再び動き始めた。
真っ先に飛び出したのは、その王自身だ!
兵に持たせていたのか、頑強な槍を手にゴブリンの群れに突っ込んだ。
4、5体のゴブリンが盾を構えて武器を突き出す、それは突撃を受け止める構えだ。
しかし彼はそのまま正面から突っ込み、長い槍を振り回す!圧倒的なリーチの差である。
ドガンッ!
小柄なそれらが突き出す武器は、王には届かず、嵐のように荒れ狂う槍に弾かれ、ことごとく弾き飛ばされる。
防御の構えを崩された。
その後は悲惨だ、巨馬に踏み砕かれ、槍を受け蹂躙されるのみである。
まるで戦車が突っ込んだかのような暴れっぷりだ。
王自らの突撃に続いて、影の兵達も果敢に敵に斬りかかっていく!
「すごいな……!」
ゴブリンを掻き分け、俺と魔法剣士の男は敵陣奥を目指す。
どこかにネクロマンサーが居るはずだ、それを討つのだ!
「ィィィイキェエエェェェエッ!!」
聞きなれない絶叫にギョッとする。
そちらを見ると、侍の山本さんが奇声と共にゴブリンを両断していた。
独特の掛け声だが、あまりの気迫に敵が怯んで、周りに空間ができている。そういう技なのだろうか。
「キェェエエエエアアアアアアアッ!!!」
ズバッと小気味良く真っ二つだ。
恐ろしい切れ味である。
袴だからか、ぬるりとした妙な動きをする。あまり身体を揺らさずにスーッと近づいてズバンだ。
一瞬目があうと、にこりとして声をかけられた。口は笑みを浮かべているが、目は全く笑っていない。
「いや、敵が異形でなくて良かった!これはそういうモノを斬るようには出来ていませんからね」
そう言って刀を振るう。
「じゃあ何を……」
おおよそ答えはわかっているが。
「無論、刀は
聞くんじゃなかった、怖い人である。頑張って下さいと言い残して、足早にその場を去った。
完全な乱戦だ。
無限に思えたゴブリンの軍勢も、黒い戦士と冒険者の善戦により、じわじわとその数を減らしていく。
「そっちだ!ネクロマンサーがいるぞ!」
ノブの声が聞こえた。そちらに視線を送る。
彼は短剣で近くのゴブリンゾンビの首を切り裂きながら、指を指す。
その先、ゴブリン軍団のはずれには、紫のローブに白黒の仮面を被った魔法使いの姿が見えた!
もう一人の魔法剣士にも目配せをする。
「いくぞっ!」「おぉっ!!」
目標は大将首である。
ネクロマンサーを討って、この戦いを終わらせる。二人の魔法剣士は一直線に駆けていった。
「「フラムッ!」」
二つの声が重なった、考える事は同じだ。
射程距離に入るやいなや、炎の魔法をネクロマンサーに向けて放ったのだ!
ゴォっと二つの炎の帯が目標に吸い込まれていく。
直撃する!そう確信した瞬間、炎はごく手前で威力を失い霧散した。
「……魔法障壁」
チラリとこちらを見ると、そうぼそりと呟いたのみだ。その動作だけで俺たちの魔法は効力を失った。
高レベルを予想させる、しかし!
地を蹴って、剣の間合いに飛び込む。
魔法と剣に同時に耐性を持つのは難しい。魔法が効かぬのであれば、剣で攻撃出来るのが魔法剣士だ。
「はぁッ!」
ふぉんと剣が空を切り裂き、二つの刃がネクロマンサーの首と足を同時に狙う。しかし、これも見えない壁に阻まれて弾かれた!
「……物理障壁」
再びぼそぼそ声でそう唱える。男なのか女なのかもわからない掠れた声だ。
反撃に備えてパッと離れる。俺は相棒と顔を見合わせた。
「剣も魔法も効かない!?」
「いや、耐性が切り替わってる!」
高速で魔法防御と物理防御を切り替える事で、擬似的に二つの耐性を持っているようだ。
「なら、同時に攻撃を……」
連携を取ろうと、そう言った瞬間。辺りの温度がスッと下がった気がした、背筋が凍る。此処にいるのは何かまずい!
「マコルド」
両手を前に、静かにネクロマンサーが唱えた。ふわっと足元を這う、眼に見えぬ冷気。
「うぉぉっ!?」
横っ飛びに転がり、それを回避する。
ごろりと受け身を取りパッと頭を上げる。
眼前で相棒が魔法の冷気にやられ地面に転がっていた。
その顔は蒼白で、もはや生気が無い。
威力高すぎるだろ!
魔法を唱えさせるのはまずい。足がもつれながらも飛びかかる!
しかし
……物理障壁
カァンと、再度振るった剣が弾かれる。そして無防備になった胴に、ぐっと手のひらを押し付けられた。
「あっ」
「コルド」
ゴォッ!
その手のひらから目に見えぬ冷気が放射され、身体を貫いた。
大きな氷の柱を、ケツの穴から入れられたら、こんな感覚だろうか。あまりの激痛に堪らず、その場に倒れる。
「か……は……か……は……」
息も絶え絶えで地面を這う、逃げないと。
凍えて動かない手足をずるりずるりと引きずって距離を離していく。
しかし、五歩も進まぬところで力尽きた。
ネクロマンサーは、その姿にふと目を落とした後、何事も無かったかのように視線を外した。
虫けらを見るように、興味がない。
「く……」
手も足も震えて、もう満足に動かせない。
しかし、ここまで来たんだ。このままやられる訳にはいかない。
薄れる意識の中、記憶を頼りにポーションを懐から取り出す。その封を開けると、ふわりと身体が楽になった。
ポーションすごい、治癒の薬の効果に感動した。
俺はゆらりと立ち上がる。
腹の奥が鈍い痛みを訴えている、未だ万全では無い。しかし身体は動く!
ゆっくりと、こちらを見るネクロマンサー。
その仮面の奥にはどんな感情があるのか、全く読み取れない。
俺の攻撃力で、やつの障壁を突破するには。
障壁を切り替える間も無く、魔法と剣を間髪入れずに浴びせるしか無いだろう。
そうか、ならば!
一つの直感、それに賭ける。
「いくぞっ!!」
剣を右手一本で保持し、左手を突き出す。いつものフラムの構えである。
「フラムッ」
左手の前に火球が出現する。
魔法形状変化、本人は意識せず使用しているが、ユウに与えられた固有のスキルである。
「!?」
一瞬、ネクロマンサーに動揺が走る。
放射されるフラムに合わせて魔法障壁を使用しようとしていたからだ。
「フラムッ……」
残ったMPを、全てこの魔法に注ぎ込む。左手の前の火球が大きさを増していく。
そして火球の中に左手を突っ込んだ!
深く細部までイメージしろ、炎の形状を。
そう、頭に浮かべるは炎の刃。
「うぉおおおっ!フラム、ベルジュッ!!」
そう叫び、ずるりと火球から左手を抜く。
するとそれは速やかに形状を変化させた。黄金色に輝く炎の剣へと。
それが発する熱は、ゆらりと空間を曲げ、陽炎のように剣のシルエットを揺らめかせている。
一呼吸整えて、叫ぶ。
「ネクロマンサァアー!障壁の準備はいいかッ!!」
右手には、この世界に来るきっかけになった導きの剣。左手には、炎の魔法が姿を変えた光の直剣。
二つの武器を手に全力で地面を蹴り、間合いを詰める。
そして、その勢いのまま右手の剣を振るう!
カァン!
弾かれた勢いを利用し、次は左手で炎の剣を振るう!
カチリ、カァン!
二刀流である、物理と魔法、二本の剣の剣撃は交互にネクロマンサーの障壁を打ち据える。
カンッ!カッカッッカ!!
火花を散らし、踊るように剣を振るう。
速く!
もっと素速く、障壁の切り替えすら間に合わない程に、加速して!
「うおおおおおおっ!!」
気づけばジリジリと、ネクロマンサーが後退していく。
一撃ごとに加速する剣のスピードは、もはや障壁を切り替える速度を超えているのだ。
ローブの端が切れ、焼ける。
「おおおおおああああああっ!!!」
雄叫びと共に、限界を超えて速度を上げていく。左から右へ、右から左へ、弧を描くように。
「届けええええぇぇぇええっ!」
その瞬間、パッと剣が障壁があるべきラインを飛び越え……仮面を斬り裂いた!
パアンッ!
真っ二つに割れ、吹き飛んだ仮面。
一瞬見えたその素顔は、若い女のようだ。
しかし関係ない。とどめる!
ぐっと力を込め、間髪入れず身体を捻って、炎の剣を真っ直ぐに突き出す。
ぼっ!
「ッ!!!」
それが体を貫いたと思った瞬間、ぶわっと黒い煙が吹き出した!
どぉん!
「ごほっ!?」
何だ?煙幕!?
もくもくとした黒煙が晴れた時には、その場には割れた仮面のみが残っていた。
逃げられたようだ。
「「ウォオオオオオオ!!」」
地を轟かせる雄叫び。
はるか視線の先で、影の王が曲刀を振り上げ、勝利を宣言している。
どうやら勝ったらしい。
それを確認した俺は、ストンとその場に倒れこむ。無理をしすぎたかな……。
そして、意識を手放した。
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