EP9 酔いつぶされた二人
「ちょっと〜! わたしのこと、どこに連れ込む気れすか〜!」
「家に送るだけだよ……」
やたらめったら騒ぐソルさんだが、自力で立つことすらできないようだ。体をこちらに預けてくるお陰で色々と柔らかいモノが当たってくるし、なんか甘い匂いも香ってくる。心臓に良くない。
「わたしの部屋には上げませんからね〜!?」
「ギルド職員の女子寮に住んでるって言ってたよな? どのみち俺は入れないから安心しろ」
ソルさんに肩を貸しながら道を歩むこと数分、彼女の住むという女子寮が見えてきた。近所で助かった。
「おい、寮に着いたぞ。部屋まで帰れるか?」
「う〜ん」
どうやら歩いてる間におねむモードに入ってしまったようだ。一人では到底歩けそうにない。
門の前で困り果てていると、ちょうど帰宅してきた寮の住人と遭遇した。巻き髪で、少々ぽっちゃり気味の女性。名前は知らないが、冒険者ギルドの受付で何度か見た顔だ。ここから先は彼女に任せるとしよう。
「あー、ちょっとすみません」
「はい? ……え!? ソルさん!?」
顔真っ赤で俺に寄り掛かるソルさんを見るなり、巻き髪受付嬢は驚いたように目を見開く。
「え、うそッスよね? あのソルさんが酔い潰れたうえに、男を連れ込むなんて!」
「いや、別にそういう訳じゃ……」
「さささ。どうぞ入ってくださいッス」
「えっ、ちょっ」
巻き髪受付嬢がグイグイと背中を押してくるので、そのまま寮の敷地に入ってしまった。
「おい、ここ女子寮だろ? 男の俺が入っちゃマズイだろ?」
「大丈夫ッス! 男を連れ込むなんて皆やってますから! でもソルさんが連れ込むなんて初めてッスよ! 一体どうやって落としたんスか〜!?」
「いやだから……」
「そもそも男性との食事自体、めったに行かないのに!」
確かに、ソルさんが冒険者からデートを誘われているのはよく見かけるが、いつもやんわりと断っているようだった。
「あ、申し遅れました。うちは受付嬢のフランチェスッス」
「すまん、なんて? フラン……なに?」
「フランチェスッス」
「フランチェスッスか?」
「フランチェス、ッス〜!」
あぁ。フランチェスか。
「俺はエンバーグだ」
「エンバーグ? あ〜! あなた、クソダ……変な帽子被ってるサングラスの人ッスか〜!?」
今クソダサいって言おうとした?
「まさか、難攻不落のソルさんがあのヘンテコ帽子の方と……。あ、変な意味では無いッス。悪く思わないでクダサい」
今クソダサいって言った?
「確かにソルさん、いつもあなたのことジーッと見てたッスもんねぇ。まさかそういう事だったとは! てっきり、怪しい事をしないよう監視してるんだと思ってたッス!」
それは本当に監視してただけだと思うぞ。
「ささっ! 着きました! ここがソルさんの部屋ッスよ〜!」
なんやかんやで部屋の前まで来てしまった。
が、当然部屋には鍵が。朦朧とするソルさんから鍵を奪おうとしたのか、フランチェスの手がソルさんのポケットへ向かう。まずい。ポケットには違法ポーションが入っていたはず。
「お、おい。勝手に人の荷物を漁るのはマナー違反だぞ?」
「それもそッスねー」
ハッとしたように動きが止まり、伸びていた手が引っ込められる。良識がある人で良かった。が、ホッとしたのも束の間。
「んじゃ、ブチ破るんで。ちょっと離れてくださいッスー」
「は?」
インテリアとして廊下に飾ってあった岩石。フランチェスはおもむろにそれを持ち上げると、
「オラァ!!」
躊躇いなく扉に投げつける。激しい衝突音とともに、扉の下側に大穴が空いた。
「おまっ……人ん家の扉をブチ破るのはマナーどころか法律違反だぞ!? この犯罪者!」
「あなたがそれを言いますか〜!?」
うわ、びっくりした。ソルさんが一瞬起きた。が、すぐにまた寝た。
「んじゃ、鍵開けるで少々お待ちを〜」
扉の下の方にぽっかり空いた穴。そこからフランチェスは床を這い蹲るように侵入していく。だが、人が通るには少し小さかったようで、途中でつっかえてしまった。
「あの、ケツが
プリプリのケツが目の前にあったのでつい。
蹴り付けたことによって押し込まれ、フランチェスは侵入に成功。そして内鍵が開けられ扉が開放される。
「さぁ、どうぞ。いらっしゃいませ〜ッス〜」
さも自分ん家のように……。
「待てって。俺は送り届けに来ただけで、何もする気はないぞ?」
「えぇ〜、ここまで来て何もしないんッスか? 意気地なし男ッスね」
イクジナシオ? ダレガ?
「酔い潰れてる女性を襲うなんて法律違反だぞ?」
「あなたがそれを言いますか〜!?」
急に起きるなってソルさん。んでまた寝るなって。
「はぁ〜。まぁいいッス。せめてベッドまで運んであげてくださいッス」
「あ、ああ」
ベッドに寝かせたらすぐに帰ろう。そう思って部屋に踏み入れたのが失敗だった。
俺とソルさんが入室するなり、入れ替わるようにフランチェスが外へ。
「それじゃ、ごゆっくり〜」
「あ、おい!」
扉が勢い良く締められる。ノブを回そうとするが、ピクリとも動かない。外でフレンチェスがガッチリと抑えているようだ。
「ん〜、お部屋、着いたの〜?」
ソルさんが再び目を覚ました。
「あ、あぁ。ベッドまで歩けるか?」
「むり〜」
甘えるように寄り添ってくるソルさん。自立する気はまるで無さそうだ。くそ、なんでこんなに良い匂いなんだよ。
「部屋、入るからな? あとで文句言うなよ?」
「は〜い」
ベッドは部屋の奥にあった。止むを得ずソルさんをそこまで運び、そっと横たわせる。
とりあえず靴だけ脱がせ、コップに水を汲んでサイドテーブルの上へ。万が一のためにゴミ箱もベッドの横に置いておいた。
「水、置いておいたぞ」
「ありがと〜」
「ゴミ箱はここだ」
「はいは〜い。気が利くわね〜」
「んじゃ、俺は帰るから」
「え〜? 一緒に横になって、お歌でも歌いましょうよ〜?」
ソルさんの体が横に動き、もう一人分のスペースが空けられる。
本音を言うと、このまま欲望に任せてベッドに飛び込みたい。が、もし手を出してしまったら、酔いが醒めた時にソルさんは確実に怒る。そしたら違法薬品の件を通報されてしまうかも。彼女に嫌われる訳にはいかないのだ。
理性を保てているうちに帰ろう。
「あらぁ? 本当に帰っちゃうのぉ? 意気地なし男なのねぇ」
イクジナシオ? ボクガ?
くそ、必死に我慢しているこっちの気も知らないで。
だが待て。色々と帰る理由をつけていたが、結局のところ、本当に意気地が無いだけなのでは?
……俺は持っている。勇気を与えてくれる、素晴らしいお薬を。
やってやろうじゃないか。
扉の方へ目を向け、フランチェスの様子を確認。扉の穴からバッチリ覗いていたが、俺と目が合うと慌てて首を引っ込めた。
その隙に、ポーチから青い結晶を取り出し、口に放り込む。
強化結晶! 俺に勇気を与えてくれ!
全身に血流が回る。沸き起こる力。興奮作用が脳を刺激し、止め処ない勇気、そして全能感が体を支配する。
俺を意気地なし男と言ったこと、後悔させてやる! ベッドに横たわるソルさんに向け、高らかに宣言した。
「ソォルさん、◯▲※★あお☆お〜〜〜!!」
「え、なぁに?」
しまった! 俺もしこたま酒を飲んだんだった! めちゃくちゃ酔っ払ってきた!
それを意識した途端。世界がグニャリと歪む。立っていられなくなり、ベッドの空いているスペースに倒れ込んだ。
「らいじょうぶれすか〜?」
「□◆☆*〜」
だめだ、自分で何を喋ってるのか分からないくらい酩酊している。
結局、酒と薬に酔いつぶされた二人が仲良くベッドに並ぶ結果に。互いにベロベロで体を動かすことすらできないので、このまま一晩明かしても間違いは起こらないだろう。
「じゃあ、一緒に歌いましょ〜か〜」
「◯▲※★〜〜〜」
このあと滅茶苦茶セッションした。
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