第64話 半日分の食料
「おい、こんな手前で下車させて、本当に大丈夫か?」
城島が、少し不安そうに話した。
サッカー万能少年だった城島からすれば、今回参加している高校生兵士諸君は、いかにも運動神経が劣っているように感じられた。
それは、城島の抜きん出た運動能力からすれば当たり前かもしれない。
「三枝君には、何か考えがあるんじゃないかな、さっきの作戦も、正直正攻法では考えにくい部分が多いよね、だから今回のこの距離感も、何か考えがあるんだと思うんだ」
優が言う通り、龍二には考えがあった。
それは凡人から見れば他愛のないこだわりかもしれない。
しかし、そこが三枝家次男の非凡さ故である。
そんな二人の会話に入るでもなく、龍二は優の耳元にそっと囁く
「ご明察、、、。」
優は少し照れながら、やっぱり何か考えがあっての行動なのだと感じた。
「下車地点に到達したならば、各人は最低限、一日分の水と食料、携行可能な弾薬類をもって下車せよ。特に女子については、食事も半分に減らし、装備を軽くするように。」
龍二が無線を通じて、各車両部隊にそのような指示を出した。
「おい、ちょっと待て、半日分の食料では流石に女子高生であっても持たないぞ」
城島が龍二を制するようにそう言うと、幸もそれに続くように
「ちょっと、女子もそれなりにお腹空くんだから、特に行動訓練中は、やっぱり、、、ねえ。」
可愛い後輩達の空腹が気になり、流石の龍二の言葉にも苦言を呈す。
「大丈夫だ、夕食までには戦場を一端整理できる。」
龍二が珍しく強がっているのかと一同は一瞬感じたが、それが彼の本気であることを次の瞬間に悟ると、その場の空気は一変した。
先ほどの作戦が、それほどまでに効果があるのか、またはよほどの自信があるのか、一同は見極め予ていたのである。
この頃、第一師団司令部では、日暮れと同時に三枝軍の総攻撃を待ち受けるべく、それはまるで蟻の入れる隙間も無いほどに防御準備を徹底していた。
本来、戦闘力が同数同士の場合、待ち伏せをして防御した方が圧倒的に有利である。
この時代にあっても、陸戦における攻撃、防御の優越は未だ防御に圧倒的な利があるのである。
今回は当初から、三枝軍側が攻撃であることから、高校生兵士と現役56連隊の参加を了承し、第一師団との戦力比は3対1の妥当なもののように見えた。
これは、作戦上の最低限のマナーと言えた。
それは大人と子供の戦いにおいて、さすがに戦力比が1対1では大人げない、という配慮もあった事だろう。
しかし、そこは第一師団司令部参謀、抜け目はないのである。
第一師団の作戦は、まず少ない兵力の劣性を補うべく、徹底的に地形を利用し、要塞砲と鉄壁の防御を有効に活用しつつ、三枝軍が行うであろう、
場合によっては、防御の最大の利点である、要塞陣地防御の陣地戦を捨てて、
それは、三枝軍の裏をかく作戦と言えた。
よもや、防御陣地の利点を捨てて、陣前に突進してくるとは思っていないであろう、と言うギリギリの作戦立案であったが、今回の師団司令部の肝いり作戦でもあた。
また、戦力比が3対1であれば、その他のオプションとして海軍、空軍に
もちろん、この調整は相手から断られた場合には無効となるため、陸海空三軍の合同組織である国防大学校が、調整に有利に思えるが、実際には防衛大学校時代のコネクションを使うことで、第一師団側が、調整能力は明らかに抜きん出ていた。
この時代の陸海空三軍は、共同作戦を取らなければ戦闘することは困難であり、
第一師団は、まさにこの部分にも目を付けていた。
他軍種(陸海空の軍種をまたぐ)との調整能力が著しく乏しい三枝中尉率いる学生連合部隊にとって、それは最も急所であると、第一師団は考えていたのである。
そして、戦術面でも秀才として知られる三枝1尉、その弟である三枝中尉もまた、同様に
、、、実際それは正しい現状認識と言えるだろう、、、いや、ある意味正しく、また正しくないのかもしれない。
三枝龍二のそれは、兄啓示のものとはまた異質なものである、兄が作戦面において秀才であるならば、三枝龍二は天才と評価すべきであった。
逆に、これは国防省内では一部で囁かれていることではあるが、兄啓一の方は、作戦面において秀才であっても、物理学の世界では天才と呼ばれていたのである。
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