第38話 現状報告

 また面白い記録が出るのだろうか。

 個人としての記録は、直史と大介で、おおよそ更新してしまっている。

 あと一部には上杉や武史も。

 ただチームとしての記録はどうなのか。

 それも一部は更新しそうである。

 ただ得点記録や失点記録は、時期によってルールの変更があるので、なかなか更新はしにくいところがある。

 あと個人の打撃成績は、ドーピング時代とそれ以外を明確に分けて欲しい。


 メトロズに期待されているのは、連勝記録である。

 なにせ八月になってから、まだ一度も負けていない。

 ただこのMLB記録は26連勝と、極端に言えば八月の全試合を勝利して、ようやく更新できるというものだ。

 さすがにそれは無理にしても、月間勝率記録などは、また期待されている。


 ちなみに個人記録であると、武史の奪三振記録は、おそらく更新できない。

 いくらなんでもというわけで、武史相手にはある程度、ミート重視のバッティングをしていくバッターが増えたというのがある。

 他に記録で期待されているのは、大介のホームラン関連の記録か。

 あれだけ怪我で欠場したのに、もう60本に到達している。

 今年は珍しく、と言うべきなのか、盗塁数をホームラン数が上回っている。


 大介の連続試合ホームラン記録なども、現在ではMLBのタイ記録となっている。

 驚くべきは大介の場合、実は爆発力ではなく安定性なのだ。

 優れたバッターが月間MVPに選ばれるような記録を、年間を通して残している。

 アベレージスラッガーは伊達ではないのだ。

 もっともこの八月、大介は完全にスラッガー化している。

 それでも三割台半ばの打率を残しているので、やはり化け物ではある。

 八月のヒット15本のうち、八本がホームラン。

 これで打率までいつも通りであれば、絶対にまともに勝負はされないだろう。

 なお本人は狙ってやっているわけではない。




 この時点でのそれぞれの地区の状況である。

 まずはナ・リーグ東地区からだ。

 メトロズが完全に抜け出して、その後をアトランタが追っている。

 おそらくポストシーズンに進むのは、この2チームになるだろうと思われる。

 フィラデルフィアは勝率五割を維持していて、チーム再建がされつつある。

 ワシントンはまだ再建中で、マイアミには光明が見えてこない。

 ひどい話であるが、マイアミはかつての一時期のオーナー時代の負債を、いまだに抱えているのだ。


 ナ・リーグ中地区では、ミルウォーキーとセントルイスが競っている。

 シカゴまで含めた3チームが、ポストシーズン候補としていいであろう数字を残している。

 ただ東にメトロズ、西の戦国時代に比べると、中地区はそこそこ平穏と言っていいだろう。

 地区優勝がどのチームになるかは微妙なところであり、また勝率によって三位のチームがポストシーズンに出られる可能性も、それなりに残っている。


 そしてナ・リーグ西地区では、またも三すくみが完成していると言おうか。

 いやこれは、別にどことどこの相性がというわけではないので、強力なチームの潰しあいと言っていいか。

 一時期首位だったトローリーズが陥落し、サンフランシスコが首位に。

 そこをサンディエゴが狙いつつ、二位の座をキープ。

 しかしまたトローリーズは勝率を上げてきて、ほぼこの3チームにポストシーズンは絞られたか。

 だが統計の偏りが発生すれば、四位のコロラドがまだポストシーズンまでは狙えるかもしれない。


 ア・リーグは東地区が大混戦だ。

 ボストンとラッキーズは、その首位を争って、ほぼ2ゲーム差以内に相手をとらえている。

 同じ地区のチームであるので、直接対決で逆転がすぐ可能なのだ。

 ただこの2チームに絞られたわけではなく、トロントとタンパベイも、勝率五割以上を維持している。

 中地区でミネソタが突出しているだけに、三位までには充分にポストシーズン進出の機会がある。

 ここはやはりボストンとラッキーズが共に人気球団のため、個人の大記録を除いては、一番順位争いが熱い地区となっている。


 中地区は前述の通り、ミネソタ一強だ。

 同じ地区のチームにとにかく勝ち続けているため、他のチームの勝率が落ちている。

 一応は二位はクリーブランドとなっているが、勝率は五割ぎりぎり。

 このため東地区からは、3チームがポストシーズンに進めそうになっているのだ。

 ミネソタとしては、地区優勝からリーグチャンピオンまで、その道筋は見えたと思っていただろう。

 アナハイムが故障者により落ちた時点で、それは確信したはずだ。

 しかし直史のまさかの移籍で、ワールドチャンピオンへの道のりはとてつもなく険しくなった。

 そりゃないよ、と一番言いたかったのはミネソタかもしれない。


 西地区はアナハイムが脱落し、ヒューストンとシアトルの争いとなっている。

 強いチームを作るのが上手いヒューストンだが、今年はシアトルも確実にポストシーズンを狙っている。

 ただそんな中、アナハイムにおいては、チーム以外の部分で問題が発生している。

 二年連続でワールドシリーズに進んだチームが、今は完全に五割以下。

 故障者続出が理由ではあるのだが、そこで直史を放出したのが悪かった。

 内幕をまったく知らないファンとしては、なんで直史を繋ぎ止めないのかと、フロントへの批判がものすごい。

 おかげでモートンは一部の資産を手放さざるをえなくなったりもした。


 アナハイムの内部事情については、他にも色々と噂されている。

 だがとりあえずターナーが来季には復帰できそうだというのが、いい知らせではあるだろう。

 樋口も外れている今季、アナハイムは育成に全てを注ぐべきだ。

 このまま負けが積み重なっても、むしろそれでドラフトの順位が上がれば儲け物。

 もっとも同じ地区ならオークランド、他の地区ならマイアミなど、最下位を邁進しているチームには及ばないが。




 各種タイトルについても、そろそろ噂されてきていいだろう。

 その中で最も異質な成績を残しているのが、直史だと言えようか。

 直史は七月までをアナハイムの一員として過ごし、そして八月からメトロズに移った。

 だがその時点で既に、25勝を上げていた。

 また規定投球回には軽く到達し、奪三振のタイトルなどもおそらく届くだろう。

 半年間のレギュラーシーズンのうち、四ヶ月だけの成績でだ。


 二ヶ月いなくても、ア・リーグのサイ・ヤング賞は直史のものだろう。

 三年連続となるが、過去にも四年連続までなら普通に前歴がある。

 そしてナ・リーグの方はおそらく武史が取る。

 七月末でこちらも、20先発18勝1敗。

 文句のない数字で、二年連続で双方のリーグの受賞となるのか。

 この二人がいる限り、他のピッチャーは取れないのではないか。

 NPBでは上杉がそんなことを言われたが、武史や直史が取っている。

 もっともそれは上杉独占が、この三人の寡占に変わっただけなのだが。


 バッターの方のタイトルは、ナ・リーグでは相変わらず大介が独占している。

 三冠王を簡単に取って、他のタイトルまでも普通に取っていく。

 骨折で離脱した時は、ようやく他のバッターにもチャンスが訪れたか、などと言われたりもした。

 しかし大介はバッティングにおいては、まさに破壊神。

 60本塁打に到達し、60盗塁も記録している。

 去年と同じだ、と言われればそうなのかもしれないが。


 ア・リーグの方もミネソタのブリアンが、打率とホームランの二冠となっている。

 ホームラン王と同時に取りやすい打点のタイトルは、ミネソタのバッターがそれぞれ強力なため、分散されてしまっている。

 またブリアンは走塁や守備においては、さすがに大介ほどの貢献度はない。

 それでも充分に、将来は殿堂入りしそうな、圧倒的なバッティングをしているわけだが。


 ア・リーグで問題となるタイトルは、それらではなくMVPだろう。

 あのまま直史がアナハイムにいるか、ア・リーグで投げていればMVPだったろう。

 しかしながらナ・リーグに行ったことで、ア・リーグとしてはブリアンが第一候補だ。

 このあたりどう判断すべきか、難しいところではある。

 直接対決ならば直史は、ミネソタ相手に二勝している。

 それも一つはサトーであり、もう一つはパーフェクトなのだ。

 選手としての対決を見た場合、それは直史の圧勝だ。

 だが勝利への貢献となると、評価基準が変わってしまうのが、難しいところである。




 タイトルなどよりも大介には、レコードの更新が期待されているだろう。

 怪我で離脱しながらも、蓄積型の記録を更新する。

 これは一年目のイリヤ事件があったのと、同じようなものであろうか。

 逆風の時にこそ、大介は記録を作り上げる。

 甲子園でも打たねばいけない時にこそ、場外ホームランなどを打ってしまった。

 もっともあの時は、まだ金属バットを使っていたのだが。


 あのまま打率は高く、しっかりと休んで完治してから、チームに復帰していればどうだったろうか。

 大介のいない時期、メトロズは八勝八敗であった。

 単にポストシーズンを狙うという意味なら、もう少し休んでから出てきても、充分に間に合ったのだ。

 規定打席への到達にも、充分に余裕はあった。

 しかし大介はさっさと怪我を治し、ホームランを打ちまくっている。

 おかげで打率は下がってきているのだが。


 ただ大介は打率など更新できなくても、別にいいだろうと思っている。

 そもそも19世紀の記録を見れば、更新できそうにないものが色々とあるのだ。 

 直史にしても30勝無敗であっても、過去の勝利数を超えることは出来ない。 

 大介はホームランや打点、そして出塁率やOPSで、充分に歴史を塗り替えている。

 ただ年間130盗塁などは狙わないし、打率についても打つべき時に打てばいいと思っている。

 打てるボール球を見逃していれば、打率自体は上がるはずなのだ。

 それでも打てるボールを打って、野手の守備範囲に飛んでしまう。

 しかし点を取らなければ、いけない場面というのはある。

 そんな場面で大介と勝負するのは、本当に直史ぐらいであるが。


 対決する相手がいない以上、大介は己のエゴを通してもいいのだろう。

 それぐらいの価値が、大介のプレイにはある。

 守備や走塁でも、大介は抜群の成績を残す。

 どうしてもローテの中でしか評価されない直史は、ほぼ毎試合出る大介に、貢献度では勝てない。

 だからこそ直接対決では、勝利を望んでいた。

 直史が勝負を避けたら、世間はしらけていただろう。

 もっともワールドシリーズで三勝して、四試合目も延長まで投げ続けたのに、負けたというのは直史の責任ではない。


 直史がこの先、クローザーとしてノーヒットのピッチングを続けたとする。

 そうすれば無安打記録は作れるのではないか。

 さすがに八月からクローザーにポジションを転向して、全て成功というのは、ハードルが高い。

 しかし出来ないはずのことをやってしまうという点では、直史は大介以上であるのかもしれない。


 なんにしろメトロズは、今年も記録を更新するチームになるのかもしれない。

 そしてレギュラーシーズンを圧倒して終われば、ポストシーズンもその勢いで勝ち進むのか。

 三年連続でワールドシリーズに進出し、今年はいよいよ連覇を狙う。

 21世紀以降、ワールドチャンピオンに二年連続で輝いたチームはいない。

 しかし今のメトロズなら、それも可能ではと思えてしまう。


 ニューヨークの街は、人気球団ラッキーズと、新たな人気球団メトロズが存在する。

 金をかけまくっているメトロズは、それはあれだけ金を使えば、とも言われたりする。

 ただコールなどからすれば、ちゃんとペナルティも払った上で、金をかけて何が悪い、ということになる。

 もっともシーズン序盤から、クローザーが埋まらなかったのは、かなり誤算であったのだが。

「死ぬまでにもう一度ワールドチャンピオンになるのを見たい」

 既に二度も見ながらも、そう願うコール。

 MLBのワールドチャンピオンチームのオーナーになるのは、アメリカの大統領になるよりも、難しいのかもしれない。



×××


 ※ 作中でさんざんに弱いと言われているマイアミですが、実際に弱いチームです。ただ過去にはちゃんとワールドチャンピオンにもなっております。

 なんで今はそんなに弱いのかは理由があって、そういうことも調べてみるとなかなかに面白かったりします。

 単純に言うと借金がものすごくあるため、せっかくいい選手が育ってきても、どんどん放出するしかないのですね。これをファイアーセールなどと言ったりしますが。

 ちなみにファイアーセール自体は、資金力に乏しいチームであれば、それなりにやっていることです。

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