Stage3-2 楽園に至るまで。一夏の大目標
◇時系列がプライベートビーチでキャッキャウフフより前です◇
「ふぅ……これでしばらくは俺たちも休めるな」
激動の学院魔術対抗戦からはや一ヶ月が経った。
その間、俺たち新・生徒会は働きづめで、毎日クタクタになっていたのはもはや懐かしい記憶。
というのも、学院が急遽長期の休校になることが正式に発表されたからだ。
【雷撃のフローネ】が黒幕として起こした魔法学院の生徒をターゲットにした大量殺人事件。ならびに過去においてラムダーブ島で起こした惨劇の数々。
罪はそれだけに収まらないのだから、奴の凶悪さは常人でははかりきれないところにあるのだろう。
そんな【雷撃のフローネ】が学院長として君臨していたのがリッシュバーグ魔法学院だ。
当然、国からの徹底的な調査が入る。
あの女がなにか痕跡を残しているとは考えにくいが、それでもしない選択肢はない。
学院全体をくまなく捜索するため。
これが一つ目の理由。
もう一つは在校生とのメンタルケアのためだ。
今回の一件を受けて、数多くの休学希望届が提出された。
まっとうな精神を持つ父母ならば、あんな大量殺人犯が通っていたところに大切な愛息、愛娘を預けるのは忌避するのも当然。
特に生徒全員が貴族の生まれであるリッシュバーグ魔法学院は影響が大きい。
自分たちで家庭教師を雇うことだって可能だからな。
魔法学院で受けられるカリキュラムに劣るとはいえ、命の危険が無い方が流石に優先なのも理解できる。
いつまた行方をくらましているフローネが学院に戻ってくるかもわからないのだ。
そんな事情があり、学院側は生徒の長期休暇。および学院の一時閉鎖の判断を下した。
そんなわけで俺たち生徒会はちょうど最後の見回りを終えたところだった。
「みんなで回って改めて思ったけれど
アハハ、と苦笑いするカレン。
確かに分担すればもう少し早く終わったのだろう。
だが、俺が希望して全員で固まっての移動となった。
理由は簡単。
【雷撃のフローネ】は俺を敵として認識している。
レイナの話を聞くに、どうも奴は俺を危険因子として敵対視しているらしい。
それに加えて、俺はレイナという奴の育てた駒を奪った。
故にいつ襲撃されてもおかしくないと思っている。
その際に比較的、戦闘力がないカレンは危険だ。一人にしておくのは愚行。
俺、マシロ、レイナがいれば最悪即死はないだろう。
「すまないな。だが、これも事情が」
「あぁ、ごめん! そういう意味じゃないよ? それにあの時の言葉は嬉しかったし……」
「……?」
指をツンツンとさせるカレンの声は尻すぼみになって最後の部分だけ聞き取れなかった。
あの時の言葉……というのは、みんなで行動することを提言したときのアレだろうか。
『全員で見に行こう。俺の元から誰も奪われたくないからな』
底抜けなしの明るさでよどんだ空気も清浄してくれるゆるふわ同級生。
俺の好みを理解しても大好きオーラを出してくれる婚約者。
最近は俺をからかうことに楽しみを覚え始めたからかい上手の義姉。
絶対にフローネに奪われるわけにはいかない。
この俺の考えた最強のハーレムを守るためならなんだってしてやる。
なので、本心をそのまま口にしただけで特に変な意味で言った覚えはないが……。
まぁ、いいだろう。それよりもこのまま解散する前に一つ、話しておきたいことがある。
俺は椅子に座って、背もたれにもたれかかっているマシロに向き直――うお、でっか……。
全身を椅子に預けているせいで、そり上がった彼女のおっぱいがとんでもない主張をしていた。
ギチギチとボタンがはじけ飛びそうなほどだ。
大きいおっぱいにいじめられて制服がかわいそう……と、そうじゃなかった。
俺はなるべくおっぱいに目がいかないよう――無理だ、これ。どうやっても視界に入り込んでくる。
いっぱい食べて、よく寝る子は育つと言うが……もしかして入学時よりもまた成長していないか?
……仕方ない。もういっそのことおっぱいにしゃべりかけよう。
「マシロ。例の件、ご両親は承諾してくれたか?」
「うん~。よろしくお願いしますって返事貰ったよ~」
「……そうか。それならよかった」
おっぱいがしゃべってる。
マシロが言葉を発するだけで胸が上下して……え、腹話術か?
「ふふっ、マシロさんはすっかり疲れてしまっているみたいですね」
そう言って彼女の前にティーカップを置くのはレイナ。
俺たちがやりとりしている間に淹れてくれたのだろう。
相変わらず良い香りが漂っている。
「こちらはカレンさんの分……。はい、オウガ君もどうぞ」
「ありがとう」
礼を言って、すっかり慣れた生徒会長の席に座って一口含む。
ふぅ……レイナの紅茶は相変わらずおいし……ん?
味の違いに違和感を覚える。これはいつもより……苦い? 渋みが強いというか……。
「ふわぁ~。美味しい~」
「うん、とっても。ありがとうございます、レイナさん」
「いえいえ、私も一息つきたいなと思ったところですから」
同じ物を飲む二人に変わった様子はない。
マシロはほわほわで、カレンも表情を取り繕っていない……ということは。
「あら? どうかしましたか、オウガ君?」
犯人は全く目が笑っていないレイナでした。
……これはマシロのおっぱいを凝視していたことに気づかれているな。間違いない。
それについて怒っているといった感じか。
「いや、なんでもない」
俺はグイッとレイナの
「もう一杯、もらえるか?」
「……わかりました。ちゃんと愛情を込めて淹れますね」
どうやら反省の意思が伝わったらしい。
今の言葉から察するに、今度は美味しいいつものレイナの紅茶が運ばれてくるだろう。
まだ口の中いっぱいに苦みが残っているが、おかげで意識がおっぱいではなく現実に戻ってきた。
「じゃあ、事前に伝えていたとおり、マシロはヴェレット領に案内する。荷物はアリスが手配している荷馬車に詰め込むように」
「わかった!」
元気の良い返事でよろしい。
これはこれでまた別の事情があって、しばらくの間、マシロはヴェレット家で預かることになった。
フローネがマシロを狙っていることが明確になったからだ。
レイナの証言もあり、間違いなく奴はマシロを欲している。
その理由は俺では思いつかないもの。
【輪廻転生】。
俺が別世界から魂をもって、この世界に転生してきたのと同じように。フローネは今の肉体から、新たな肉体へと自分の魂を移し替えようとしている。
そして、新たな器として奴のお眼鏡にかなったのがマシロ・リーチェ。
これらはレイナの証言から得られた確実な情報。
……と、暗い話はここまでにしておくか。
せっかくの美味しい紅茶も冷めてしまう。
それにフローネの件はいずれじっかりと話し合うことになるだろうしな。
とにかくそんな危険な状況下にあるマシロを易々と故郷に帰すわけにはいかなくなった。
ならばどこに行くのか? と問われれば、この世界で最も安全な場所は間違いなくヴェレット領になる。
また保護の対象はマシロだけじゃない。
「これで全員がオウガの家に集合かぁ。お泊まり会みたいですごい楽しみだね」
カレンもヴェレット領にて預かることになっている。
彼女については先日、マシロを父上と共に守ってくれたお礼をしにレベツェンカ家を訪問した際に直接お願いした。
『大切なカレンの命を俺にも守らせてください』と。
すると、『好きにすればいい』と許可をもらえたのだ。
カレン父も王太子との一件から変わりだしているのかもしれない。
とにかくカレンも我が家で預かることになり、これで生徒会メンバー全員がヴェレット家でしばらく生活を共にすることになった。
もちろん、カレンをそばに置いて安心感を得たかったというのもある。
だが、俺の真の狙いは別にあるんだよ……クックック。
「というよりも実質、お泊まり会だな。変に気負わず、それくらいの気持ちで楽しんだらいいさ」
「はいはい! この間のパジャマパーティーも楽しかったし、またみんなでお菓子食べながらおしゃべりしたいです!」
「いいですね。私も楽しみです」
休暇中をどのように過ごすか、良い感じに話は進んでいる。
和気あいあいと盛り上がる三人を見て、思惑通りに事が進んでいると確信した俺は内心ほくそ笑んでいた。
こちらの世界に四季という概念はないが、近頃は暑さが増しており、前世で言う夏へと入っている。
夏は人の気持ちを開放的にさせ、行動を大胆にさせると言う。
そう……つまり楽しい雰囲気から、そういうムードに突入してもおかしくないわけだ。
当初の俺はまだまだハーレムを増やすまで手を出すつもりはなかった。
究極を求めるならば世界中の可愛い女の子をみんな俺の女にしたい。
そういう悪役思考で動いてきたからな。
しかし、レイナを身内に抱え込んだ現時点で、もうそのルートからは外れてしまったと言っても過言ではない。
圧倒的才能を持つマシロを常にそばに引き連れ、四大公爵家の一人娘と婚約をし、【神の子】と呼ばれる世界で有数の魔法使いを義姉にした。
もうここに新たにハーレムの一員として加わろうと思う人物はそうそういないだろう。
もし、存在するならばレイナのように相当の覚悟を持っているか、アリスのように俺に狂信的な想いを胸に秘めているか。
どちらにせよ、そう簡単に見つかることはないだろう。
出会いの場であったリッシュバーグ魔法学院も休校となり、八方ふさがりに近い。
であるならば、そろそろ次の関係に踏み込んでも良いのではないだろうか。
そう、俺の目標は……この夏で一人前の大人になることだ……!
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