一章 春暁の騎士、庇護の戦女 

目覚め1

 ミコ・サルウェの宮殿、ソール・オムナス。

 王の権威を表す、巨大な建造物。


 その城は、主を守るための物である以上、防衛施設としての機能を当然持ちながら、美しさや上品さを兼ね備えていた。

 そして、それだけではない。

 城門をくぐると色とりどりの花が咲き乱れる中庭、その中庭の中央に存在する黒光と白光が巡りつづける円環のオブジェ。

 その一つ一つの全てが、己こそがミコ・サルウェの象徴で在るかのように、主張をしている事を見る人は感じることが出来た。


 ※混沌の宮殿 ソール・オムナス G+220 食料:0 活力+3

  土地(城+城) 光2マナを生み出す


 ※R輪廻の揺り籠 設置呪文 ①光闇


  味方ユニットが場から離れた時、あなたはライフを5点得る。


  光闇①:墓地のユニットカードを1枚デッキに戻し、デッキをシャッフルする。

      カードを一枚引く。


 

 

 その玉座において、主は目を覚ました。

 

(……。)


 青年、アニム。

 アニムは目覚めてすぐに、立ち上がろうとする。

 しかし、長く動かなかった事の影響だろうか、体は重く、頭を持ち上げるのにも苦労を感じた。

 

 そして、彼はすぐに億劫おっくうになったらしい。

 アニムは首だけで辺りを見渡した。


「……ここは、どこだ?」


 豪奢な部屋。

 非常に寥廓りょうかくで、二百人いれても、まだまだ余裕がありそうだ。

 奥行きのある空間に無数のシャンデリアが、窓からの陽光を受け、キラキラと輝いている。


 自分以外、誰もいない空間。

 

 その寒々しい広さと静寂せいじゃくが、無性にアニムの不安を掻き立て、彼に心細さを与えた。


(誰か居ないのか?)


 重たい体に鞭を打ち、アニムはどうにか立ち上がることが出来た。

 

(そもそも、俺は此処に来る前、何をしていた?)


 よろよろ歩き出すと、徐々にだが思い出してくる。

 

「そうだ。あの白い空間……EOE……COK……」


 アニムは振り向くと、あの時、白磁世界で座っていた玉座が、そこにはあった。


「あれはなんだったんだ……。」

   

 アニムの中で不安が、また大きく膨らんだ。

 

 部屋から出ようとして歩き出す。

 しかし、足をもつれさせ、顔から床に突っ込んでしまった。


「うわ!? ……つっー! くう……」

 

 そこそこ毛の長い絨毯がひかれていたが、勢いよく倒れれば痛いものは、痛い。

 アニムは顔を歪めた。


 彼は足に鎖を巻かれているような、緩慢な自分の身体を恨めしく思った。


「ゔん!!」

 半ば苛立ちをぶつける様に、気合を入れて、再び立ち上がろうとする。


「くーん……」


(……ん?)

 

 俯いて、地面を睨んでいたアニムが顔を上げる。


(……狼だ……。)

 

 銀白色に輝く体毛に、精悍な顔つき、その様な存在は、先程までは居なかった。

 だというのに、今アニムの眼前には、体長2メートルを超える大狼がいる。


 その狼は、その大きな身体を一生懸命に縮め、アニムを見つめていた。

 まるで、その姿は、悪戯を主人に見咎められ、怒られるのを待つ飼犬の様である。


「え? ・・・うお!?」

 その時、何の前触れもなく、見覚えのあるUI『クニシラセ』が出現した。


 MAP画面には、ミコ・サルウェの国土全域が映し出されており、その周りは白い雲の様なもので覆われていた。


 これはCOKでもそうであった。

 COKは、開始前、インカ文明やペルシヤ帝国など、地球に存在した、または、今も存在する文明や国をプレイヤーの国として選択する。


 そして、ゲームが始まり、首都が建設されると、国の周りは真っ白い雲のようなもので覆われているのだ。

 何処にどのような国や、資源があるのかは、ある程度のアルゴリズムは設定されているが、基本的には無作為。

 日本の横にブラジルがあったり、イギリスの北にタイがあったりは、COKにおいて普通の事である。

 

 故にまず、斥候の様な部隊を作成して、周囲を探索させる。

 そうする事で、徐々に国外の様子を俯瞰することが出来るようになっていくのだ。


 探索が甘かったり、出遅れると入植したはいいが、緩衝地帯もなく、真横に他国があって関係が悪くなったり、折角良い立地を見つけて、入植者ユニットを作成しても、目の前で他国に取られてしまったりする。


 限られた資源や時間といったリソース、そして、それを扱う生産力、相手の取りうる行動、それら全てを計算し、最も良い選択を模索して、上手くやれたり、してやられたりする。

 実によく出来たゲームであった。




 

 城を集中表示すると、城内にいるユニットが表示された。

 アニム、ネルフィリア、リーフェそして、ジルコニア・・・・・・。


(ん……ジルコニア?)




 R聖室の守護狼・ジルコニア 狼・獣 光光光

  先制 隠形  

   ユニットをブロックすると、ターン終了時まで+7/+7の修正を受ける

                           2/2


 FT(Flavor text)

 --------------問題だ。突然、君の足がなくなった。それは何故かな?

                 答え、君の影にジルがいるから。


 ※先制……ダメージ判定ステップで先にダメージを与える

 ※隠形……相手の呪文や能力の対象にならない


「お前……ジルコニアか!?」

「ウオン!!」

 

 ジルコニアはカードである。

 しかし、それが今、アニムの前で実体化していた。


 名前を呼ばれて嬉しくなったのか、ジルコニアはアニムにとびびかり、甘え始めた。


 ただ、大型犬を優に超える巨大な体躯を持った狼である。

 甘えられる方は必至に抵抗したが、動きの鈍い身体。

 アニムはジルコニアのなすが儘だ。


「ん!! ……おい! 待ってくれ! ……待て! ……こら! 待てだ! ジル!!」

「……くーん……」


 ジルコニアは主に怒られ、「私は怒られて、反省しております」という、いじらしい風な仕草を取っては見せた。

 ただし、尻尾は激しく左右に振られたままであり、どこまで本気で反省しているのかは、疑問が残った。

 


「……ふう……。」


 

 EOEのレアカードである「聖室の守護狼・ジルコニア」

 遺跡の奥にある聖室といわれる部屋の守護者で、影の中を移動できる大狼だ。


 通常デッキという物は、2色以上の混合で組まれることが多い。

 数字で見れば、3マナという低マナ域のカードであるジルコニア。


 しかし、光マナ3つ以外ではダメという、マナ拘束の強いカードであるジルコニアは、早い段階で場に出す事が出来ず、光単体デッキ以外では、能力は強力だが、そのわりに使われることが無かった、少し、不遇のカードだ。

 

 アニムは、ジルコニアに身体を支えてもらいながら、玉座へと戻った。


(何が起こっているんだ……。これも夢なのか?)


 アニムはクニシラセを確認した。

 不確かな記憶とは言え、以前とそれほど大きく変わっている様には思えなかった。

 

 

 違う所といえば、「科学技術」と「文化力」という項目が増えているように思える。


 「科学技術」をタップすると、起点とする点から、上方向に三叉に分かれた科学技術ツリーが表示された。

 三叉の右側には「帆走」、中央には「通貨」左は「道」とある。

 

「……通貨?」

 

 クニシラセの右上を見ると、各資源が表示されており、その中にはゴールドの表示もあった。

 

「お金はあるのに……通貨として流通していないということか……? 訳が分からない……。」

 

 科学ツリーの右下部に、「人口が一定数を超えました。科学技術ポイント+1を振り分けて下さい。」と表示されてる。

 

 「帆走」「通貨」「道」より、上のツリーは薄く暗転してしまって選択する事は出来ない。

 他もそれぞれ確認する。

 「道」は流通などにも恩恵があり、上へ進むと行軍速度など、軍事的な恩恵へとつながっていくツリーに思えた。

 先に行くと「鉄道」等も存在しているが、アニムとしては、こういった世界なら石炭を焚くより、ドラゴンにでも引かせた方が、早く低コストで移動できるのではないか。

 そう思えた。

 

 「帆走」は海洋ツリーであり、人口に怪魚や、クラーケンが含まれるミコ・サルウェに必要なツリーかはわからない。

 だが、先には学校などといった、科学技術ツリーの習得を、ブーストしてくれそうな物もあり、いずれ習得していくべき物に思えた。


 アニムは少し逡巡し、通貨にポイントを入れた。

 

 入手経緯からいって、アニムは科学技術ポイントを入手するには、恐らく人口が関係すると当たりを付けた。


(他のノードでも、入手は可能なのかもしれないけどな。)

 

 人口を増やすには、COKでは食料さえ切らさなければ、勝手に増えた。


 ただ、アニムの場合はジルコニアの様に、カードからユニットを召喚することでも増やすことが出来た。

 なお、カードは500Gで1パック(10枚)を入手することが出来るようだ。


 推論ばかりを重ねている。

 ただ、経済を発展させ、ユニットを増やしていければ、最善の選択肢を逸したとしても、修正が効くかもしれないとアニムは考えた。


 ダメであっても、今、気にした所で仕方がないと、アニムは暗い想像からは視線を逸らす。


「手探り感がひどいな……。そもそも、なんで俺はこんなことをやってるんだ……?」

 主の声に反応し、ジルコニアは、アニムの方を向いた。

 それに気づいたアニムも、ジルコニアを見て、暫く見つめ合う。


「……。」

「……。」

 首を傾げるジルコニア。

 何かを知っている訳ではないようだ。

 

「世界観は、ゲームみたいなんだけどな……。」 

 アニムはジルコニアの頭を撫でた。

「くう~ん」

 ジルコニアは甘えた声を出し、気持ち良さそうに目を細める。

 そして、懸命にアニムの手に顔をこすり付けた。


 撫でながらアニムは、ここに来る前、何をしていたか、どこにいたのか、思い出そうとする。

 しかし、まったくもって思い出せなかった。

「親の顔も、住んでた場所も、友達も……全部思い出せるのに、昨日、一昨日、一週間前、自分が何をしていていたのか思い出せない……。そんなことあるのか……?……はあ……帰れるのかな俺……。」

 

 ため息をつくと、アニムは天井を仰ぎ見た。


 情報は何もない。

 故に、どうしても思案している事は、像を結ばず、取り留めなくなる。

 

 暫くそうしていたが、いったんは思考を諦めて、手元に視点を戻した。

 

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