第68話 理解の限界

敵航空機編隊てきこうくうきへんたい、作戦地域外へ離脱しました。」


 レーダーに映った機影が本物であれば、最低でも2個小隊程度は降りているはずだ。

 航空機からパラシュートが降りた現物を見た三枝軍の現地部隊には動揺が広がっていた。


「おいおい、空挺降下されたぞ、指揮所の対応策はどうなんだ」


「一切、無視しろってさ」


「、、、指揮所の連中は、現場を見ていないからそんなことを言えるんだ。」

 

 現場の高校生たちは、口々に指揮所への不信感を言い始めた。

 それは、現場指揮をしていた54連隊の下士官の耳にも入っている。


「さすがに現場が動揺しているな、自分たちの後方に精鋭部隊が降下してきたんだから無理もないが、これは俺たちもどうかと思うがな。」


小隊長クラスもそのように話し始めた。

それを聞いた第3小隊長の昭三は、この疑問に対する回答を、指揮官である兄龍二に聞くのは自分の役割だと感じていた。


「こちら3小隊長、司令お願いします。」


 それを聞いた優は、龍二に声をかける


「三枝君、昭三君から無線がはいっているけど、どうする?」


 この質問は、小隊長クラスの無線に、本来指揮官が直接回答しない慣例から来ていたが、龍二にはその質問の内容が予想出来ていたため、無線を繋ぐ許可を出した。


「3小隊長、こちら司令、用件を送れ」


「司令、こちら3小隊長、先ほどの空挺降下に、現場の動揺が広がっている、後方に部隊の一部を割いて、空挺部隊を止める必要があると考える、送れ」


 この無線は、聞くだけなら全員のスマートグラスで傍受することが出来る、つまり、そこまでは第一師団長の読みは正解であった。

 逆に、どんな内容であっても、それは全員の耳に入ってしまうため、優はこの後、龍二が昭三になんと言って宥めるのかが気がかりであった。

 常識的に考えれば、前進を止めてしまえば日没までに目標位置に到達出来なくなる、それは作戦全体の時間軸じかんじくが間に合わなくなることを示している。

 もちろんそれが、第1堡塁陥落だいいちほうるいかんらくだけであれば、まだ間に合うかもしれない、しかし、今回の目標は、第3堡塁だいさんほうるいの完全攻略である。

 時間が無いのだ。

 全てが順調に行って、ギリギリ間に合うかどうかという時間計算である。

 それが既に、緒戦しょせんにおいて砲撃による妨害と、速力低下、想定よりも早い下車展開げしゃてんかい、全てにおいて間に合っていない。

 それ故に、後方の空挺部隊に時間と兵員を割いている余裕は当然ないことは、優にも理解できていた。

 龍二は無線のマイクを持つと、静かに言い放つ。


「司令である私のことを、まず信じることが、本作戦の最も重要な部分である。先の空挺降下作戦は、敵の偽降着ぎこうちゃくである、もし疑うのであれば、一部斥候員せっこういんを割いて確認をしてもかまわない、ただし、これが偽降着であったことが確認されたなば、以降、司令の指揮には従順に従うように。以上通信終わり。」


 これには無線傍受中の全員が驚いた。

 そして一番驚いたのは、指揮所にいた参謀陣さんぼうじんであった。

 それは、だれも予想しない発想であったからである。

 まず、敵が空挺降下を実施するという考えが無かったからである。

 実施規定では、空挺部隊の運用規定うんようきていがない、つまりそれは実施規定違反ギリギリを突いてきた奇襲作戦きしゅうさくせんである。

 それ故に、それに対抗する手段などを持ち合わせているわけがないのである。

 、、、優はここで気付いた、またもやこの三枝龍二という男は、自分の理解の限界を簡単に越えてしまうと言うことに。

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