群緑師団4


 ------コンコン。

 

 ベスティアに返答をし終えた後、部屋の扉がノックされた。

「入れ」


 静かな開閉音と共に、ネルフィリアが入室してきた。

 

 ※R翼の大天使ネルフィリア 天使 ④光光光光

 飛行 先制 常在戦場

 味方ユニット5体を行動終了状態にしてもよい、

 その場合翼の大天使ネルフィリアのマナを支払うことなくプレイしてもよい。

            4/8


 翼の大天使ネルフィリア。

 アニムの初期デッキ、小型のユニットを多く並べる構築済みデッキAngel&demonにおけるフィニッシャーユニット(ゲームを終了させるための切り札的なカード)だ。

 

 

 背中から3対6翼を生やした大天使。

 清楚な見た目と言えば、まあ、間違いではないが……彼女を指しての言葉としては、些かイメージに足りない表現であった。

 善性の気配を全身より発散し、この世の者とは思えないような美貌が、それを大きく後押ししていた。


 彼女がアニムと出会ったのは、2月前。


 アニムが玉座の間にて目を覚ました、そのすぐ後の事だ。

 

 ネルフィリアは、王城の中庭に召喚されていた。


 しかし、初めから誰しもに、何らか役目があるわけではない。

 故に日々は、花妖精たちと共に作庭の世話を手伝ったり、城内の掃除などをして過ごしていた。

 

 

 そんな、ネルフィリアであったが、突然、玉座の間へと呼び出される事となった。

 

 アニムとしては、広い玉座の間で心細い所に、人の温かみよりも先に、死霊であるエクスタビの……ある種のテラーボイスを聴いた。

 ジルコニアが傍には居たが、アニマルセラピー効果では、カバーできないほどの一時的な精神不安(ストレス)を感じていたのだ。


 そんなおりに、アニムがEOEで初めて手に入れたレアカードの一枚であるネルフィリア。

 大きな思い入れもあった。

 また、包容力のありそうな天使という見た目。

 アニムはクニシラセ上、近くに彼女の姿と見つけて、思わず呼びかけてしまったのだ。



 ネルフィリアは、すぐに玉座の間へと向かった。


 本能的な物だろうか、玉座には王がおり、そこへはみだりに近づいてはいけない、彼女は疑問も持たずに、そう思っていた。


 だから、それまで玉座の間に入ったことは無かったし、逆に今とは違い、アニムが城内をふらふら散歩しているという事も、当時はない。

 王の姿を見たことのある者は、ネルフィリアを含め、誰もいなかったのだ。 

 

 玉座へ続く分厚い扉は、ノックなどしても聞こえはしない。

 ネルフィリアは良く磨かれた石車輪の付いた、その大きな扉を押して中に入った。


 緊張した面持ちでネルフィリアが玉座に近づくと、「神々しく輝く光」がそこにはいた。 

  

 激しく強い光輝、現実の視界とは別に、少なくともネルフィリアには、そう見えたのだ。

 

 天使とは仕える神があってこそ、自らの存在理由を確立できる存在である。

 居なかったとして、それで存在が弱まったり、何が失われる事もないが、この時、ネルフィリアは自らが仕える神を見つけた。

 

 ネルフィリアは沈黙のまま、アニムの前に跪いた。

 アニムが少し怯えた様子で「ネルフィリアか……?」と問いかけた。

 ネルフィリアには、その様子が産まれたばかりで戸惑っている幼子の様に思え、努めて優しく、穏やかな調子で肯定を返した。 

 

 その後、アニムは様々な事を、ネルフィリアに質問した。

 法律は存在するのか? 国の治安はどうか? 国民はどんな物を食べているのか?

  

 アニムが問うたびに、ネルフィリアは如才なく、方々から情報を集め、アニムへと伝えて回った。

 ネルフィリアには、何故この神が、王として振る舞うのかは分からない。

 しかし、崇高なる神の為、それを行う事に否はなかった。

 

 そういった経緯から、今日に至るまで、ネルフィリアはアニムの秘書の様な立場に収まっている。 

 役職としては、王のそばに侍り、催事を補佐する近習きんじゅう、それらを統括する近侍司きんじのつかさという物だ。

 

 

 

「失礼いたします。アリアナが指定された区域の探索を終えたとの事です。」

 

「ありがとう。」

 アニムはネルフィリアに優しい笑みを浮かべた。

 

 

 アリアナが指定域の探索を終えたとの事であった。

 アリアナは蒼海師団(海軍)を統べるラミア型の魔物だ。

 アニムはアリアナに、東と南の海に関する探索を指示していた。


 彼女達が探索を行うたびに、MAP画面は更新されていき、当然、アニムはそれをクニシラセ上では確認していた。 

 一番機動力のある飛行ユニットは、怪鳥や竜種などであり、現地の住民などに発見された場合、無用な警戒を呼んでしまうという事で、彼等には海洋ユニットが探索している更に外洋の探索を任せていた。

 (海洋ユニットは陸上ユニットより機動力があるし、仕事が早いなとは思ってたけど……東も南も、びっくりする位、海しかないんだよな……。)

心の隅で、新大陸を期待していたアニムは、残念そうに眉根を下げた。 


「こちらが、書面に纏めたものです。」

 ネルフィリアが紙の束をアニムに手渡した。

 

「ありがとう。……ん? 肝心のアリアナは?」

 アニムは首を傾げながら、ネルフィリアを見つめた。


「次のご指示をお待ちする、とだけ告げて帰ってしまいまして……。

 彼女の身体サイズを考えますと、玉座の間か、それこそ外にでも陛下をお呼びだてしなくてはなりません。それは流石に恐れ多いという事でしょう。」


 それを聞きアニムは眉を寄せると、少し思案気な顔をした。

 

「……そうか。……ただ、次、彼女が登城した際には、玉座の間にて待つように伝えてくれ。功のある臣だ。一度、顔を見ておきたい。」


 アニムがそう言うと、ネルフィリアは大きく目を見開き、眉を上げた。


「……? どうかしたか?」

「い、いえ。アリアナも喜ぶと思います。」 

 ネルフィリアは取り繕うように微笑んだ。


 アニムは一瞬訝しむ。

 しかし、問い詰めて聞く程の事とは、思えなかった。

「……そうか。私がおかしな事を言ったら、遠慮せず言ってほしい。」

「かしこまりました。」

 

(陛下には、何が、どこまで見えているのでしょうか……) 


 ネルフィリア達、王に近しい者からすると、アニムという王は常に、どこか虚空を見つめている不思議な王に見えた。

 無論、実際にはクニシラセを見ているのだが、クニシラセは他のモノには見えないらしい。

 

 以前、城仕えのスプライトが、その不思議に耐えかねて「何処を見ていらっしゃるのですか?」と問うたことがあった。

 すると彼は、どこか困ったような笑みを浮かべて「国の皆だよ。」と答えた。


 そして、中空に指を這わせると、ミコ・サルウェの新たな仲間が産れた。 

 正しく、神の御業、奇跡である。

 そして、彼の起こす奇跡は多岐に渡った。

 

 ある時は、力だけの愚か者が領内で暴れまわり、犠牲者が出たことがあった。

 当然、治安維持のための部隊が動くわけだが、部隊が目にしたのは、天から飛来する巨大な火球であった。

 

 その一撃で愚か者は文字通り蒸発。

 他者の殺傷には厳罰が下されると、国民たちに広く知れ渡る事件であった。

 

 ※火① 火炎球

  対象のユニットに4点のダメージを与える。

 

 また、4体の狼を引き連れた分隊長は、広い原野の探索に手を焼いていた。

 しかし、不意に意識が遠くなり、気が付くと、手勢の狼の数が、8体に増えていた。

 

 ※光光光 ひと時の帰還

  対象のユニットを手札に戻す。そのユニットのマナコストは0になる


 

 等々。

 EOEの世界において、翼の大天使ネルフィリアは、善神と言われる存在に仕える天使たち、その天使を束ねる、力ある天使の中の一人であった。

 

 その立場上、これまで彼女は、様々な神と呼ばれる者達、時に神以上に強大無比な力を持った者達を見る事もあった。

 それが影響したのか、彼女はその者の持つ、あらゆる意味においての力の気配を感じる事が出来る様になっていた。

 

 そして、彼女が会ってきた中で最も強力な力の波動を感じる者が、アニムである。

 ネルフィリアはアニムに使える事を感謝し、崇拝し、思慕し、そして畏れた。

 

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