第46話 昭三の本気

部長「三枝、結局この戦いの目標地点はどこなんだ?」


昭三「はい、そうですね、目標は地点ではなく事象です。つまり僕たちの置かれた状況を世間の目に触れてくれればいいのです。」


経塚「世間の目に触れたところで、何かが変わるのか?」


昭三「そうだね、少なくとも僕たちの行動は正義であると示さなければならないよ。」


経塚「マスコミを通じて世間に知れれば、俺たちはともかく、三枝がただではすまないぞ。・・・お前、まさか」


昭三「聞いてくれ経塚、これだけの協力を得て、敵は陸軍本体。むしろ男子の本懐だ、しかし君たちを犠牲には出来ない。」


経塚「言いたいことは解るが、おまえ達二人を守りたくて、これだけの人員が集まったんだぞ、みんな納得なんてしないさ、それに世間がこのことを知っても、どれだけの人たちがお前達の側に付いてくれるか解らんぞ!」


昭三「それについては多分大丈夫だ、事実君たちがその結論を、ここで出しているじゃないか。」


 その通りであった。

 三枝という名前は、今や日本国内に留まらず、新国連加盟国の中でも話題の名前である。

 その兄弟と将軍の娘が引き起こす、儚い恋いの行方など、世間は放っては置かない恰好の題材である。

 こんな短い時間に彼はそこまで考えている。

 指揮所にいた主要メンバーは、やはり三枝家はさすがだと感じていた。

 元々何のプランも無く発生した今回の騒動に、作戦を立て勝算を導き、そして他の者達のその後の将来まで考えて行動する。

 本人は意識していないが、昭三もまたカリスマの臭いがする男なのである。


昭三「大まかな作戦はこの通りです。何か質問は?」


経塚「休日で少ないが、学校の教職員と要員はどうする?拘束し続けるのもやっかいだぞ。」


昭三「それについては1名のみ抽出して、あとの人たちは校外へ解放しよう。」


部長「いいのか、人質としての価値はあるぞ」


昭三「先輩、我々は義軍でなくてはなりません。そのため、不必要に拘束という残虐性の強い行為は仇となります。抽出の1名、人選はお任せします。」


 そこで、総意としてすぐピンと来たのは、昭三の区隊長である錦織大尉であった。


昭三「ああ、錦織区隊長か、なるほど、それは名案だと思う。僕たちに一番理解のありそうな人だしね。」


 こうしていくつかの質疑応答があった後、昭三は前線指揮官と、本部後退指揮者、補給担当者、警戒監視シフト隊長などを暫定的に決めると、任務完了時刻と今後の作戦会議時間を示して一同を解散させた。


経塚「お前、さすがだな、モジモジしているだけだと思ってたら、仕切るもんだな。」


昭三「正直、自分でも驚いている。自分にもこんな一面があったなんて。佳奈さんのお陰かな?」


 経塚は少し笑って、自分の持ち場に帰っていった。長い一日になりそうな予感を胸に。

 



 海軍の敷地に入ることができたのは、清水大尉の身分により、基地指令の許可が降りた二時間後のことであった。


清水「いやあ、意外と待たされたね、海軍側も相当混乱しているようだわ。祝日だから当直の対応で、回ってないようね。」


 清水大尉が言うとおり、海軍側も情報収集に追われ、混乱状態であった。

 もっとも、実働に加わっているわけではないため、静観しているだけであったが、基地始まって以来の大事件であることは間違い無かった。

 龍二達は、一番高い建物の屋上に上がると、陸軍用地居全体を見回した。

 生徒会のメンバーは漠然と地形を大観していたが、この時龍二は全体を掌握し、次に何が起こるかを予測しようとしていた。

 そんな時である。屋上の清水に海軍の当直伍長より連絡が入った。


「大変です。陸軍工科学校の生徒数百名が、北側方向に向け前進しています。」


 それは同時に彼らの目にも見える所まで来ていた。

 近代戦術では見慣れない、随分古いタイプの前進要領に見えた。


龍二「昭三のやつ、本気を出したな、」


 龍二がつぶやくと、清水が声をかけた。


清水「三枝君、どうする気?止めるなら今しかないと思うけど。」


城島「そうだな、あれは弾薬庫だろ、あいつら弾薬に手を掛けるつもりだな、シャレにならんぞ、ただのお祭りでは済まされない、その前に止めなければ!」


 しかし龍二は顔色一つ変えず、こう言い放つ。


龍二「いや、このまま静観しよう。」


 再び一同は驚いた、どうしてこうも落ち着いていられるのだろうと不思議であった。

 実の弟が、反乱の首謀者となってしまう状態を目にして。

 この時代であっても国家反逆罪は即死刑である。


北条「おい、三枝中尉、ちょっと違うんじゃないのか?喧嘩を預かるって言ってたよな。」


龍二「北条さん。私は昭三のその覚悟を見極めなければなりません。大丈夫、考えがありますから。」


 そんな会話をしている間に、北の歩兵連隊が、北上してくる生徒達を警戒して警戒線をやや下げようとする。


 陸軍同士の駆け引きが始まった。

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