群緑師団2

 アニムがまず、王位に就いて統治機構を整えた後、発した初の勅令は地図作りであった。

 不思議な事だが、とある時まで、国の外は結界の様な物に阻まれて、それより先に進むことは出来なかった。


 それが、今より二月程前、勅令と殆ど同時期に突然、進める様になり、国内をまず行い、こうして国外の方々へも、探索を開始したのである。 


 

 「ミリー! あんた、せわしないのよ! 私たちは陛下から周辺の未探地域の探索を命じられてるの! 何があるか解らないんだから、少しは警戒しなさいよ。」


 ベスティアは自分の周りを、ちょろちょろと飛び回る友人を叱責した。


「えー……これが妖精流の警戒方法だよー?」

「なにそれ、羽虫のまね?」

「べスちゃん酷い!? ……でも、だとしたら羽虫はうんちに焚かるから、べスちゃんうんちだね。」

 

ミリーは鼻を摘まみ、エンガチョを結んだ。


「待てこら! 羽虫! クソ虫! 便所虫!」

「なんだとー! この大便ゴリラァァ!!」

「コロス……!! 私は狼だ! 馬鹿!!」

「キャー!!」

 

 実に姦しい。


 ミリーが捕まるのは時間の問題である。

 しかし、ミリーは唯一といって良い強みであるその素早さを使い、ベスティアの周りをくるくると逃げ回っていた。

 

 そんな調子の二人に見かねたのか、団員の一人が声を掛けた。


 「団長、でっかい声出して……先頭で遊ばんでください……。士気にかかわりますわ……。」

 

 「何だと!?」

 ベスティアは、部下を愕然とした目で見つめた後、ギリギリと歯ぎしりでもしそうな恨めしい目で、ミリーを睨みつけた。

 

 「……はあ……嬢ちゃんも、団長の近くなら大丈夫だと思いやすが、万が一がありやす。それこそ、ドラゴンやら物理が効かねえゴースト系統が出たらわかりませんぜ?」


 赤い毛並みのネコ科の魔獣、ブラッドジャガーのカミュウだ。

 

 ※UCブラッドジャガー 赤④  4/4 ①:+1/+0の修正を受ける

 

ミリーはカミュウの言葉に顔を青ざめさせた。

「え……ドラゴンとか出てこられたら私、それだけでショック死しますよ? ゴーストとかもっと無理無理無理。ゴーストとか怖すぎます! 即効、彼らの仲間入りでべスちゃんの枕元に立ちますね。」


 ミリーは相変わらずの忙しなさで、体を大きく使い、ドラゴンやゴーストの真似をして、辺りを飛び回っていた。


「何、わけ解んないこと言ってんのよ……。だいたい、あんたしょっちゅう、あたしと一緒に、ドラゴンが経営する店で焼肉食べたり、幽霊街でゴーストのおばちゃんからアップルパイご馳走してもらってるじゃない……。」

  

「ガンズーさんもポーラさんも、良いドラゴンと良いゴーストだから大丈夫!」


 食いしん坊妖精ミリーは、何がそんなに誇らしいのか、にんまり笑って腰に手を当てると、胸を張ってみせた。


 なお、補足しておくが、ドラゴンといってもピンからキリまであり、個体平均であれば確かに強力な種といえる。

 しかし、弱いものは、2/1等という者も珍しくなく、逆にレアユニットで言えばベスティアより強力なドラゴンも存在していた。


 この世界の生物の能力が、EOEに当てはめられた時、どれほどの強さかは不明瞭であり、とにかく、警戒だけは怠らない様にと、アニムからは厳命されている。

 こうして馬鹿話をしていても、感覚の鋭い団員達が常に周囲の探査をしていた。

 

 ------ググググググググ……。


 その時、突如、地面が強く揺れ始めた。

 すぐにベスティアは眉を上げ声を張り上げた。


「警戒を密に! 倒木やパニックになった野生動物が来るよ!気をつけな。」

「うわわわわ!? べスちゃん地面がゆれるよ~~!!」

「うるっさい!! 飛んでるアンタには影響ないでしょ!? 黙ってな!!」

「あそっか。」 

 

 時間にして2.3分くらいの間であった。

 揺れが収まると、辺りの地形に変化が起きていた。


「団長!進行方向、右! 巨大な湖らしき物が出現しました。」

 隊の右方向、対岸が見えなければ、海と見まごうかという巨大な湖が出現した。


 ベスティアはそれを一瞥する。 

「ああ、わかってるよ。ちょっと待て!! ……まずいな。」


 群緑師団は、初めから兵士として生まれたものたちではない。

 個々の力は兎も角、種族もバラバラであり、軍といっても、まともに訓練もしたことがないのだ。


 あっと言う間に部隊全体に動揺が走るなか、ベスティアは瞑想でもするように、その場で目を閉じていた。

 そして、しばらくして目を開いた。



 「おい! 下知が下った。たった今、この湖はあたし達ミコ・サルウェの領地に入った!!これから休息と湖の調査を行う。……!?」


 湖面が黒く輝き、その光が収束した時、そこには1体の水龍が召喚されていた。

 

 ※UC湖竜   水水③ 5/5  生存戦略(水中)

 

 生存戦略(水中)……海や、湖など水のある土地をコントロールしていないと召喚出来ない。何らかの要因で、その土地が破壊された場合。このユニットも破壊される。他にも、生存戦略(山)や(沼)(海)少々変わった者で(大聖堂)など、様々ある。EOEに存在する軽めのデメリット能力である。


 湖竜が一度、湖に潜り、再び顔を出した時、沢山の魚が湖畔へと打ち上げられていた。

 

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