それでも勇者を救いたい~最弱職「幻術師」の少年は世界を騙す~

作者 寺田香平

幼き日の誓い。少年は人々に“夢”を与えながら理不尽な運命と世界に挑む!

  • ★★★ Excellent!!!

 職業としての『勇者』がある世界で、勇者に憧れる少年が主人公の物語。が、10歳になると行われるステータスを確認する儀式で、主人公は『勇者』では無く『幻術師』の職業だと判明してしまう。一方で、幼馴染の少女こそが正真正銘『勇者』の職業を授かるのだった。
 勇者という華々しい職業に対して、しかし、周囲の反応は主人公の予想とは異なる。聞けば、どうやら勇者には過酷な宿命と理不尽な未来が待っているようで…。
 これは、幼い約束を胸に秘めた少年が幻術で人々を、世界を欺く物語──。

 一人称で進む物語はまず、とても読みやすいです。口調も淡々としながら随所に主人公“らしさ”がある。そのためスッと世界観に入り込むことができて、物語に没頭できます。

 本作の魅力はまず、嫌味のない真っ直ぐな性格の主人公です。誰もが一度は持つだろう“憧れ”を変わらない情熱で持ち続ける姿には好感を持たずにいられません。あらすじにもあるように、早々に彼の勇者になるという夢は打ち砕かれます。それでも卑屈にならず、前を向く。どこまでも純粋な思いを持つ姿には清々しさがあって、ストレスなく物語を読み進めることができます。

 そんな、スッキリとした読み口で描かれるのは、1人の少女を救おうとする少年の物語。少年はもちろん主人公で、少女は幼馴染のヒロインです。
 ステータスが明かされた日、主人公は2つの意味で絶望します。1つはもちろん、勇者になれなかったこと。しかし、もう1つのこと──主人公が憧れていた『勇者』という存在に待っている、あまりにも理不尽な未来に主人公は衝撃を受けます。その内容は本編のお楽しみとして、未来を変えることを主人公はヒロインと約束します。

 幼く、考えも、根拠もない約束。それでも主人公には唯一つ、特別な“想い”だけがありました。それはある種の誓いとなって『幻術師』として生きていかなければならなくなった主人公に、新たな進むべき道を示してくれるのです。

 幼き日の誓いを胸に、こうして主人公の努力の日々が始まります。他者に幻術を見せるだけの力。戦いには不向きで、世界を変えるだけの力を持っているはずもありません。それでも腐らず純粋に努力を重ね、傲慢不遜にも世界へ挑み続ける主人公…。もう、最高じゃないですか?

 いつだって、頑張っている人の周りには感化された人々が集まるものです。本作でも主人公の周りには癖のあるキャラクターたちが集まって、主人公に足りない部分を補って、支え合っていきます。時々ふざけ合いながら、それでも皆で手を取り合って、世界へ、常識へ挑む姿。応援したくなること必至です!

 非力な『幻術師』の少年でしかない主人公が仲間と協力し、やがて世界の理すらも騙して、勇者であるヒロインにも“夢”を見せてしまうのか。今後に期待せざるを得ません。万人受けしそうですが、頑張る主人公が好きな人には特にオススメしたい作品です!

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