第12話 嫌悪

「おい! そこの民間人! なぜSOと一緒にいる?! 離れろ!」


 魔力の奔流から逃れてきたのだろう。現れたSOの方を見ると、その隣に、白衣を着た女性のような何かが見えた。人型だけど、あれは……人じゃない。


「レイドちゃん。あれ、人間じゃないと思うわ」

「なに……? どういうことだ」


 他の魔法少女よりも索敵や直感などの感覚的なことが苦手なレイドちゃんには普通の女の人に見えるらしい。今にも飛んで行きそうなレイドちゃんを抑えながら、人型のSOを注視する。

 確かに見た目だけなら普通の人に見える。けど、あの少しだけ漏れ出ている禍々しいオーラは間違いなくSOであるあかし


「魔人……でしたっけ。SOの進化した姿の……」

「お、勤勉だねェ。その通り私は魔人、人間ではない」


 バルクちゃんが私に確認するように聞いた質問に、魔人が拍手をしながら答えた。

 魔人ならば等級は小さく見積もっても3等級以上だ。同じく3等級の私とレイドちゃんなら対処出来るかもしれないけど、バルクちゃんと魔力切れで動けないリーテちゃんには荷が重い相手。しかもそれだけじゃなく隣にもう一体、カニみたいなSOまでいる。

 レイドちゃんと警戒しながら武器を2体に向ける。構えたと同時に、白銀の細剣と漆黒の鎌の対象的な2つが淡く輝き始める。

 逃げるにしても、リーテちゃんを担いであの2体から逃げるのは難しいだろうし、戦うってなっても2人を庇いながらになるから厳しい。

 ……どっちに転んでもダメだめね。

 まずは2人から引き剥がすところからかなと、レイドちゃんに伝えようとそちらを見ると、レイドちゃんも同じことを考えたのか目が合った。


「まずは、場所を移そう」

「うん、同じこと考えてたわ。───バルクちゃん!」

「はいっ!?」

「リーテちゃんを抱えて魔法省へ行って! それと行きながら魔法省に連絡! 魔人が現れたって!」

「え……でも先輩たちは?!」

「いいから行け!」


 レイドちゃんの叫び声にバルクの肩が跳ねる。

 ここで時間をかける訳には行かない。バルクちゃんから意識を外し、改めて2体のSOへ意識を集中させる。


「援軍が来るまでは死なないわ。私も、レイドちゃんも」


 魔法省には、かの【妖精の魔法少女】が待機している。魔人が現れたとなれば、援軍で来るのは彼女しかいない。

 最悪、腕の1本や2本失ったところで彼女なら治せるはずだ。


「信じて。バルクちゃん」

「あぁ、信じろ。お前の先輩をな」

「っ───」


 真っ直ぐ前しか見ていない私たちにバルクちゃんの表情は分からない。けど、多分酷い顔してるんだろうな〜……


「すぐ戻りますっ……!」

「さ……く……」


 リーテちゃんの声と鼻をすするような音の後、バルクは大きく跳躍して遠ざかっていった。


「───もうそろそろ、いいかい?」

「えぇ、律儀に待ってくれてありがとう」

「いやぁ、4対1は流石に厳しいと思うのでね。逃げるなら逃げてもらった方がいいんだよ」

「4対1……?」


 どういうこと? 隣のSOは戦わないということ? まさか同等級の私たち2人なら1人で十分ということだろうか。

 いや、そもそもあの魔人は3等級以上だった……? 魔力は隠しているだけということ? ならまずい、私たち2人では時間稼ぎもできな───


「あぁ、いや、戦うのはこっちだけだよ」


 そう言って白衣の魔人が指さすのはカニのSO。

 ───私たちを舐めてるの……? 見たところ4等級ぐらいのSOに、私たちが敗北すると思っているの……?

 あの魔人も私たちの実力ぐらい見抜けるはず。なのに、カニしか戦わないっていうのは一体……


「私は研究者でね。戦闘は苦手なんだよ……」


 やれやれ、と首を振る魔人に、私とレイドちゃんは唖然とする。

 に、苦手……? 魔人に至るSOが戦えないとでも言うの?


「この体も実験の賜物さ。私自身の強さじゃない」

「自分の体を実験台にしたってことか……?」

「あぁ、幸い、素材は無限に生まれるのでね。半端に生まれた同族……とかね。くくっ」

「ッ───」


 レイドちゃんの質問に、嘲るように答えた魔人に狂ってると声に出しかけたけど、押し殺した。下手に刺激するべきじゃないと思ったから。


「そこのカニくんも実験の成果物のひとつでね。やっと完成したんだ」


 カニのSOを見て光悦の表情を浮かべる白衣の魔人は、やはりマッドサイエンティストと言うに相応しい感性をしているらしい。


「今回は彼の評価試験も兼ねていてね。いやぁ、やっといい出来のモノを生み出せたよ───少し懸念点が出来てしまったが」


 ───仮にも同族を、どうして実験材料やら実験台にできるのか。

 戦闘出来ないと言うなら、まずはあちらから壊そう。例えSOと言え、命をなんとも思っていないあれは、嫌悪すべき存在───居てはならない存在だ。壊さなきゃいけない存在だ。


「だからさ、ついでに君たちでも実験させてくれよ。普通の魔法少女なら、問題なく下せるという証明のために」


 そんなの知るかと、嫌悪感と魔力を乗せて、魔人目掛けて思い切り鎌を振る。

 ───あなたの死で、戦いの火蓋を切る。

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