11月27日(日)
よく晴れた日曜日の午後三時のおやつ時、小腹がすいて駅前のドーナツ屋に入ってゆったりしていると、タツミが友達と三人連れで入ってきた。あれはたしかウリタさんとヨシオカさんだ。三人は俺には気づかず、レジでドーナツを買った後、俺の席から対角線上の窓際の席に座った。
今日は、時間のせいなのか店内の客が少ないので、俺の席からタツミたちがよく見えた。きっとあちら側からも同じだと思うが、気づかれる気配はない。
なんとなく、俺は三人娘の方をボーッと眺めてしまっていた。他に見るものも特にないためかもしれない。周りを見回しても変わりない店内の風景と、少し離れた窓の外には休日を楽しむ人の群れ。三人娘以外はありふれた日曜日の風景でしかない。
店内のBGMが小さいのか、それとも店が空いているせいか、はたまた三人娘の声が大きいのか、ときどき会話が聞こえてくる。ほとんど内容まではわからないが、服の話とか、アイドルの話とか、何か愚痴めいた話をしているらしい。よくある女の子の会話だ。それはつまるところ、俺が聞いても特に面白みのない会話……、
と、思っていたら、
「……マツザキくん……てるよね?」
聞き捨てならない単語が聞こえたような気がした。それは多分ヨシオカさんの口から発せられた。当の本人としてはその内容が非常に気になって仕方ないことやるせない。自動的に俺の耳感度は限界値まで高まる。呼吸を整え、全神経を耳へと集中させる。
「……でも………………あるよね?」
これはウリタさんだ。誰が喋ってるかはわかっても、言葉は不明瞭だ。推測できるだけの最低限の単語すらわからない。ドーナツを楽しむ余裕がなくなってきた。ほとんど味のわからないドーナツを食べながら、なんとか会話を聞き取ってやろうと頑張る。
「………………いよ……とっても……だから!」
これはタツミ。なにやら語気が強い。だが、怒っているようにも、抗議しているようにも、単に盛り上がってるようにも聞こえたり聞こえなかったり……ダメだ、何もわからない。しかし多分トークテーマは『
「マツザキくん……そこは……………かわいい……特にね」
ヨシオカさんだ。そして、また俺の名だ。さらに、何やらポジティブな単語も混じってるぞ。かわいいと言われて喜ぶ俺じゃないが、かわいくないと噂されるよりはマシだ。
いや、しかし待てよ? かわいいは
三人娘の声が急に小さくなり、こっちまで聞こえてこなくなった。自分たちの声のデカさに気がついたのかもしれない。ヒソヒソ話するでもなく、少しトーンを落としながらも会話は続いている。俺がいくら頑張って耳をすましたところで、内容を聞き取ることはもう不可能だった。
何やらモヤモヤが胸の中にあったが、そんなのは気にするだけ無駄だった。誰だって噂話や、その場にいない誰かの話題で盛り上がったりするもんだ。特に女の子はそうだ、と俺は勝手に思ってるが、どうだろう? そんな女の子の話をいちいち真に受けたり必死になったりしてどうする? そんなの女々しい男のやることだ。俺はついさっきまで盗み聞きに必死になっていた自分を反省した。
さて、俺はもう既に三十分はドーナツ屋にいた。ドーナツもないし、そろそろ店を出たかったが、店を出るにはどうしても三人娘の真横を通らなければならなかった。盗み聞きに必死になっていた身としては、なかなか出づらい状況だ。
なので、三人娘が出るまで待つ。それから三人娘はたっぷり四十分もドーナツ屋に居座りやがった。どーして女の子はそんなに長く話すのか、あと、店の回転率とか考えないのか、いや、それはいいか、店空いていたし……。
しかしそのおかげで俺は、ドーナツ屋にドーナツ二つとドリンク一杯で一時間ほど居座る男になってしまった。多分気のせいだと思うし、思いたいのだが、店を出るときの店員の目が、なんとなくトゲトゲしかったような気がした……。
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