群緑師団1
ミコ・サルウェ北、国境外の森。
森は深く、辺りは霧が視界を阻害していた。
湿った木々は、むせ返るほどの臭気を漂わせている。
大きな魔獣の仕業か、所々倒木が横たわり、それには湿気を好む苔や、茸の類が群生していた。
その様な緑深い原生林を、獣や獣人、一部、エルフなどを中心として編成された軍団、ミコ・サルウェ群緑師団は、部隊を分散させて進んでいた。
森林や、草原に
隊の先頭を進む女性も、その例に漏れない。
年のころは20代半ば程。
小柄とは言い難いが、さして、大柄という程も無かった。
鮮やかな
獣人らしい引き締まった無駄のない身体であり、それでいて筋肉質には見えなかった。
女は布と皮で編まれた薄手の防具をつけている。
ミコ・サルウェには、武士や、侍といった者はいないが、
彼女は、ベスティア・ファミリーウルフ、この群緑師団の団長である。
彼女のすぐ傍、群緑師団には珍しい……というよりも、そもそも新設とは言え、群緑師団は曲がりなりにもミコ・サルウェ軍の一つである。
その中にあって、光を束ねたような、キラキラとした柔らかな腰まで届く金の長髪。
まるで戦いに向かない体長50センチほどの妖精種「港町のスプライト」、ミリーがいた。
ミリーにしろ、ベスティアにしろ、元はEOEのカードから召喚されたユニット達だ。
トレーディングカードゲームや、最近では、ソーシャルゲームでもいい。
それらを遊んだことがある者ならば、レアカードとそれ以外のカードでは、レアカードの方が強いということは、感覚的にわかるはずである。
無論、レア以外のカードにも使えるカードは存在するが、多くの場合はそうではなかった。
そして、せめて”強い”であれば、良かった。
カードゲームとして”使える”事が、彼等彼女らの人生において、救いになるとは限らない。
「港町のスプライト」は”使える”ユニットだ。
※港町のスプライト 水①
飛行
このユニットが場に出たときカードを一枚引く
0/2
召喚コストが軽く、召喚しても、一枚カードを引けるため、手札の枚数を減らすことはない。
そして、飛行を持つユニットの攻撃から、プレイヤーを守り、反撃の為のターンを稼いでくれるのだ。
デッキに要れる選択肢に多く挙がる、非常に優良なコモンカードだ。
しかし、彼女にとって不幸なこと、それは弱かった事だ。
他のコモンと比べても。
例えば、海守の老人というカードがある。
能力値は1/1。
防御力で言えば、港町のスプライトが勝る。
しかし、攻撃力は、引退して海を眺めているおじいちゃんの方が、上と言う事なのだ。
レアであるベスティアであれば、能力値はこうなる。
※Rベスティア・ファミリーウルフ 土光③
連続攻撃
5/5
※連続攻撃 このユニットは攻撃を、先制と通常攻撃の計2度行う。
彼女の実質的な攻撃力は10だ。
比べるまでもない優遇。
また、それ以外にも、レアユニットはベスティアの様に最初から固有名を持っている者が大半。
対してミリーの場合、ミリアリア・アルテラが正式名称であった。
アルテラは召喚された場所であり、ミリアリアは、誰がつけたのは分からないが、誕生と同時に勝手についた名前であった。
そして、最初から固有名を持っているユニットは、クニシラセを介して、アニムと直接、意思疎通が可能である。
まるで、初めから”王の手足となる事が出来る者”は、決まっているかのような特別性。
多く、ミリーの同族は、手紙を配達したり、海で薬となる海藻の養殖などをして生活をしていた。
他の妖精種達も一部を除き、宮廷メイドや戦闘に関わらない生活をしている者が殆どだ。
戦いを強要されている訳では無い。
本来、ミリーもそうするべきであった。
しかし、彼女には夢があるのだ。
ミリーが生まれたアルテラの港町は、ミコ・サルウェでも治安の悪い地域であった。
イメージを先行させ、「波止場の巨漢用心棒」や、「海賊の船乗り」など、ガラの悪い連中を、アニムが集中してアルテラに召喚してしまっている事もあった。
そして、アルテラの港町を仕切っているアリアナも「アングス組合」なる組織を作り、表向き治安維持組織であると言っているが、娼館運営などを牛耳っており、これは事実上ミコ・サルウェの闇ギルドであった。
その様な場所で生活していたミリーは、ある時、町のごろつきに絡まれた事があった。
非力なミリーではどうする事も出来ない。
そして、その時ミリーを助けたのが、「英傑騎士・アーシャ」であった。
アーシャのバックストーリーは、農民の生まれだが隣国の領軍が攻めてきたおり、たった一人で武器を取り戦った。
そして、隣国の領主軍を打倒し、騎士に叙勲されたとされていた。
※R英傑騎士・アーシャ 光火②
先制
アーシャが戦闘に参加したとき、アーシャと味方ユニットは+2/+0の修正を受ける。
2/5
EOEには騎士のユニットは数多くおり、今でこそミコ・サルウェにも、数人の騎士ユニットは存在していた。
しかし、ミコ・サルウェがまだまだ黎明期の頃、アーシャ以外の騎士はいなかった。
そして、ミリーはアーシャが元々、非力なただの村娘であったと聞く。
妖精というものは、精神が身体に引っ張られるのか、精神的に幼いものが多い。
故にそんな、アーシャの影響を受け、ミリーは「騎士」という者に憧れたのだ。
分不相応なのは解りきっている、また、軍人募集はすでに終了していた。
それでも、今回、その素早さを生かして、彼女は何か役に立てるはずだと、兼ねてから仲の良いベスティアに頼み込んで群緑師団の遠征に付いてきたのであった。
本来は当然、良い事ではないが、アニムが習得した「文化:軍の誉」の影響か、軍属は国民の誉れであり、師団の者達も目をつぶる事にした様であった。
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